自分だけに特別な風景

お出かけ先の素敵な景色や楽しかった思い出の写真は 私はあまり撮らない。

その時、一緒にいる人とそれを眺める時間のほうが スマホを構える時間より大切だから。

一枚だけ、思い出に。

子供時代、写真が異常に好きな父と出かけると
ポーズばかりとらされ
歩いて。振り返って。そこでママと並んで。
辟易した。
父は ファインダーごしの家族と
現像された写真の中の家族を愛した

運動会で ファインダーごしにしか我が子を見ない拍手も声援もしない記録と思い出のほうを愛する親、の典型

ほんとうに 大切な写真なんて
人生に多分、数枚

胸を温かくする写真は 特別な場面の記念写真じゃない

日常の
いつもの場所で本を読む誰かの横顔かもしれないし

いつも待ち合わせた 駅の改札の写真かもしれない

休みが合わないから
私が休みの日は 彼を会社の最寄駅に送る
一緒に電車に揺られ うたた寝する彼を駅で起こして 改札で手を振り
カフェで珈琲を飲む

私が眠ったら乗り過ごす、と
懸命に起きているから
彼の背中を見送った寂しさと眠さを
美味しい珈琲で癒す

いつか
互いにこの仕事は辞めるから
この景色は思い出になっていく

たまに 互いに そろそろ仕事切り上げると決めた時間が合えば
2人の勤務先の中間駅で 待ち合わせる

疲れた顔でエスカレーターを上がってくる彼を 見つけようと 見つめ続けた景色

いつか 優しい思い出になればいい

一度きりの素敵なロマンティックな思い出より

温かい日常の繰り返しのひとこまを愛してやまない

#エッセイ

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