【僕ヤバ感想】Karte.84 僕は大丈夫
ギャグチックな予告からこんなに心震える回だったとは。今回どちらかというと漫画の感想というより、それに触発されて考えたことが大部分を占める。
おねえ、優しいな。いざという時に京太郎が頼るのはおねえなのか。なんだかんだ言ってなかのいい姉弟だ。でも市川の学校の場所をはっきりと知らないということはおねえは別の学校だったのか。
東京は私立が多いけれど、男子は高校から入れる私立も多くても女子は高校で募集をかけないところがほとんどで、女子は男子以上に中学受験に熱を入れる。おねえは中学受験で私立に行ったのかな。
さり気なくあちこちで弟自慢をしながらなんとか体育館に行こうとするおねえ。今セキュリティ厳しいからね……。よれよれジャージのおねえは、普通ピシッとした服装である卒業生の保護者には見えなかったんだろう。
でも最後は京太郎のアドリブをしみじみ聞くことになる。おねえ優しいから夕食の席で「京ちゃん立派だったんだよ!」って親に報告しそう。親もすごく喜んでくれそうだよね。優しい人達。
ちょいちょい挟まれる同級生の表情がいいな。市川の声量を気にしている芹にゃ、送辞の内容にツッコミを入れる萌子、そして無言で(普通卒業式は無言でなきゃだめだろ)成り行きを見守ってるばやしこ、そして豊かな表情を見せる山田。舞台の袖に向かう市川を見送る足立もいいな。そして卒業生より市川が気になって仕方がなさそうな前田先生。
みんな、市川の存在を暖かく認めているからの行動で、そこには変な偏見や無関心は存在せず、温かい。
ひっそりとある矩形の吹き出し「僕は僕」って、私は結構重要だと思っている。
手前味噌になるけれど前に書いた記事。今日の更新も読んで、うん、やっぱりそうだよな、と思った。
私も含めて、「自分の立ち位置(あるいは存在)の確認」を、往々にして他人との比較をすることで行ってしまうことがある。そして自分にレッテルを張りがちである。
連載初期の市川は「僕は頭がおかしい」と自分を一言で片付け、さらに「陰キャである」と「クラス(学校)の中での位置づけ」をあっさり終わらせている。人物紹介でも、クラスメートのことを一言で片付けている。一言で片付けるのをもしかしたら中二病真っ盛りの市川は「一言で人の本質を言い当てる俺かっこいい」と思っていたかもね。
でも、人間って一言で片付けられるような単純な性格をしていない(話はそれるけれど、だからTwitterのように短文で簡潔にいいきる流れは、使い方を間違えると非常に危険だと思っている)。明るい人が悩んでいたり、おとなしく見える人が実はすごく面白いものを持っていたり。
一言で片付けている間の市川は他人にしっかり向き合っていなかったし、自分のことも雑に片付けていた。あるいは逆か。自分を雑に片付けてしまうから他人のこともそうとしか思えないのか。
そういう、他人の複雑さは相手に近づいて、いろんな反応を見たり、話しかけてその返事を聞くなど、動かないと見えないわけで。連載が進むにつれて、市川も、山田も、そして足立や萌子たちもお互いについての認識をそれぞれ深めていっている。
送辞で市川が述べた「光」とは山田を指しているだろうけれど(山田は自分のことだと思っただろうか)、その後にその他の友達や恩師に言及するのは、送辞ぽくならなくなりそうなのを軌道修正するだけではなくて、市川の本心でもあったと思いたい。
今回のテーマは「自分を好きになって、自分で自分を後押し」ーつまり、中二病からの脱出ーだから、「友達や恩師がいたから」は矛盾しそうな感じだけど、私は矛盾するものではないと思っている。
クラスメートの存在を「自分の立ち位置を決めるための、相対的な存在」とせずに、「その人達がいるから」と言えたのは、他人との比較なしに自分の位置をきちんと見つめられたから。自分(濁川くん)から目をそらさずに、自分の存在をしっかり見つめ直したから、他人の存在をも、その人個人として尊重できるから。尊重した上で感謝できるから。
よく「自分を大事にできない人は他人も大事にできない」というけれど、この「自分を大事にする」というのは、「自分を甘やかす」ことではなくて、「自分という存在をないがしろにしない」ことではないか。
自分のことをないがしろにしがちだった市川が、「僕は僕」と思えたこと、これが「自分を大事にする」ことなのではないだろうか。
そういう心構えができたところで満を持して(?)ナンパイが登場する。市川の送辞でなにか心に大きな動きがあったように見受けられる山田。ナンパイには市川(市原じゃないよ)の送辞がどう響いたんだろうか。
話の流れとして、ナンパイの告白が成功するとは思えないけれど、山田も市川の送辞で心動かされて、ただ雑に振るのではなく、きちんとナンパイに向き合った上で決着をつけるのかもしれない。そうすると、あの「市川が思い込みで山田を避けてしまった時の、溶けてそうで溶けていないしこり」が解消されるのにつながるかも。
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