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ニュース映画で現代社会を勉強しましょう

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各自治体が戦後の復興の記録のために、昭和2,30年代に盛んに製作したニュース映画である「政策ニュース映画」を教材に、現代社会、特に高度成長期前後の社会変化を学びます。殆ど知られて…
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「政策ニュース映画」とは?(#0 ニュース映画で現代社会を勉強しましょう)

政策ニュース映画 戦後、昭和20年代半ば頃から、都市部を中心にした復興の様子を、特に行政側が映像として記録することが、しばしば行われました。それらは、映画館で本編の前に流されるニュース映画として公開されました。テレビが家庭に入り込む前のことです。新聞や映像などのメディア企業ではなく、自治体が企画、制作した地域のニュース映画を、「政策ニュース映画」と呼んでいます。 特に大空襲の被害が多かった地域を中心に、各地で政策ニュース映画は製作されましたが、それらは余りまとまって残ってい

ニュース映画史・戦前/戦中まで(#1 ニュース映画で現代社会を勉強しましょう)

戦前、戦中のニュース映画一般大衆に訴求力の高いメディアとして、テレビがその地位を確立するまでは、映画が代表的なマス媒体でした。映画は、娯楽手段ですが、本編とは別に報道の役割として、ドキュメンタリー映画(あるいは記録映画)も上映されていました。それらが定期的に上映されるようになって、報道としての性質が濃い、ニュース映画が成立して行きました。 1908年に、フランスの大手映画製作会社であるパテ・フレール社によって、世界で初めて、長編映画の前に短編ニュース映画が上映されました。こう

ニュース映画館(#2 ニュース映画で現代社会を勉強しましょう)

ニュース映画館戦前から戦中、戦後にかけて、映画は、今では想像もつかないほど重要なメディアでした。多くの映画が公開され、多くの人々が映画館に足を運びました。 そうした様子は様々な写真や映像で残っていますが、「国立映画アーカイブ」の中に「NFAJデジタル展示室」という画像ギャラリーがあり、映画に纏わる様々な写真があります。特に戦前から戦中に掛けての映画館の様子を写した写真(社団法人日本映画連合会旧蔵映画公社資料)は興味深いものがありますが、ニュース映画館やニュース映画にまつわる記

ニュース映画史・戦後編(#3 ニュース映画で現代社会を勉強しましょう)

ニュース映画史(戦後編)終戦を迎え、「映画法」は、昭和20(1945)年12月26日に廃止されることになりました。その結果として、各新聞社や通信社を中心にニュース映画の製作が復活しましたが、昭和27(1952)年までは、新たにGHQによる検閲が行われていました。検閲の主体が変わっただけですが、その変化は大きかったと言えるでしょう。 終戦後の娯楽や情報に人々が飢えていた時代には、映画は大衆向けメディアとして大きな役割を果たすこととなり、それに伴い本編に併映されたニュース映画も第

ニュース映画史・政策ニュース映画篇(#4 ニュース映画で現代社会を勉強しましょう)

ニュース映画史(政策ニュース映画篇)戦後から高度成長期に掛けて、地域の復興と発展の記録のために、各地域で盛んに記録映画が作成されていきました。戦後の地域記録映画は、大きく、新聞社、映画会社等のメディア企業によるものと、自治体自らが製作したものに大別できます。自治体側による地域記録を、「政策ニュース」と総称しますが、それらはさらに、自治体が内製するものと、自治体が発注して企業が製作するものに分かれています。 政策ニュース映画は、主に昭和25(1950)年前後から作成され始めて

フィルムからオンラインへ(#5 ニュース映画で現代社会を勉強しましょう)

フィルムからオンラインへ政策ニュース映画はフィルム媒体によって記録され、公開後多くがそのまま保管されましたが、所在が不明になっているものも多くあります。昭和50年年代頃から、それらのいくつかはビデオテープに変換され、図書館や博物館などで公開されています。それらも既に劣化が始まっていますが、元のフィルムはそのタイミングで破棄されたものも多くあります。 さらに平成に入ってからメディア技術がデジタルに移行し、アナログビデオ形式から、デジタルに変換されています。そのままDVD化され

ニュース映画に見る交通機関(#6 ニュース映画で現代社会を勉強しましょう)

政策ニュース映画を観てみよう実際に政策ニュース映画の例を観てみましょう。まず言っておきますが、行政の広報映画ですので、決して面白いという代物ではありません。 フィルム自体が劣化しており、映像も乱れています。何より時代が違うので、時代背景から、衛生観念や価値観、倫理観などが異なっており、今の価値観からすると不愉快に見えるものなども多く含まれています。しかし、それが我々の社会のかつての真実の姿であり、両親や祖父母がその中で過ごしてきたということなのです。 政策ニュース映画の例

無軌道電車(#7 ニュース映画で現代社会を勉強しましょう)

無軌道電車昭和1桁あたり生まれの方なら確実に知っていると思います。無軌道電車とは、トロリーバスのことです。と言っても、トロリーバス自体も通じないかもしれません。乗ったことのある方は、もう余りいないのではないでしょうか。道路上に張られた架線から電気を取ってエネルギー源として走るバスで、路面電車、いわゆるチンチン電車とバスを合わせたような交通機関です。 トロリーバスは現在、長野県と富山県を結ぶ立山黒部アルペンルートでしか運行されていないようで、国内の市街地では、見ることができませ

神奈川ニュース(#8 ニュース映画で現代社会を勉強しましょう)

神奈川ニュース神奈川県では、社団法人神奈川ニュース映画協会という団体によって、昭和26(1951)年頃から、横浜、川崎、厚木などの県内諸地域の復興が記録されて行きました。同団体は、昭和25(1950)年に設立され、神奈川県や、横浜市、川崎市など、県内の公共団体の施策と事業をPRするニュース映画や記録映画、教育映画などを数多く製作しています。 しかし平成19(2007)年に役割を終え解散しました。正式な記録はありませんが、日本で最後に映画館で流されたニュース映画は、この神奈川ニ

川崎市政ニュース映画の概説(#9 ニュース映画で現代社会を勉強しましょう)

川崎市政ニュース映画平成19(2007)年の神奈川ニュース映画協会の解散にともない、多くのニュース映画が、横浜市、川崎市に移管されました。川崎市の委託による分は、デジタル化を行い、権利処理等も終えて、「川崎市映像アーカイブ」としてYouTube等で公開されています。 川崎市政ニュース映画とは、神奈川ニュース映画協会が作成した、この川崎市委託分の総称です。神奈川ニュースの中でも、この川崎市分は、港湾の整備とともに、産業集積が進み、日本の工業技術を支えた京浜工業地帯が成立していく

政策ニュース映画の価値(#10 ニュース映画で現代社会を勉強しましょう)

政策ニュース映画の価値政策ニュース映画とは、特に大空襲を受けた地域を中心に、戦後の復興を記録していった行政刊行物、要するに行政映画です。ただ個人が写真や映像などの記録を余り残せなかった時代に、その地域の様々な出来事と暮らしている人々を映像で捉えたという点に特徴があります。 現在の目から見た、記録としての価値は、3つほど挙げられます。 1.時代の記録として 2.社会課題の提起として 3.地域の変化のアーカイブズとして 現存する政策ニュース映画の最古のものは、茨城県政ニュース

時代の記録としての価値(#11 ニュース映画で現代社会を勉強しましょう)

時代の記録としての価値このように、政策ニュース映画は、昭和20年代半ば過ぎから、地域の復興、発展の行政記録として撮影され始めました。その時代は、戦後の復興期から高度成長期と呼ばれています。 その時代には、戦前とは違い、民主主義と自由主義経済体制の元で、自らの意思で経済活動を行っていく、一般市民、大衆という社会階層が出現し、社会を担っていきます。 特に、時代的に言えば、前述のように、日本の社会経済が大きく変貌を遂げていった、昭和30年代から始まる、高度成長期の記録であるという

人が多いということ(#12 ニュース映画で現代社会を勉強しましょう)

たかがラジオ体操に…驚愕の映像まずは、川崎市政ニュースから以下の映像を観てください。昭和32年7月17日付「みんなで体操」と題された1本です。 昭和32年の夏休み、7月に川崎市内の大師小学校の校庭で行われたラジオ体操の様子を紹介する1本で、30秒ほどの短い映像です。 大師小学校(川崎区)に三々五々、子供たちを中心に人が集まってきます。入口には「第二回川崎市ラジオ体操全国中継放送会場」と書いてあります。内容は、校庭に集まった人たちが、体操服を着た指導者に従って一斉にラジオ体操

労務者と失対事業(#13 ニュース映画で現代社会を勉強しましょう)

あの頃の社会課題と放送禁止用語政策ニュース映画には、こうしたマクロな社会変化の記録の他、地域の政策に関する記録という、ミクロな側面もあります。本来行政ニュースですので、インフラ整備や様々な社会設備、さらに教育や福祉などの政策広報がその内容なのですが、特に重要な点として、行政の政策課題が題材になっているという点が指摘できます。 政策ニュース映画には、当時の地域、社会が抱えていた様々な課題が記録されています。 その典型例が、この映像でしょう。恐らく政策ニュース映画の中で、最も深