『天地に問う』 中国ドラマ 鑑賞記録
ちょっと奇妙なタイトル。原題のざっくりな意味は「顕微鏡で見た大明 絹糸事件の巻」な感じなのですが、今一つ内容とマッチしてない感じがあります。配信元の愛奇芸日本支部さんも、邦題に苦労なさったのがうかがわれる ”覗く” づかい(笑)
※上記部分はWOWOW放送以前の邦題(マイクロスコープ~大明の乱を覗く~)を指しています(2024/03/20 追記)
ま、それはともかく原作があの馬伯庸(脚本も)でキャストも『慶余年』とカブりが多いと聞けば否が応でも期待は高まるというもの。
配信開始の報に中国ドラマファン界隈はかなり沸いていた様子です。
AI日本語字幕+耳から中文のハイブリッドで視聴しました。
さてその内容は…
よろしければお付き合いください!
本作は『三国機密』や『風紀洛陽』の作家でもある 馬伯庸の歴史読本『显微镜下的大明』6つの案件中のひとつ《丝绢案》のドラマ化。
なのだが… この「丝绢」という名称が使われた理由がよく分からないところだった。意味はシルクとか織物なのに、ストーリー上織物も絹糸も出てこない。何故?
随所でみんなが探したり、隠したり、燃やしたりしている「丝絹全書」というノート、ここには帳簿の偽装の実態が書かれている。ということは帳簿上のニセ項目として使われている暗号のようなものだろうか…?
まそれはさておき。
ざっくりなあらすじとしては、主役の 帅家默がこの絹糸税(iqiyiさんのAI字幕では「ハンカチ税」)にまつわる計算の誤表記を発見。これが故意に誤って申告されている数字だと突き止めた帅家默は、幼馴染の 豊碧玉と共に不正を暴いていくのだが、税金といえば相手はお役所。そうすんなりとはいかない。
実はこの絹糸税、7つの地方行政単位(県)が結託して100年以上に渡って不正を慣習化させており、代々の行政官たちはそれで私腹を肥やしていたのだ。そんな訳だから抵抗勢力の妨害は半端なく、帅家默らの勇気ある行動は地方行政から更に上の機関までをも大混乱に陥れる端緒となる。
その攻防と、事の顛末が描かれるお話だ。
多彩なキャスト
主人公 帅家默は数学の天才。両親を子供の頃に亡くしている孤児で、計算が得意な父からとある数字と計算法を伝授されている。とにかく何でもだいたい暗算で計算できるし記憶力も抜群。
特定分野に突出した才能のある人にありがちな、常人とは少し異なる動作や表情を 张若昀がリアルに演じている。
ただ、周りからは「呆子」(あほ、おばか)と言われている彼だが、精神疾患的な症状もあるのかどうかは不明。だが演技にはそう思わせる演出も含まれているのが気になった。なぜなら時折堰を切ったように数学的哲学を淀みなく話し出したり、理路整然と弁舌爽やかに数字の齟齬を説いたりするシーンがあり、人物造形として矛盾を感じてしまったから。
目の下をピクピクさせているアップや、必要以上に呆けた様子の演出がやたら多かった(特に前半)が、単純にただ「ものすごく賢い」というだけの演技 演出にしておいた方が筋が通ったのにな、と少し残念に思った。
友人の 豊碧玉はハム屋さん営業の姉と暮らしている。学はあるが遊び人で賭け事が好き。帅家默が秘密を暴くのを支える。
姉は威勢のいい女性で、腕組みや腰に手を当てて仁王立ちが似合っている。
法廷闘争のシーンが多いのだが、そこで存在感を発揮するのは 程仁清という人物。演じるのは王阳。この人序盤は "反" 家默、後半は "親" 家默。
法廷では弁護士というよりどちらかといえば検事の役割のようだ。科挙受験生だったが、不正疑惑で陥れられて現在の職に。今回雪辱を果たす。白馬に乗ってカッコいい人。
その他の面々はほぼ腐敗した悪徳役人たち。めちゃ悪い奴から長いものには巻かれる系まで程度は様々。ここには演技巧者が顔を揃えていて見応えたっぷりだった。
中国ドラマではしょっちゅうお目に掛る実力派の 尹铸胜、吴刚という方々が並ぶ。特に後半、彼らが追い詰められて悪あがきする様は圧巻だった。
14話で一つの事件なので序盤から中盤はノロノロテンポ。もう少し脇役たちの関係性が丁寧に描き込まれていればよかったのだがそれもなく、本筋も話が進まずで正直飽きてしまったが、終盤は老練な演者たちのお陰でワクワク視聴できた。
その黒い人達の中でわたしのお気に入りは 方懋珍を演じる侯岩松。ここ最近数か月間に観ているドラマのどれかに必ず出演されているのだが、それぞれ全く違う味わいの演技をなさっていて素晴らしいなと思う。
本ドラマではちょっとユルめの悪役で、最終的には白に回る役処。柱から降りられないコミカルな演技が可愛かった(笑)
不正のカラクリは一体?!
悪徳役人たちは長年民から徴収した税を、絹糸税という名目を噛ませて不正にお上に申告していたわけだが、その実態とはいかなるものだったのか。そこがこのドラマの(わたし的)最大の謎。
税、といってもドラマ中終始問題になっているのは土地の広さだ。そこで収穫される作物の税が不正に取り扱われているのだが…土地の計算ばかりで、そのあたりの詳細説明が今一つ足りない。わたしの中文聴き取り力 数学力 or AI字幕のせいかもしれないが。
疑問点は以下。
・帅家默の計算→広い
・帳簿記載の面積→狭い
帅家默の計算よりも実際に帳簿に記載されている土地の広さの方が「狭い」のだ。「広い」ならその分多く税を取り立てられるのだから分かる。
しかし帳簿上の方が狭いということは、上層の役所に申告している土地面積が「狭い」ということなのか?
もしそうなら、実際の「広い」面積で取り立てた税を、そこでピンハネする形の不正ということになる。
あるいは実際よりも狭く計算して、差分を土地もろとも搾取していたのか? 確かにそんなようなシーンがあったような気もする。
鱗ナントカや白ブック黄ブック(いずれもAI字幕w)なども出てきてたようなので、いずれにしろ二重帳簿のトリックなのだろうが。(中文字幕で観直す時間と気力は今のところ、ない笑)
3話だったかには倭寇のことも出てくる。成化年間、不足する軍事費を賄う過程で横行した手段だったのかもしれない。
いずれにしても、このドラマがスポットライトを当てたかったのは搾取のカラクリよりも帅家默の頭脳がスゴい!ってことなのだろう(笑)
何しろ、どんなに複雑な形の土地でもポイント毎に計算すれば面積が出せる(しかも暗算!)という、父譲りのスーパー方程式があるのだ。
数学どころか数字さえもサッパリなわたしには、もう何が何だか(笑)
数学
「数学はこの世で一番誠実なもの」と帅家默が牢で熱く語るシーンがある。これも父親譲りの台詞だ。
それで思い出したのは、わたしの知人でとても賢い大学の数学教授。彼も「世界で一番大事なのは数学だ」という。
それ聞いた時はホントにたまげた! いやーいくらなんでも一番大事ってのはどーよ?と思ったものだ。
でも ”その世界” の人達はそう信じているからこそ、いつ解決できるかもわからない難問に没頭できるのだろうなー。
このドラマも、そんな数字のロマンを描きたかったのかもしれない、とふと思った。
そして数学がロマンチックなものであることだけは、何となく理解できるのであった。いや数学が、ではなくて数学に没頭する人達の思考が、かもしれない。
回想シーンで、帅家默が自分に数学への道を授けて世を去った父と再会する場面が感動的だった。
刘宇宁の歌うスローテンポなエンディング曲《微世界》もなかなかよかった。
本作は配信と同時に「第一季」となりましたし、原作もあと5案件残っているので、続編はあるかもしれませんね。帅家默 も何処へか旅立つシーンで終わりました。
さて今回感じたのは、日本における "馬伯庸 神話" の根強さ。
この方の原作のドラマを観るのは5作目ですが、正直なところ全てが「ものすごく面白い」というわけではなかったので、わたしはそこまでの信頼はないです(笑)が、他の方のコメントをみてると彼の原作なら!と絶対的な信頼を置いてる方が多そうでした。
本国では沢山の作家が認知されてるけど、こちらではその分母が小さい分、数人に集中してしまうのかなと想像しています。
馬伯庸が関わる今後の作品としては『長安二十四時』の曹盾監督と組んだ映画『敦煌英雄』が撮り終わっているらしいので、こちらはほどほどの期待で待ちたいと思います(笑)
それではこの辺で。
また遊びにきてくださいね!