料理とメイクは「=」なのか?

あなたは、料理が好きですか?

そして、あなたは、メイクが好きですか?

私の場合、両方とも「No」でした。
その理由はいろいろありますが、そのいろいろをすっ飛ばして一言でまとめると「面倒だから」。

実家にいる間は、親が料理を作ってくれた。
学生時代真っ盛りの頃は、すっぴんでいることに躊躇がなかった。
そう、メイクや料理をするにあたって直面する「面倒」を覆すだけの、切実な理由がなかったのです。

ところがどっこい。

実家を出れば、自分で自分のご飯を用意しなければならない。しかも、毎日外食やコンビニ飯では、あっという間に資金が枯渇、栄養も枯渇、心の健康も枯渇…の三拍子。
これはまずい!と、渋々、自炊(と呼んでいいのか未だにわからない稚拙なものですが)を始めることになりました。

また、メイクについては生涯すっぴんで通してやる!という私の決意を挫く、巨大な壁が現れてしまいました。
それは「就活」。
変人を自称する私でも、就活においてノーメイクで闘えるほどの突き抜けた強さは、持ち合わせておりませんでした。

かくして私は、料理についても、メイクについても、生まれたての子鹿のようにフラフラと危なっかしい状態でありながらも、そのレールに乗ることになったのです。
しかし、レールという「乗っかったらそのまま順調にスイーっと進むぜ!」的な表現しておいて何ですが、料理とメイクの「面倒さ」からは、未だに卒業できないままです。
朝起きたら洗顔にスキンケア、朝ご飯とメイク。夜帰ったら晩ご飯とメイク落としと、スキンケア…
毎日がまさに「面倒」との戦いです。

前置きが長くなりました。
ここに、ひとつのツイートがあります。

このつぶやきの、「”面倒”と避けていた諸々にちゃんと意味があって、それは結構料理と似ているところがあった」というところに、私はとても惹かれました。

もしこれが本当ならば。
私が料理に対して抱いている「面倒」と、メイクに対して抱いている「面倒」を、同時にクリアできる可能性も、あるかもしれない。
そんな望みを抱かせてくれるツイートでした。

実は私、このつぶやきをした「ぶたやまさん」が、ツイート中に登場する「いおりさん」にメイクのレクチャーを受けているところに、たまたま居合わせておりました。
料理を日々様々な角度から研究する「ぶたやまさん」と、メイクを日々様々な角度から研究する「いおりさん」のやりとりは、まさに金言の連続。
違う言語を持つ人同士が、共通の文脈を得てイキイキと喋り倒し、周りをも巻き込み化学反応を起こしまくる姿がそこにはありました。
そして、純粋に私はそのやりとりを「おもしろい!」と感じました。

私はこのやりとりの一部始終をいろんな人にシェアしてみたい!と思うに至り、note初心者が陥るそれこそ様々な「面倒」を乗り越えながら、この記事を書いている、という次第です。

やりとりをボイスレコーダーでこっそりと録音しておけばよかった!
頑張れ、私の記憶力!


【ぶたやまさん】毎日をやり過ごすごはん「やり過ごしごはん研究家」。「ぶたやまかあさんの質問箱」「ぶたやまかあさんのお料理箱」「ぶたとぶたやまの写真教室」など、数々のイベントを主催。メイクについて、かつて抱いていた印象を尋ねてみると、「“面倒”、それにつきます。」とのこと。


【いおりさん】メイク、カラー診断、骨格診断などを中心に、美容関係のアレコレを熱心に研究。「16タイプ1stブライトスプリング2ndブライトサマー/顔タイプフレッシュ/骨格ストレート」というタイプ、とのこと(さっぱり、わからん!by筆者)。ぶたやまさんとは、「ぶたやまかあさんのお料理箱」にいおりさんが参加したことをきっかけに、お知り合いになられたそうです。


巨大な鏡、そして始まったいおり美容部員による「断捨離」

私が集合場所に到着したとき、そこにはA4サイズはあろうかという巨大な鏡を手にしたぶたやまさんがおりました。
そうか、大きな鏡で見た方が全体を理解しやすい、とかなのかな…と思い理由を聞くと、「適当な大きさの手鏡がなかったから」。
なるほど!ぶたやまさんは「こちら側」の人だ!と一瞬で理解できました。
だって、私も適当な大きさの手鏡なんて持ってないもん。メイク直しなんてしたことがないですし、今後する気もなかった(少なくとも、この時点では)ので、当然と言えばそうなのかもしれません。

机の上には、ぶたやまさんがお持ちのほぼ全てのメイクグッズと、いおりさんがこの日のために必要!と思い持参したメイクグッズの数々が。
初見の感想は、「ぶたやまさんも、いおりさんも、持ってるメイクグッズがとにかく多い!」ということ。
メイク研究に熱心ないおりさんはともかく、メイクが苦手とおっしゃっていたぶたやまさんも、たくさんのメイク道具をお持ちでした。

これ、とても共感しました。
メイクが得意な方からすると驚きかもしれませんが、メイクが苦手な人間からすると、まず「何を買えばいいかがわからない」、そして、「買ったものは”いつか使えるのでは”と思って捨てられない」。

察しのいい方はここでお気づきかと思います。
この考え方、料理ととてもよく似ているのです。
メイクグッズを買うときの心理は、例えば、調味料を買うときの心理に近い。
初心者が必ず一度は通る、「先生、そもそも何を買えば良いかがわからなかったので、一通り買ってみました。どうですか!?」という、アレです。

話を戻しまして。
「随分前に買ったものだけど、これは使えるのかしら」というぶたやまさんの言葉が終わるのとほぼ同時に、いおり美容部員(という通り名が付きました、この会で)の「それは捨ててください!」の声。
不思議がる我々に、美容部員から、とても優しい、しかし痛恨の一撃が。

「買ってから何年も経ったスパイス、使いますか…?」

…た、た、確かに!!!!!!!
その場にいた全員の頭上に、ピコーン!と豆電球が灯ったようでした。

スパイスは乾燥しているため、一見、長期保存が可能なように思えます。しかし、開封後は風味が落ちる、酸化する、カビが生える、虫が発生する…等々の問題が起こることがあるので、開封後は普通の食品のように早く使い切るのが鉄則です。
この集まりは、全員が自ら台所で腕を振るう機会のある人たちだったこともあり、みんなで納得!でした。
ここから、いおり美容部員による金言の数々が飛び出し始めるのです…


あっちはできて、こっちはできない。そんなこと、ないはずだ。

メイクレクチャー中、「実は、(メイクの前段階である)洗顔も面倒…」と弱音をつぶやくぶたやまさんに、またまたいおり美容部員から優しい一言。

「魚の霜降りはできるのに…?」

この発言を受けてぶたやまさんは割と即座に「できるわ。」と納得されていたのですが、すみません、このとき私、正直「魚の霜降り…?霜降りってお肉以外で使う?しかも文脈から言って調理方法だぞ?何のこっちゃ??」と思っていました…作っている料理のレベルがこれで知れますね。

魚の霜降り。言い換えるとこれは「湯通し」ということで、魚を美味しく調理するために、臭みを取り除く工程…ということのようです。
魚の霜降りに関しては、私の大好きな「白ごはん.com」さんのサイトで、作業手順も含めて丁寧に解説されています。
「白ごはん.com」さんはホームページがまず素敵。仮に料理する予定がなくても覗きたくなる、とても楽しいサイトです。

私は、Tゾーン(おでこから鼻にかけての脂が出やすい部分)の汚れが気になってしまうので、毎朝・毎晩の洗顔は欠かしません。
いおり美容部員がぶたやまさんにおっしゃっていたことが逆も然りだとすれば、洗顔ができる私には、きっと魚の霜降りもできるはずなのです。

今度「これは洗顔と一緒や!」とつぶやきながら、やってみよう。煮魚なんて滅多に作らないけれど、霜降りを理由にトライしてみようかなと思えました。
本末転倒とはこのことです。でも、動機は何だっていいのですよね。大切なのは、トライすることなのですから。


スポンジは長期熟成が進むとコロッケになる

工程が進んで、いよいよベースメイクの要のファンデーションへ。
ここで、いおり美容部員が、ぶたやまさんがお持ちの古くなったファンデーションスポンジを持って、一言、喝!

もう、これはコロッケじゃないですか!」

このお言葉に、一同大爆笑。確かに、ファンデーションに塗れたスポンジは、まるで衣をまとったコロッケのよう。
美味しそう!…ではないですね。百歩譲っても。

そうなんです。
メイク下手には、「メイク道具を手入れする」という考え方が、そもそも存在しないのです。
だって、そもそもメイクをすること自体のハードルが高いから。
思えば私も、メイクブラシとかほとんど洗ったことがありません…というと、「洗いなさい!」というツッコミが四方八方から矢のように飛んできそうですが。メイクベタの日常って、そんなレベルなんですよ。

と、ここでいおり美容部員からの追撃。

「使い終わった”おたま”、そのまま次の料理に使います?」
「…!!!使わない!!!」

これは何ともわかりやすい例えでした。使い終わった調理器具や食器、次に使うまで時間が空くのに、洗わずに放置してそのまま使うなんて、衛生的なことを考えると、ありえないですよね。

メイクが苦手な人間にとって、「化粧品がいつまで使えるのか?」というのは、難しい問題です。料理に慣れている人間に調味料や食材の使用期限がある程度「感覚」でわかるように、メイクも恐らく大体の目安はありつつも、感覚で使う/使えないがわかるものなのでしょう。

ぶたやまさんはいおり美容部員の言葉を「包丁研いでない家に行って、ンマー!って時ね」と表現されていたそうです。最近、包丁を研ぐことを始めたといういおり美容部員は、「切れない包丁」と「ファンデがのらないスポンジ」に思いを馳せていたそうです。すごい、通じ合ってる。

この辺りで薄々気付き始めました。
道のりは長そうなものの、メイクのロジックを理解すること自体は、きっと不可能ではないのだと。
いおり美容部員がこれだけすらすらと私たちにわかる言語で解説できるのは、その道のりにたくさんのコスメや時間などの「コストの屍」を乗り越えてきたからに他なりません。
それは、料理と一緒なのです。
料理もメイクも失敗を繰り返しながら、ひとつずつ、身につけていくものなんですよね。


「手を抜く」余地を残すいおり美容部員の優しさ

この後もメイクプロセスに関する厳しくも優しさに溢れる指導が続きますが、その中でとても大事なことがあったことに、後々気が付きました。その気付きを与えてくれたのは、ぶたやまさんによる後日談なのですが。
それは、彼女が「余裕があればこれも」とか、「面倒ならこれは省きましょう」といった言葉を、折に触れて使っていたことです。

この集まりに参加したとある人は、「朝は“5分”を捻出するのが難しい!」としきりにおっしゃっていました。
この気持ちに、私はとても共感しました。私は隙あらば睡眠時間を延ばしたいタイプなのです。とにかく朝はギリッギリまで寝ていたい。
もっとも、この方はご家族への対応や諸々の準備を考えると時間が足りない!という、私と比べたら雲泥の差の、至極全うな理由で悩んでいらっしゃったのですが…
そんな悩みにも、いおり美容部員は頭を捻りながら、「最低限、これはやりましょう!」と彼女に合った提案を必死で考えていらっしゃいました。

料理のレシピ本で、「手を抜くならここ」とか、「最低限これはやりましょう」とか、「これはこれで代替できます」とか、そこまで細かく解説したものって、あまりないように記憶しています(もしあったらごめんなさい。私の様な料理ベタには、むしろそのような本が必要だと思うので、あるならばぜひ教えていただけるととっても嬉しいです)。

料理にせよ、メイクにせよ、アクセスの良さというのはとても重要です。
何しろ、「トライする」というのが、全ての道のりの中で一番ハードルが高いのですから。
いおり美容部員が折々に挟んでくれた言葉たちは、ビギナーの心を軽くする、さりげない魔法のワードだったのです。


会合が終わっても続く金言の数々

会合が終わった後、メンバー内で交わされた会話の中にも、金言が溢れていました。ダイジェストでご紹介します。

●ベースメイクの下地って、揚げ物みたいな感じで下地、ファンデ、粉…とつけるものが多いと衣は取れにくい、みたいな。
●工程は変わってもわからないのです!煮るとか揚げる料理と一緒!
●チークも気持ちひとふりで、仕上げのお塩と一緒です
●メイクも料理も足すのは簡単なので、最初は薄味からスタートしてOKです。

その知識の豊富さに、思わず「美容部員」と呼んでしまっていますが、いおりさんはあくまでコスメが大好きな「ふつうの人」です。
でも、この「ふつうの人」がリアルを教えてくれるのが、いいのです。とってもいい。
例えるならば。
洋服のモデルさんが海外のもんのすごおおおく美しい方だったりして、「参考になるかーーーーいっ!!!」と匙を投げたくなる、あの気持ち。
これが、身近にいる、そしてこちらを理解してくれる人が相手だと、スーッとなくなっていくのですよね。ちょっと偉そうな物言いになりますが、「真似してみたくなる。」その気持ちに、よく似ているように思いました。


料理とメイクは「=」なのか?

ここで、タイトルの質問に答えてみます。
果たして、料理とメイクは「=」なのか?

今までの経緯を踏まえた上で、私の答えは「No」です。
そりゃあ、そうです。ロジックが同じ、ないしは似ていたとしても、とっている行動は、まるで違うのですから。

ただ確かなのは、ぶたやまさんは、「メイク」という自分がそれまで知らなかった文化を理解するために、自分がよく知っている「料理」という言語を介して、新しい世界を手に入れようと試みていた、そしてそれは見事、成功の片鱗を見せていたということです。

きっと、それこそが大事なことなのだと思います。
遠い世界のように感じていることも、自分の理解できる世界に、ぶたやまさんの言葉を借りれば「引き寄せる」ことで、理解できるようになる。

人の手を借りつつ、自分の手で己の世界をぐいぐいと押し広げていくぶたやまさんの姿に、胸が熱くなったのをよく覚えています。
私たちは、「=」で結べない世界も、「≒」で繋ぐことによって、理解したり、飛び込んでいくことができるのです。
それは、自分の世界を広げていく、大きな力になることでしょう。

最後に、ぶたやまさんが率直な感想を綴ったツイートのツリーをまとめてご紹介して、この文章を締めくくりたいと思います。
このツリー、とっても素敵なんだよなあ。

#メイク #料理

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