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検察・黒川問題が終わってーこれからどうする?

黒川東京高検検事長を、官邸筋が無理矢理、検事総長に据えようと画策し、禁じ手の定年延長までやらかして押し込もうとしたものの、肝心の黒川氏本人が賭け麻雀スキャンダルで失脚し、官邸筋の野望は潰えた。そして、広島で着々と進行していた河井克行氏、河井案里氏への捜査が、現国会会期終了とともに強制捜査となって結実するのではないかと報じられている。

黒川氏の定年延長は、カルロス・ゴーンに対する捜査など重要事件につき余人をもっては代えがたく業務に多大な支障が出ることが理由とされていた(らしい)。しかし、黒川氏がその職を去っても、検察業務に多大な支障が出ている形跡は全くない(当然だが)。いかに、恣意的で意味のない定年延長だったかということだろう。頼みの綱だった黒川氏が去った後、首筋がスースーとしている人々は少なくないかもしれない。

そういった政治による検察人事への不当介入に、様々な人々が抗議の声を上げたのは当然のことだったが、検察人事(法務省人事を含め)について、では、どうすれば良いかについて、オールドヤメ検達の「今まで仲間内で決めて回して政治からの独立を保ってきたのだから今後もそうすれば良い」という昭和懐古的意見以外に、これといったプランは見当たらないのが現状だろう。

そこで、この問題を分析すると、以下の諸点に分解できると思う。

①検事総長など認証官(検事長、次長検事)の人事をどうするか

②その他の検察官人事をどうするか

③法務省の幹部人事をどうするか

まず①。なかなか難しい問題だが、ここについては、非政治化しておくのが、多くの国民の法感情にも合致するだろうし、司法と密接な関係を有する検察の機能、役割に照らして妥当だろう。検察組織を、基本的には現行の非政治的なキャリアシステムとして運用し、その中で、衆目の一致する優秀な人材が認証官コースで残る。内部からの推薦に基づいて内閣が任命する。ここはなかなか動かしがたいものがあるように思う。内閣の任命の際に国会の同意を要すべきという意見もあるが、同意するかどうか検討される過程で、政治の不当介入を招く恐れがある。安易に同意人事とすべきではない。

次に②。ここは見過ごされがちだが、法曹一元の理念をもっと導入すべきだと思う。法曹一元というのは、弁護士経験者から裁判官、検察官を任用すべきとする考え方で、例えば英米では、日本のようなキャリアシステムの裁判官、検察官は存在せず、弁護士から任命される仕組みになっている。日本でも、現状、裁判官や検察官が一定期間、弁護士を経験する制度があるが、基本はどちらもキャリアシステム。司法研修所終了後に採用されると、中途退官しない限り定年か定年近くまで勤め上げる仕組みになっている。日本弁護士連合会は、以前から、法曹一元を強く提唱し、裁判官への弁護士任官には熱心だが、検察官への弁護士任官は、おそらく任官希望者も極めて少ないせいもあるだろうが、低調なまま推移している。しかし、検事になったらずっと検事、弁護士とは敵対しっぱなし、では、一定期間、弁護士を経験することがあっても、刑事司法に対する幅広い視野に基づく検察権の行使は難しいだろう。ここは、大きく弁護士からの登用を増やし、弁護士と検察官との行き来を日常的なものにして、法曹一元の理念を現実のものにする必要がある。無駄な、悪あがきの検察官控訴、上告、再審請求に対する頑なすぎる対応など、現状の、検察庁の仲間内で凝り固まって狭い視野でしか物を見ない弊害はかなり改められることが期待できる。

③は②にも関連する。現在、法務省の幹部(事務次官、局長、官房長、審議官等々)の大部分は検事で占められているが、これは、法務省設置法の附則4項で、


当分の間、特に必要があるときは、法務省の職員(検察庁の職員を除く。)のうち、百三十三人は、検事をもってこれに充てることができる。


とされていることに基づく(「充て検」と呼ばれる)。あくまで、「当分の間」のことであり、「特に必要があるときは」とされているにもかかわらず、常態化しているのである。法務省幹部を恒常的に検事が占めているという現状は、法が予定していたものとは言えない。

こういう状態にあれば、特に刑事司法の分野で、検察にとって不利益になる法改正はおよそ期待できないだろう。例えば、再審の審理の在り方、証拠開示の在り方(検察官手持ち証拠に再審無罪につながる決定的な証拠が存在することもある)は、長らく議論されているが、一向に法改正へと進む気配はない。法務省幹部は元はと言えば検事、検察庁にとって不利益となる法改正はやらないしやる気もないと見るのが自然だろう。こういう状態に風穴を開けるためには、法務官僚、充て検への弁護士登用を大きく増やし、検察のためではなく、真に国民のためになる法務行政を推進する態勢を作っていく必要がある。

このような①から③の動きを、適正妥当なものとして進めるためには、検察人事について、単に仲間内で回していくというのではなく、例えば、最高裁判所、日本弁護士連合会からも人が出て、法務・検察人事を監督、指導する委員会でも作る方法もあるだろう。認証官以外の法務・検察人事は任命権者が法務大臣だが、そういった委員会が法務大臣に対して意見を述べることができる制度にしておくことで、恣意的、偏頗な人事を防止することもできるだろう。もちろん、他の適切な方法があればそれに依る。

法務・検察人事について、真に国民のためどうすべきか、という観点で、単に政治の不当介入を排除するだけでなく、様々な改革をすべき時に来ていると思う。いつまでもロッキード事件の栄光にすがり、昔は良かった的な旧態依然とした昭和懐古のものであってはならない。

                                  以上


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