THE MODELをそのまま実装してほしいと上司から言われた人に
先日#success4に参加した時「上司からTHE MODELの本を渡されて、これをそのまま実装してほしいと言われている」と話していた方がいました。過去にも同じようなケースを聞き、これは良くないなと思いましたので私なりにポイントをまとめてみました。
そのような上司の方がいたら、まず以下の本の抜粋を見せて「著者もこう言ってます」と伝えていただければ。
その他のポイントは以下箇条書きで。
・この本で伝えたいのは、プロセスそのものではなく、そこに至る背景を紹介することにより原理原則を理解して、自社にとってのモデルを作る参考になればという事です。
・プロセスや組織について、EnterpriseやSMB、セルフサービス型などで分類する方法はありますが、会社のステージや製品の認知度、検討部門の特性など様々な要素が影響するので、パターンを整理するのは至難の業と思います。
・セミナーで「XXの施策を打ってCVがXX% Up」という話を聞いても、自社の市場環境や製品特性が違えば、誰もそのまま真似しようとは思わないと思いますがそれと同じです。
・SMBはInbound。EnterpriseはOutboundという分け方は切り口の一つにはなります。例えばsalesforceの初期はInbound leadはほぼSMBから。大手企業が自ら問い合わせや無料トライアルを申し込む事はなく、Inbound leadに頼るやり方は機能しませんでした。一方でMarketoの場合、マーケターが検討主体で、大手企業でも感度が高く、自らオンラインで情報収集する事に慣れていたり、MA自体の注目度も高かったため立ち上げ期から大手企業のInbound leadの割合が非常に高く、状況は異なりました。
・また、Marketoでもターゲットをマーケターから経営層にシフトするタイミングでは、現場の方向きのコンテンツではなく、Thought leadershipに力を入れたり、Executive Roundtableなど違ったアプローチが行われました。ターゲットやテリトリーに応じてパターンが増えるというイメージです。
・大手企業にアプローチするためにはOutboundで手紙やDMなどのアプローチをする事は有効と言われますが、全く知名度がない時は明らかに確率が悪いので、ある程度実績が出てきたところから投資した方がいいのか。それとも、大手企業に狙いを定めて、最初から広告宣伝費を突っ込んで勝負を賭けるのか。リソースを分散させて、大手への仕込みはある程度しつつ、SMBで当面の売上を稼ぐのかなど判断の分かれ目は山ほどあります。
・つまり企業セグメントだけでなく、購買層の特性や、製品のライフサイクルとして市場に認知されているものかそうでないものか、自社の規模や体力などあらゆる変動要因が考えられます。
・つまるところ、考えるべきポイントは、マーケティングや営業の手法やアプローチの仕方ではなく、リソース配分ではないかと思います。極論を言えば、マーケも営業もカスタマーサクセスも誰もいない状態で売上が上がるのが最も理想的で、それでは無理だから、では営業を採用しよう。営業だけでは難しいから、マーケを採用しようという順番で考えるべきで、最初から役割を配置するというのは順序が逆という事になります。
・例えば、今期に給与で5000万円分、採用できる予算があるとして、年収1,000万の営業を5人採用するのか、500万の営業を10人採用するのか。1,000万の外勤営業4人と500万のインサイドセールス2人にするのか。来期のキャパシティを作るために、入社時期を段階的にずらしてコストを調整するのか、営業を一人諦めてSales Enablementを採用するのか。人を採用する代わりに、マーケティング予算に振り替えるか。
・部門長レベルだと、与えられた戦力でやり切る、自部門が忙しいのでHCを確保するという発想になりがちなので、プロセス全体を見据えて判断をするCRO(タイトルは何でもいいですが)的な人が重要になります。
・これらの判断をする時の根拠となるのが、ボトルネックの特定で、顧客が関心を持ち、検討し、購入し、ロイヤルカスタマーになっていく過程をステージ設計しフロー/残高を管理します。但し自分がなぜ意思決定したか、自分は今どのような状態にあるかを顧客自身ですら理解していない事の方が多いわけで、正確さや厳密さを求めるというより、あくまでも傾向を掴むというレベルです。
・Enterprise、SMB、マーケター、IT部門、どのような購買層でも必ず認知して、検討し、購入するというプロセスを通ります。あるとすれば、通過するスピードや動いてもらうために適切なコンテンツやチャネルが異なるという事です。
・あるステージから次のステージへ進んでもらうために必要なのが施策・コンテンツ(メッセージやコミュニケーション)であり、それを伝える手段がチャネルという事になります。メールやDMだけでなく、インサイドセールスや営業という役割そのものがチャネルという考え方です。
・ステージ設計の大枠はどの企業でも変わらないので、自社の特性に合わせて、施策やコンテンツを考えて、伝えるチャネルをターゲットに合わせて設計するというプロセスとなります。またチャネルは直列に並ぶわけではないので、マーケティング、インサイドセールス、営業が連携してステージAからステージBへ動かす連携プレイなども考えられます。メールとインサイドセールスの組み合わせで興味関心を動かすのもその一例です。
・カスタマーサクセスに至っては更に多様で、ビジネスプロセスそのものを改革していくコンサルティングを求められるケースもあれば、コミュニティマネージャー的な人が求められるケース、会計システムのように決まったオペレーションを回す場合は、そもそも活用支援などは求められない事もあると思います。その顧客が何を求めているかを起点に、必要なサービスや役割を考えていく事がより求められていくと思います。
・さらに適切な役割やプロセスが描けたとしても、それを実行する人がいなければどうしようもありません。極端な例ですが、案件発掘から受注、顧客のケアまでなんでもできるスーパーマンみたいな人と、指示を出せばやれるが、独り立ちはできないレベルの人がいる時に、役割を営業とカスタマーサクセスに分けてお互いの範囲を区切るのは現実的ではなく、お互いの仕事量やスキルに合わせて仕事を分担すると思いますが、それと同じように人と求められる仕事のバランスを見ながら配置しなければ仕事は回りません。
・CROの仕事は、粘土細工を作る時に、まずおおざっぱな形を作った後に、少しずつ、あっちやこっちを微調整しながら、細部を調整しづけていく事であり、レゴのパーツが用意されてあって、それを組み立てる仕事ではないという事です。
・また、スタートアップ企業の方に多いのが「salesforceをお手本にしたい」というパターンですが、その場合は私の本よりは「クラウド誕生」を読む方が得られるものが多いと思います。
・そもそもsalesforce本社にThe Modelという言葉は存在しませんし、いわゆる分業体制のようなものが成長の源泉だという認識はあまりないと思います。スタートアップが研究するとすれば、既にマーケットを支配しつつあったSiebelをどう攻略したのかを当時の競合状況や市場環境を含めて調べると発見があると思いますし、1 ProductからMulti Productへの移行。ApplicationからPlatformなど成長過程でどのような戦略を採ったかを時間軸と共に歴史を研究する方がスタートアップのステージの企業には学べる事が多いと思います。
・最近はセミナーやコミュニティも盛んで、情報収集の場はたくさんありますが、インスピレーションや刺激を受ける場としては有効でも、施策レベルの話や一般化したモデルの話を聞くだけではなかなか実戦に活かしづらいと思います。
・その時間があるなら、1人でも多くの顧客や、社員と話したり、製品を勉強する時間に費やす方が大事だと思いますし、セミナーや勉強会に参加した場合はプレゼンターの人に、「なぜ営業とインサイドセールスの人数配分をそのようにしたのか。なぜその役割をおいたのか。など意思決定の根拠を質問すると、より有効な場になると思います。
・そして新しい事に見えても、ほとんどの事は随分前から先人が言っている事が多く、やはりその原典に触れる事は重要だと感じます。セールスにしろ、マーケティングにしろ、ある内容をノウハウっぽくまとめてわかりやすくすると、「これ使えそう」となります(私の好きなメンタリズムとか心理学では、この手の本が多い)が、原典と言われるような本に触れると、得られる情報や深さが違うのかなと思います。
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