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仁鶴さんの言の葉と良さ

2021年8月17日、上方落語の重鎮である笑福亭仁鶴さんが84年の生涯に幕を下ろした。
大阪訛りとバリトンのダミ声、それでいて柔和な語り口。テレビやラジオでのコミカルで優しい姿も人気で、読売テレビ「大阪ほんわかテレビ」やNHK「バラエティー生活笑百科」など長寿番組ではMCや「番組の顔」としてレギュラーを長らく務めた。特に後者は、「四角い仁鶴がまぁ〜るく収めまっせぇ」というオープニングの口上が全国でお馴染みだった。関西在住の僕にとっては昔から馴染みがあって、けっこう良い印象はあったが、訃報や追悼企画の名シーン集でさらに増長されたようなことを思うようになった。

仁鶴さんの訛りの良さ

滋賀育ち、京都在住で生まれてこの方関西訛りで話す僕だが、実は、個人的に芸人さんの訛りのキツい大阪弁はちょっと耳心地の悪さを感じていた。母は大阪育ちだが、京言葉や神戸弁に近しい北摂寄りの話し方。市内下町の大阪弁や河内弁、泉州弁などは慣れない人間。しかも、僕の地元湖北弁は近畿の端っこってこともあって訛りが薄め。そんな僕でも、仁鶴さんの大阪弁は訛りが強くても嫌ではなかった。

「仁鶴の話のネタ」

かつてのラジオでは高速でしゃべくる姿がある反面、「ほんわかテレビ」の「仁鶴の話のネタ」ではそれとは全く違う姿だった。落ち着いた1人語りで話題の人、モノ、コトを紹介、VTRを見た仁鶴さんが話題にかけたシャレを披露し〆るというコーナーがある。番組内の多くでは仁鶴さん(仁作役)、間寛平さん(かんばあちゃん役)始め出演者のほとんどがコメディの役柄の呼び名、ビジュアルで登場し、寛平さんは「アースマラソン」の際にも役柄に扮してビデオメッセージを送っていたし、追悼企画もそれらを踏襲し進行していた。しかし、「話のネタ」だけは、番組の顔である仁鶴さん素のままでの出演で真の仁鶴さんのイメージを形作るコーナーだった。僕の中でも、「生活笑百科」とこのコーナーで仁鶴さんのイメージが出来上がった。

寛平ちゃんの涙

「ほんわかテレビ」では長年番組を支えた顔として追悼特番が放送。名場面では体を張ったロケや共演者を笑かすシーンが多かった。そんな中で、寛平さんの「アースマラソン」でのシーン。前立腺がん公表の直後、仁鶴さんは寛平さんを励ますためだけに大阪からトルコへ出向いた。励ましの言葉をかけ寛平さんの肩をポンポン叩き、寛平さんは涙を流した。この姿を見ると、仁鶴さんがいかに多くの人に信頼され、心の拠り所としていることがよく分かる。

長らく親しまれてきた仁鶴さんの言葉や語り口、行動力に愛されるわけがよく見える気がする。年齢やキャリアを重ねると横柄になったり、学ぶことを止める人は多いが、仁鶴さんにはそういうことはかけらも無い。重鎮と呼ばれる人のあるべき姿なのだと感じる。噺家としての技量も相まって、一つ一つの言葉には重みがあって、喜怒哀楽関わらずいろんな人に影響を与えられる良き存在だったのだと思う。本業をあまり見たことない僕ではあるが、テレビで発する言葉の一つ一つだけでも、仁鶴さんがどれだけ凄い人なのかが分かるような気がする。

僕も含め惜しむ人は多々いるとは思うが、楽しませて頂いたことには仁鶴さんには大きな感謝したい。どうぞ、ゆっくりお休みください。

ストリートミュージシャンの投げ銭のような感覚でお気軽にどうぞ。