「THE MODEL」で書ききれなかったこと

今年1月に出版した書籍「THE MODEL」をきっかけに出版元の翔泳社さんとの合宿企画「THE MODEL CAMP」やNewsPicksアカデミアの夏学期で「新時代のマーケティング・セールス」という講義を担当する事になりました。

テーマは、本に書ききれなかった事も含めて、より内容を深掘りしていき「実践に落とし込む」ことです。

出版後にいろいろな方とお話をする中で気づいたのは、本を読んでいない人、もしくは読んだ人でもTHE MODELとは、以下の方程式を管理する事だと誤解している人が多いという事です。

1. Web来訪者数 x 獲得率 = リード数 (マーケティング)
2. リード数 x 商談化率 = 商談数 (インサイドセールス)
3. 商談数 x 受注率 = 受注数 (営業)
4. 受注件数 x 更新率 = 継続顧客数 (カスタマーサクセス)

本の中では、これだけ見ていると行き詰まるという体験談から「リサイクル」の重要さを強調しているので、この方程式に加えてリサイクルを管理すればいいと考えている人もいますが、それだけが問題ではありません。本に含めると、あまりにも細かくなりすぎるので、本からカットした内容も含めて説明したいと思います。

マーケティング

Web来訪者数とは実際にはWeb Unique Visitor。獲得率はForm Conversionを指しています。つまり前提としてWebのフォーム入力経由のリードしか考慮しておらず、営業が名刺交換したり、イベントやセミナー経由のリードは全く考慮していません。理由はこのモデルを日本に持ち込んだ当時のビジネス環境として圧倒的に多くのリードがWebの無料トライアルやデモ動画経由だった事。また2004年当時の日本は個人情報保護法などの影響もあったと思いますが、フォーム入力のコンバージョンが他国と比べて良くなかったため、トラフィックを増やす事より、ランディングページの最適化をする方が優先度が高いという事で、Form Conversionを管理しようという意識づけのために、このような計算式にした経緯があります。しかし、通常の会社であればリードソースは多様であり、この指標だけ見ていてはマーケティングについては実践的でないと感じる人も多いはずです。ウェブ担当の人は普通に見ている指標ですが、マーケティングとしてこの指標だけ見るという事はありません。特にBtoBではオンラインだけでなく、オフライン経由のリード獲得も多いので、自然とこの計算式にはあまり注意が払われなくなります。リード管理については、一般的にMQL/SQL/SALの管理など参考にできる内容が数多く発信されていますし、書籍の中のリサイクルを考慮したフローと残高の管理チャートなどを参考にしていただければと思います。

インサイドセールス

リード数 x 商談化率 = 商談件数を管理する目的は、リードの質とインサイドセールスのスキルのどちらに問題があるのかをチェックするための指標です。商談化率が下がった時はそのどちらかに問題があると判断できるからですが、リードソースがバラバラだと難しいポイントが出てきます。

無料トライアルやデモ動画など「ある程度製品サービスに知識や関心があると思われる」リードばかりであれば、この数値をみる意味がありますが、展示会のリードなどが含まれる場合、リード全体に対する商談化率を見ても、あまり意味がなくなってしまいます。特に展示会などは不定期に発生し、一回に流入する数が多い傾向にあるため、展示会がある月は極端に商談化率が悪化する事になります。

ではリードソース毎に商談化率を見ればいいではないかとなりそうですが、事はそう単純ではありません。BtoBで特に商材が高額など、検討期間が長い商材では、単一のキャンペーンからすぐに商談化するのではなく、複数のキャンペーンを経由して商談化することの方が多いからです。例えば以下のように様々なマーケティングキャンペーンを経由して、5つめの無料トライアルの後にようやくインサイドセールスが商談化できたとします。

現実問題として、どのキャンペーンが本当に効いたのか誰にもわかりません。多くの場合First TouchとLast Touchのいずれかを採用することが多いと思います。しかしリードを育成したという観点からは中間に経由したキャンペーンが貢献したといえるかもしれません。そこまで考えるとリードソース毎に商談化率を見ることにどれほどの意味があるのかという疑問も湧いてきます。

しかし、とにかく一貫性を持って計測していこう。直近に経由したキャンペーン(Last Touch)で見ていこうと決めたとします。その場合も時間軸の問題を考慮しなければなりません。

リード情報を管理するCRMツールによっては、リードをマージする際に「作成日は古い方を有効にする」という仕様になっています。先ほどの例だと「リード作成日が2017年10月のリードが無料トライアルで商談化された」という判断になります。

月単位で指標を管理する場合は、以下の計算式になります。

(当月商談化した件数) ÷ (当月のリード数) = (当月の商談化率)

つまり、先ほどの例だと分子は当月の1件にカウントされる一方、分母としては遡って2年前に計上されるためおかしな事になってしまいます。では最新の日付を活かせば良いのかというと、過去のリードが再訪してくる度に新規リードとしてカウントする事になってしまうので、これもうまくありません。

回りくどい説明をしましたが、そもそも「リード数 x 商談化率 = 商談件数」という指標の管理はビジネスの立ち上げ初期で、入ってくるリードの多くが新規リードという時期しか有効でない管理指標という事です。インサイドセールスがフォローしても商談化しなかったというものがどんどん溜まっていった後では再訪リードの数が多数を占めるため、この管理は成り立たなくなります。

営業

商談数 x 受注率 = 受注数 を管理するのは、当たり前のように思えますが、これも考慮すべきポイントがあります。

まず、受注率をどのような計算式で弾き出すかについては、会社や組織で意外とバラバラです。最もよく見られるパターンは、以下の指標です。

当該期間に受注した商談 ÷ 当該期間にクローズした商談(受注+失注の合計) = 受注率

商談の受注・失注が確定するタイミングはバラバラなので、その期間白黒はっきりついたものの中で何件が受注したのかという見方をすれば、トレンドは見えるという発想です。この計算式を使うには失注商談について、失注が確定した日付でClose dateを入力する徹底が欠かせません。もともと、9月に受注予定で見込んでいた商談が7月に失注した場合に、7月にする人と9月のままで商談ステージを「失注」に変更する人が混在しては一貫性がなくなるからです。またこの見方は比較的短いサイクルで商談が決まる場合には有効ですが、商談期間が最低でも3ヶ月以上かかるような商材や営業組織の場合は、四半期単位で受注率を管理する事にして

四半期の受注金額 ÷ 期初の商談パイプライン金額 = 受注率

として管理する方がシンプルになります。期中作成・期中クローズがないので、目標金額の何倍積んでおけばいいという目安になりやすいからです。

しかし、ビジネスの年数が経過すればするほど、新規だけではなく既存顧客からのアップセル・クロスセルの割合が増えてきます。一般的にはアップセル・クロスセルの方が受注率は高くなります。新規ビジネスの受注率を管理する事は商談の質と営業のスキルのバランスをチェックするのに有効ですが、新規商談とアップセル・クロスセルを混在させて受注率を見ても、正しい判断はできません。

またアップセル・クロスセルの受注率は高ければ高いほどいいとは限りません。受注率が高い場合、顧客が欲しいと言ってきた後に商談を作成する受け身の営業になっている可能性があり、受注率が低い営業はむしろどんどん新しい提案をぶつけているという可能性もあります。

カスタマーサクセス

契約更新率を管理する事はサブスクリプションモデルである以上、どの会社でもやっている事だと思いますが、これについては件数ではなく、金額ベースで管理する事になるでしょう。全ての顧客に均等に社内リソースをアサインする事はできないので、どこにリソースを割くのかの意思決定が重要になってきます。契約金額のレンジや企業規模など様々な角度からセグメンテーションしていく事になります。

多くの人が「単純な方程式や指標だけ管理すればいい」とは思っていないものの、では何を見ていくべきなのかという点でモヤモヤする事も多いのではないかと思います。結局指標の管理というのは指標管理そのものが目的ではなく、そこから実際のビジネスで何が起きているかを想像するためのものであり、そのためにはビジネスの成長や環境の変化で見るべきものを変えていかなければなりませんし、自社の製品サービスの特性によって見るべきものは変わっていきます。ここがまさに経験で、事業の成長と共にいろいろな課題を通ってきた人はこの勘所がありますが、実務で経験していないとこのあたりが見えてきません。考え方はわかった。しかし実際に自社のビジネスに落とし込めないという場合、このあたりに課題があるのではないかと思います。(もちろん人材やカルチャーの問題も大きいのですが)

「THE MODEL CAMP」やNewsPicksアカデミアでは、現場の一線で働いている人たちの生の声を聞きながら、より深い議論を行い、参加者全員にとって学びの場にしていきたいと思います。



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