顔。

地下鉄が好きじゃない

景色が見えず 鏡のように
トシを感じる疲れきった顔が映り
目を背けたくなる

若さ、に 価値を見出さない、若さは未熟さとしかとらない年下の男性に愛されつつも

彼が私を選んだのは 実年齢より10から15若く見える顔立ちのせいかもしれなく

朝、鏡の前で装う時には
きりっと紅をひき
まだ 女盛りのつもりで姿勢ものびるが

若く端正な恋人に寄り添って
地下鉄の窓に映り込む自分に
どうしてもひけめを感じてしまう

自分が 彼に釣り合うのか
不安は消えない

私に あなたに愛される価値があるのか
わからなくて訊いたとき

あなたはモノではないのだから
価値なんて 悲しいことを言わないで

何十年と凝り固まった何かが
溶けるような気がした

幼い頃から 親にお利口で賢く綺麗でないと うちの娘に相応しくないと戒められ

嫁げば 僕の妻に相応しく振る舞えと

それが当たり前だと思い たいした重荷のつもりはなかったけれど

世間を知り、歳もとり、挫折を繰り返し

必要とされるだろうラインに
頭脳も美貌も人間性も届かない、と自信を失ってはじめて

自分を愛せない根本的な原因と対峙した

変われるとも思わないけれど

世代も価値観も違う彼と生きていくうちに 新しい発見も増えていくだろうか

顔は男の履歴書とよく言う
苦労も成功も失敗も見える顔が信用できる

女はまた違う気もする

少なくとも私は、生きてきた景色が見えない顔でありたい

そのために色とりどりの粉で
顔に絵を描くような気もしている

#エッセイ

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