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喘息(18) 減薬のタイミングを知りましょう


0. 本記事のまとめ

・喘息がある程度コントロールされていたら、ステップダウン(治療を弱めること)を検討します。
・ステップダウンするペースは患者さんごとに異なりますが、ガイドラインでは一つの目安として3ヶ月以上症状が消失していたら検討、とされています。

1. まず喘息がコントロールされているかを確認

Dr.Y: 次の方、どうぞー。

吾妻さん: こんにちは。

Dr.Y: 吾妻さん。お久しぶりです。喘息の調子はいかがですか。

吾妻さん: はい。非常に良いです。咳もぜんぜん出ませんし。

Dr.Y: 定期吸入薬はきちんと使えていますか?

吾妻さん: はい。毎日欠かさず使えています。もう忘れる事はないですね。

Dr.Y: 素晴らしい!リリーバー(発作止め)は最近使っていますか?

吾妻さん: いえ。定期吸入薬を使っていると症状が安定して咳の発作が起きないので、リリーバーは使う機会がありませんでした。一応持ち歩いてはいますけどね。

Dr.Y: 発作が起きず使う機会がなくても、持ち歩いているだけで安心はしますよね。

吾妻さん: はい。お守りみたいな感じです(笑)

Dr.Y: そういえば先日アレルギー検査をしたら、ダニが引っかかったでしょう。ダニ対策はしっかり出来ていますか。

吾妻さん: はい。換気を良くして、布団や枕などは頻繁に洗うようにしています。

Dr.Y: 良いですね。では聴診をしましょう。吸って〜吐いて〜大きく吸って〜一気に吐いて〜

吾妻さん: スーハースーハー

Dr.Y: うん。音もキレイですね!さきほどやってもらったFENOの検査も、以前よりだいぶ下がりましたね。

吾妻さん: 先生、FENOは何のためにやったんでしたっけ。

Dr.Y: FENOは呼気中一酸化窒素の略称で、息の中の一酸化窒素濃度を調べています。これが喘息に特徴的な2型炎症の度合いを反映しています。

吾妻さん: ではこれが下がったということは気道にある喘息の炎症が落ち着いてきているという事ですか。

Dr.Y: はい。そのように解釈できますね。


2. いざ、ステップダウン!

Dr.Y: だいぶ落ち着いてきたのでそろそろステップダウンしてみましょうか。

吾妻さん: ステップダウンってなんでしたっけ。

Dr.Y: 治療薬を弱めるという事です。具体的にはいつもよりステロイドの含有量を少なくした吸入薬に変更します。

吾妻さん: 本当ですか?治療を弱めるのってちょっと心配です。前のような咳でつらい思いをするのはもう嫌で。

Dr.Y: そうですね。もちろんステップダウンによりぶり返すリスクもあるので、慎重に進めなくてはいけませんが、かといってずっと同じ強さのステロイドを投与し続けるのも良くないので。

吾妻さん: ステップダウン後にぶり返すリスクってどのくらいあるんですか?

Dr.Y: ステップダウン前の治療強度やその人の環境にも左右されるので一概には決められませんが、米国のメイヨー・クリニックという有名な病院で行われた研究で、ステップダウンを行った約2万6千人の患者さんを対象にその後の経過を調べた所、3割程度が2年以内に再燃していたというものがあります (1)。

吾妻さん: 2年で3割ですかー。少なくはないですね。ステップダウンするペースは人によりけりとおっしゃいましたが、もっと長い人もいるんですか?

Dr.Y: そうですね。医師によってもこの辺はまちまちですが、アレルギー症状が強かったり、発作時の症状がひどかった人などはかなり慎重になりますね。

吾妻さん: ちなみに以前、吸入薬に含まれるステロイドの副作用は大した事ないっておっしゃっていませんでしたっけ。

Dr.Y: 喘息を抑えられないデメリットに比べたら大した事ない、という意味です。高用量のステロイド吸入が続く事で肺炎のリスクが上がるかもしれないという報告もある (2)ので、喘息が安定しているという大前提のもとにステップダウンできるならステップダウンするに越したことはないです。

吾妻さん: ちなみにどのくらい落ち着いていたらステップダウン、というような目安はあるんですか?

Dr.Y: 国内のガイドラインでは、症状が消失して3ヶ月以上経過したらステップダウンを考慮する、とされています (3)。あくまで目安なので、人によりけりです・・・でもやはり不安なようでしたら、もう少し今のままステップダウンせずに様子みましょうか。

吾妻さん: いえ。私も症状が無くなってからそのくらい経つので、かなり悩みますが、ステップダウンをトライしてみたいです。

Dr.Y: 分かりました。今日から、いつもよりステロイドの含有量が少ない吸入薬に切り替えて処方しますね。

吾妻さん:ステップダウンの後でなにか注意する事はありますか?

Dr.Y: ちょっとした刺激で咳き込みやすくなったり、特にリリーバーを使う頻度が上がってきたりしたら、喘息の活動性が上がってきている可能性がありますので、早めに受診してください。

吾妻さん: 分かりました。


参考文献:
1 Rank MA, Johnson R, Branda M, Herrin J, van Houten H, Gionfriddo MR, et al. Long-term outcomes after stepping down asthma controller medications: A claims-based, time-to-event analysis. Chest. 2015 Sep;148(3):630–9.

2 McKeever T, Harrison TW, Hubbard R, Shaw D. Inhaled corticosteroids and the risk of pneumonia in people with asthma: a case-control study. Chest. 2013 Dec;144(6):1788–94.

3 日本喘息学会 喘息診療実践ガイドライン2024(協和企画)


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