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性犯罪処罰規定の改正・1つの試案

「性犯罪に関する刑事法検討会」 取りまとめ報告書
https://www.moj.go.jp/content/001348762.pdf

を通読してみました。私自身、以前は検事、その後は弁護士として、性犯罪は処罰を求める側、弁護する側の双方で相当数に関与していて(その大部分は前者としてですが)、そのような経験も踏まえつつ、読みながら、いろいろと考えさせられるものがありました。

性犯罪処罰規定の問題点として、おそらく、広く共有されているのは、現行の刑法上の処罰規定が、処罰されるべきものを取りこぼしているのではないかということでしょう。

そのような問題意識に立ちつつ、1つのプランとして、現行規定はそのまま維持しつつ、新たに、その補充規定として、

保護監督する立場を利用し、偽計を用い、困惑畏怖させて、性交等、わいせつ行為に及んだ

という構成要件を設け、法定刑を比較的低く(5年以下の懲役または100万円以下の罰金程度)抑えるのはどうかと、私は考えています。

そして、ここが大きなポイントなのですが、「明らかに真摯に同意していた場合を除く」とし、逆に言えば、同意が明らかでない場合も処罰対象にするのが適当と考えています。

こう言うと、同意があり得るのに処罰するのはおかしいという反論が、当然、予想されますが、実務的に非常に多い弁解は、同意していた、和姦であった、といったものです。上記の新規定では、「性行為への自由な意思決定に不当な影響を及ぼす関係、手段を利用すること」を、処罰すべき行為と捉えますから、仮に、その結果として同意があったとしても、それは、規範的にみて瑕疵ある同意と捉えます。何ら同意がない場合と瑕疵ある同意がある場合を、共に処罰対象とし(その意味で、規定の性質としては危険犯という位置付けになると思われ、性行為に関する善良な秩序違反という社会的法益に関する罪という位置づけもあり得るかもしれません)、そういった幅のある態様であることも踏まえ、法定刑は比較的低く抑え、罰金刑も含めます。

海外では、同意がないのにあると誤信して性行為に及んだ、過失ある場合を処罰する規定を持つ国もあるようですが、上記のような規定は、そういった過失犯的なものも含める性格を持つでしょう。

上記の「明らかで真摯な同意」は、処罰阻却事由とし(手段に違法性があっても被害者側が明らかに真摯に同意している場合まで処罰するのは不当でしょう)、その立証責任は被告人に負わせるのが適当と考えます。不穏当な経緯で性行為に至る場合、その経緯による影響力を払拭した上で、明白かつ真摯な同意を得た上で性行為に及ぶ責任を被告人側に負わせておくのは、犯罪抑止、被害者保護にもなりますし、合理性があると思います。

こういった規定を設けることで、現行の刑法上の性犯罪規定から取りこぼされているケースを、適切な処罰の方向でうまく拾い上げられるのではないでしょうか。

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