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「神奈川ダービー」の真価

2023年も半分が終わり、連日の猛暑が夏本番を感じさせる今週末、横浜F・マリノスは、同じ神奈川県に属し、直近6年間でJ1王者の称号を分け合ってきた、川崎フロンターレと相対する。
リーグ戦の対戦成績は、F・マリノスの15勝7分17敗とほぼ互角であり、後半戦の行方を占うような時期でもあることから、両者にとって負けられない戦いとなる。

このダービーを迎えるたびに少しだけ話題となるのが、「本当のライバルはどこなのか」という話。
ここ数年で、ダービーやそれに類するものとして挙げられているカードは、同じ神奈川県内に存在する川崎フロンターレと湘南ベルマーレ、横浜市内に存在する横浜FC、そしてオリジナル10にして一度もJ2に降格したことがない鹿島アントラーズとの試合だ。

中でも川崎フロンターレとの対戦は「神奈川ダービー」と銘打たれ、J2在籍期間の長かった湘南や横浜FC、最近になって「The Classic」と名付けられた鹿島との試合以上に集客に力が入っていることが伺える。

しかし、必ずしもサポーターがこの順番で熱量をもってライバルチームを意識しているわけではない。
前述した中では、川崎、鹿島、横浜FCが特にライバル視されているのに対し、湘南はそれほど意識している人が多くないと感じる。それに加え、東京ヴェルディを古くからのライバルとして考えるサポーターもいる。

また、多様な価値観が存在することは構わないのだが、それを川崎との試合と比較し、川崎との試合には大して価値がないというような意見をする者もいる。最初にこの意見に対し私から伝えさせていただきたいのは、そのようにして川崎戦を軽視すること自体には全くもって意味がないということである。

改めて書くが、川崎以外との試合にも重要な試合はある。鹿島はJ1クラブの中でも特別な存在であるし、ヴェルディはJリーグ開幕以前からのライバル関係である。ただ、それらと比較して川崎との試合の価値を下げようという行為にメリットは無い。それどころか、デメリットとなる可能性すらある。

歴史や因縁等の観点から言えば、ヴェルディやフリューゲルスがマリノスにとってのライバルであろう。ただ、残念ながらこの両チームとの対戦は2008年以来リーグ戦では行われていない。それどころか、片方のチームはもう存在していない。

ここで話が変わるが、"商業"という観点から言えば、ライバルチームとの試合が存在しないということはクラブにとって損でしかない。"ダービー"が存在することで、その試合での集客が見込めるのはもちろんのこと、それほど熱狂的でないサポーターのクラブに対する帰属意識を高めることができる。
それを狙って企画されたのが2013年の「skyシリーズ」であり、それ以降は「神奈川ダービー」としてその役割を担っている。これが、川崎戦を極端に軽視すべきでない理由の一つである。

そして現在の神奈川ダービーは、盛り上げることを意図的に仕組まれたイベントという域を完全に脱しているだろう。skyシリーズの登場から早くも10年が経過し、当時10歳だった子供は今年で20歳を迎える。そして、その間に21回もの川崎との神奈川ダービーが行われた。

この事実を鑑みれば、川崎をライバル視せずに育つ子供はほとんどいないだろうということは一目瞭然である。もちろん、子供だけでなく、その家族や大人になってから新たにサポーターになった人々もいる。特に熱狂的で、過去の因縁について熟知している人を除けば、これらの人々にとってのダービーマッチとは、川崎との「神奈川ダービー」なのである。現に、筆者も当時はまだ子供であり、どのカードよりも川崎との試合に対する熱量は大きかった。

三度、書かせてもらうが、これは川崎以外のチームとの試合の価値を下げようというものではない。ただ、Jリーグ創成期から見ていたわけでもない人間にとって、ヴェルディがライバルだと言われても全くしっくりこないし、横浜FCはちょっと勢いが出てきただけの万年J2クラブで、鹿島は名のある強豪チームということでしかない。

一方の川崎は、同じ神奈川県内で隣接する街であり、いやでも日頃からその存在が目についてしまうのである。東急の駅に行けば川崎のラッピングがされた自動販売機があるし、川崎市内のターミナル駅には必ずと言っていいほど水色のフラッグやポスターが存在する。そのような環境もまた、対抗心を加速させていると言えるだろう。
余談だが、筆者の住むどちらのホームタウンでもない地域では、両クラブのサポーターが共存するコミュニティがごく普通に存在し、日常的に火花を散らしていることも珍しくない(横浜市内でもこのような例はあると思うが)。

まれに、このようなものを"商業ダービー"などと揶揄する者もいるが、「神奈川ダービー」はそのような次元を超え、既に一定程度成熟した文化になっていると考えられる。

以上のことを踏まえれば、他クラブとの関係がどうであるかに関わらず、今や川崎との間には間違いなく因縁が存在し、決して負けることの許されない試合であることは間違いない。今回の対戦について言えば、2位以下のチームとの勝ち点差が離れていないというバックグラウンドなんかは本当にどうでもよく、とにかくこの一戦に勝たなければならないのだ。これこそが「神奈川ダービー」の真価である。

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