見出し画像

神宮外苑再開発:イチョウ並木の陰で伐られる3000本の木々

神宮外苑の再開発については、反対運動が起きていますが、残念ながら、2023年2月27日に東京都が認可し、3月下旬には神宮第二球場の取り壊しが始まります。

再開発に対する批判や反対は、いろいろなところで語られているので、今回の一連の動きの中で気になった「残される木と伐られる木」について、すこし書いてみます。

「神宮外苑再開発問題」とは

「神宮再開発問題」とは?
なにかと話題の「chatGTP」に聞いてみました。

chatGTP 回答のスクショ

さすが! かなり的確にまとめてくれました。

反対の理由はchatGTPの答え通りですが、
反対運動の根源にあるのは、100年近く親しまれた「明治神宮外苑」を、「神宮外苑」の名称以外は、すべて一新するような大規模な再開発にもかかわらず、その計画内容や地元説明会などを
「極力人に知られないように こっそり」と済まし、準備万端整ってから、浮上させたという「姑息とも思えるやり方」だと思います。

再開発の概要

再開発は、現在の神宮球場(と隣の第二球場)と、秩父宮ラグビー場をそっくり入れ替えて、その周りに38階や40階などの高層ビルを建てるという計画です。

東京都都市整備局「神宮外苑地区のまちづくり」より
左図は完成予想図(同上)、 右は同じ場所の現状(googleEarthから)

新しい神宮野球場は、ホームスタンドと内野スタンドの上部にホテル・フロアが併設され、さらに三塁側内野スタンドの背後には、40階建ての高層ビルがそびえるそうです。

上記資料から抜粋して作図


強行突破の切り札は「 いちょう並木保全」?!

今回の開発については、
強引な進め方や、大規模な現状改編とそれに伴う樹木伐採などへの批判や反対運動などを受けて、22年3月に計画変更が発表になり、
懸念が大きかった「いちょう並木の保全」という言葉は盛り込まれたものの、具体性に乏しい内容にとどまりました。

【変更前】
・歴史的な都市景観や緑地環境を保全し、より魅力的で利用しやすい地区として整備する。
【変更後】
・歴史的な建築物や後背地の緑地環境を保全し、神宮外苑の4列のいちょう並木から明治神宮聖徳記念絵画館を臨むビスタ景をはじめとした風格ある都市景観の形成及び豊かな緑と調和した憩いと安らぎの空間整備を図る。

【項目追加】
・隣接するいちょう並木や公園施設としての開放性に配慮しながら神宮球場の建替えを行うとともに、まとまった規模の広場や歩行者デッキを整備する。~
【項目追加】
いちょう並木から明治神宮聖徳記念絵画館へのビスタ景を保全しつつ、スポーツ交流機能の導入を図り、地区の歴史や創建趣旨を継承した明治神宮聖徳記念絵画館の前景となる広場を整備する。
【項目追加】
いちょう並木や既存樹木を保全し、緑豊かな都市景観の形成を図る。

神宮外苑地区第一種市街地再開発事業の施行を認可します:東京都HP
いちょう並木と絵画館前のビスタ景
東京トリップ (一社)プレスマンユニオンHPより

それでも尚、批判や反対がおさまらず、さらに
批判の矛先は認可権を持つ東京都の態度などにも向いてきました。
それを受けてか、2022年05月27日に小池都知事は、三井不動産と伊藤忠の社長などに対し、
都知事名で神宮外苑地区におけるまちづくりに関する要請を行いました。

都知事要請は全6項で、抽象的な項目が多い中、「4列のいちょう並木」だけは、具体的名称を上げて保全に万全を期すよう求めました。
(他の既存樹木は、「極力」「質の保全に努めること」にとどまっています)

この要請に対する事業者側の返答は、
先の計画変更の「4列のいちょう並木のビスタ景を保全する」を繰り返し、移植・保存樹木に149 本を加えた程度の内容でしたが、
その後、都側からさしたるアクションもないまま、2023年2月27日に東京都認可に 至りました。

筆者撮影

ここまでの経緯は、
事業主側と都知事の間で「いちょう並木を守る」という事をキャッチボールしただけの気がします。

いちょう並木だけをクローズアップし、他の事から目を逸らさせて
「小池都知事が、いちょう並木を守った」という形での幕引きを狙ったとのでは、邪推してしまいます。

再開発によって伐採される「3000本以上の木」

いちょう並木は保全されることは決まりましたが、
既存樹木は当初の「約1,400本の伐採」が、修正計画では「743本」となったものの、「743本もの木が伐られる」ことも決まりました

しかもこの「743本」には、
高さ3メートル未満の『低木』は含まれておらず、
3月下旬から始まる第2野球場解体工事では、
『低木』が約3000本が伐採予定だそうです!

高さ3メートル未満の低木は環境アセスメントの対象外なので、工事に伴い何本伐採されるのか、これまで示されてこなかった。そのため、以前から事業者に本数を調査するよう依頼していた。17日の許可申請で、「3000本弱が伐採対象だ」と事業者から伝えられたのです。

日刊ゲンダイDegital 2023/02/23 

つまり、いちょう並木にばかり目が行きがちですが、
今回の再開発で都心の貴重な樹木3000本以上が伐採されるのです!

ちなみに、環境アセスメントでは「樹高3メートル以下は『低木』扱い」ですが、環境庁が発表しているかおりの樹木データ一覧」では、低木は大人が先端に手が届く概ね2m以下が「低木」です。
バスケットのゴールの高さ(3.05m)に近い木を、樹木扱いせず、無分別に伐採することは決して許されることではありません。

「残すべき木」と「伐られる木」は人間の都合や好みの問題?!

「あの見事ないちょう並木が守られたんだから、オッケー!」
「いちょう並木が守られたんだから、他の木は仕方ない」

いちょう並木がしっかり守られたことは、
それはそれでとても良かった(本当は保全が当たり前ですが)のですが、
その美談?の陰で、3m以下の木々が3000本も 伐り倒される・・・
見方を変えると、3000本の木がいちょう並木の身代わりになったということを、忘れてはいけないと思います。


「神宮の森を薮にするのか、薮はよろしくない、杉林にするべきだ」

今回の神宮外苑のお隣「明治神宮」の公式サイトによると、
明治神宮の杜は、明治天皇と昭憲皇太后をお祀りし、人々が静かに祈りを捧げる「永遠の杜」とするべく、1920年に、何もない畑地に約10万本を植栽して造営されました。

その際、内閣総理大臣であった大隈重信の指示は、
「神宮の森を薮にするのか、薮はよろしくない、杉林にするべきだ」だったそうです。
大隈首相にとって、天皇を祀る場所にふさわしいのは、伊勢神宮や日光東照宮の杉並木のように雄大で荘厳な「森」であるべきで、林学の専門家たちが提案した照葉樹を針広混栽した「薮」などもってのほか…と云う事だったそうです。

樹木に対するルッキズム

林形の整った単一種の樹木が整然と並んだ森林は確かに見た目も清々しく、
様々な種の樹木が入り混じった森林より価値が高そうに見えますが、
それはあくまで人間の経済的価値観や美意識に基づくもので、けっして、樹木や森林に普遍的な優劣がある訳ではありません。

人間同士では、ルッキズム(外見至上主義)は差別であるということが、定着しつつありますが、森林や樹木に対してはその意識が依然としてあると思います。

今回の再開発の件も、見目麗しい いちょう並木を特別扱いして、ほかの樹木をないがしろにしたという点、共通している気がします。

ちなみに、大隈首相から「杉林にせよ」と言われた林学の専門家たちは、
「百年後の森のありよう」を枉げず、椎・樫・楠などの照葉樹を主な構成木として選びました。

まさに、樹木について、ダイバーシティ&インクルージョン:外面や内面の属性にかかわらず、それぞれの個を尊重し、認め合い、良いところを活かすことを大切にしたと感じてしまいます。

そして、その際に描いた将来の予想図には、百年後の今の森が描かれており、ただただ敬服です。

明治神宮公式HPより

東京都の認可が下りてしまった「神宮外苑再開発」は、反対運動があったとしても、最早、大きな計画変更は望めないと思います。

でもせめて、既存木を移植等で できる限り残すとともに、新たな植樹については、百年前の先駆者の想いを引継ぎ、次の百年後につながる景観を目指してほしいと願います。

最後までありがとうございます。














この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?