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「名誉殺人」の判決

BBC WORLD NEWS アワ・ワールド 世界は今 74話「名誉殺人」の判決

概要

・パキスタンのSNSアイドル・カンディール・バローチさんが「家名を汚した」ために2016年に殺された。彼女はパキスタンの女性解放のシンボルだった。

・兄が彼女の投稿画像が許せないとの理由から絞殺したことを自供し、逮捕。殺人罪で25年の判決に。

・女性記者のハニ・タハさん。兄を擁護するカンディールさんの母の姿にショックを受ける。パキスタンの女性は不自由から脱却できるのか。

感想①

一人の女性の死と家族の問題でありながら、描かれているのは非常に大きなテーマだ。イスラム文化と女性の問題が凝縮されている。

パキスタンは、正式にはパキスタン・イスラム共和国といい、その名の通りイスラム教の国である。英国領・インド帝国から独立する際、ヒンズー教のインドと分かれ、現在の国となった。

一方カンディールさんは、露出の多いセクシーな服に派手な化粧、といってもアメリカのポップスターのMVでよく見る程度のいでたちで、スタイリッシュな動画・画像の投稿を続けた。自由な結婚が許されなかった彼女は、パキスタン女性の自由のシンボルになろうと、挑発的ともいえるコメントも発信しつづけたそうだ。これが(直接的にはFBに載せた肌の見える画像)兄の逆鱗に触れ、殺害されたと見られる。(番組の字幕は弟となっているが、兄が正しいようだ)

タイトルにもある名誉殺人をWikiで調べた。婚姻拒否、強姦を含む婚前・婚外交渉、「誤った」男性との結婚・駆け落ちなど自由恋愛をした女性、さらには、これを手伝った女性らを「家族の名誉を汚す」ものと見なし、親族がその名誉を守るために私刑として殺害する風習、と書かれていた。驚愕に値する。主に中東のイスラム文化圏を中心に行われる。

番組は取材する。カンディールさんが殺害されたあと、パキスタンでは女性たちが立ち上がった。2018年、カラチで全国初の女性デモが行われた。「自由は私たちの権利だ」と、プラカードを片手に大勢が叫んだ。2019年のデモでは、参加がばれるのを恐れた者は、カンディールさんのお面をつけて参加した。

カンディールさんの死を契機に、パキスタンは大きく変わった、事件を契機に名誉殺人防止法が成立したのだ。兄が25年の刑となったのもそのためだ。しかし、番組終盤、最も印象的な場面が現れる。兄の判決を受けてハニ・タハさんが、カンディールさんの母親を訪問するシーン。

母親は言う。「息子の不利になることは言わないで」「彼をそっとしておきなさい」「あの子はかわいい我が子」

帰りの車中で、ハニ・タハさんは涙を流す。「女性の価値は男性よりも低いことを目の当たりにしました。娘よりも息子の方が大切なようです」

感想②

私は母親を悪く思うことはできない。彼女はパキスタンの田舎町の貧しい老いた女性だ。白髪の夫は盲目となり働けない。息子だけが家計を支える頼みの綱だったのだ。生きていくために、息子に戻ってきてもらいたい―。そう思っているのだろう。この家族に、イスラム文化圏での女性の地位問題のすべてをおっかぶせのはメディアの傲慢というものだろう。

それでもやはり、母親の発言の背景に、「名誉殺人が許されてきた文化」の一端を感じざるを得ない。日本で彼女のような発言は、まずありえない。家族であっても殺人者を公に擁護することはないし、できないし、そもそもしようとも思わないだろう。彼女の言葉からはうすぼんやりとだが、「家族が家族を殺したんだからあんたたちには関係ない」「家族は家族を殺してもよい」「殺人をしたからなんだというんだ」「裁判などというものは絶対的なものではない」というニュアンスを感じてしまう。それは言葉にすれば、「個の命の軽視」…。母親には、娘の行動を誇ってほしかった。

番組で伝えられたパキスタンの現実に、ただただ驚いている。新法施行後も、親族による女性の殺害が続いているという。

蛇足だが先日、ウクライナ機の誤爆を契機にイランで学生たちが政府のウソを非難するデモを行ったという。カンディールさんの件同様、イスラム文化圏の変化の兆しとなってほしい。

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