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俳句チャンネル ~固有名詞(商品名)編~

【はじめに】
この記事では、2020年12月24日に「夏井いつき俳句チャンネル」へとアップされた動画『【商品名】「ラッキーストライク」は使ってOK?』について、「プレバト!!」の過去問なども含めてお話ししていきます。

1.商品名は詠み込んでも(勿論)OK

動画では以下の3句紹介されていました。商品名を詠み込んだ句の例です。

・春の坂丸大ハムが泣いている/坪内稔典
・寒いガレージにラッキーストライク忘れてある/きむらけんじ
・エイプリルフールを熱さまシートかな/加根兼光

(1)春の坂丸大ハムが泣いている

意味を考え出すと難しいという坪内稔典(つぼうち・ねんてん)さんの句。

ただ「丸大ハム」というチョイスが、他のハムの商品名(企業名)に比べてどうかという比較考察は面白かったです。

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「日本ハム」だと野球などとの誤読が生じてしまう可能性があるし、例えば「伊藤ハム」と比べると丸大という名前の(見た目的な意味合いも含めて)持つ個性というのを考えるキッカケともなる句です。

(2)寒いガレージにラッキーストライク忘れてある

72歳ながら、夏井組長いわく「自由律俳句」の世界では若手(?)とされる「きむらけんじ」さんの作品。

「ラッキーストライク」というのは、アメリカ生まれのタバコの銘柄です。季語【寒い】を受けるのが「ガレージ」。このあたりも、日本のタバコ銘柄でなくアメリカの商品名を詠み込んだ取り合わせ方かと思います。

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喫煙者ではない私にとっては馴染みがなく、一見すると、カナ9文字なので私は馬名みたく感じましたがww 生まれが郵便局とタバコ屋だった夏井組長一家には馴染みがある題材だったのかも知れません。

寒いガレージに白い箱と「赤いロゴ」の色覚的な対比が配されているのを、色の名前を直接的に言わずとも読み手に伝えるためのワン・テクニックだと言い換えられるかも知れませんね。

(3)エイプリルフールを熱さまシートかな

3句目は、夏井いつき組長のマネージャーという名の夫にして俳人である「加根兼光」さんの句。身内ネタ気味に捉えられるかも知れませんが、実は「俳句界賞」の受賞者だったりもします。

※毎年発売されている「夏井いつきの365日季語手帖」にも句が収録。

夏井組長と結婚して現在の活動を本格化する前は、博報堂の関西支社に勤務していたCM・映像プロデューサーの加根光夫(兼光)氏は、その頃からの縁もあってか、カタカナ語や商品名を多様される作風だそうです。

紹介された俳句『 エイプリルフールを熱さまシートかな 』は、エイプリルフールという季語の特性を、(加根さんが関わっていた事がある)小林製薬の『熱さまシート』と取り合わせる滑稽さが光る一句です。

2.商品名が詠み込まれた「プレバト!!」俳句

上記の例句3句は、全て非常に特徴的で印象的な単語が季語と同様か、それを上回るほどのインパクトを与える商品名でした。

ただ、「プレバト!!」で紹介された俳句の中には、そこまで商品名が主張をしない句も僅かながら存在しています。例えば、

『水玉の模様クロックスの日焼』/梅沢富美男

この「クロックス」というのは、商品名であると共に企業名でもあります。言い換えれば、企業名の代表商品名が代名詞的に一般名詞化したものです。

逆に「一般名詞化」してしまっているために、例句にあった『ラッキーストライク』ほどは語れる情報量が無かったかも知れません。

同じく、実は「ヤマハ」の商標登録である『VOCALOID(ボーカロイド)』も、プレバト!! で詠まれたことがあります。

『色のなき風やボカロのラブソング』/岩永徹也
(参考)「色なき風やボーカロイドのラブソング」

作者的には「ボカロ」と略した表現を使いたかったのだろうな、だから文字数的に「色のなき」として上五を作ったんだろうな……
とかはさておき、こうした「ボカロ」という(或いは音楽の一ジャンルを形成するような)単語を詠み込む現代性を感じさせる例です。

個人的にはこの句、添削例との折衷案で『色なき風やボカロのラブソング』とするのが好きなのですが、細かい表現はさておき『色無き風』という古風な季語と、現代的な無機質で温かみのあるものとの取り合わせは最高です。

最後に、季語ではない「商品名」の着眼点のヒントをご紹介致しましょう。

・『シウマイは売り切れ駅も年の暮れ』/森口瑤子
 →『シウマイは売り切れ駅は年の暮』

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普通の「焼売」でも大きく意味は変わらないのですが、この「シウマイ」と書く字面の効果の偉大さを感じます。

表記だけで特定のお店の、特定の地域の、あるいは特定の移動手段といった舞台を設定できるのです。これを意図通り使える様になれれば、名人も掌中におさめられると言っても良いのではないでしょうか。

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3.季語 × 商品名のパワー

先ほどの「クロックス」は一般名詞的でしたが、今度は季語に準ずるものが商品名となっているケースをご紹介します。

・『新緑がレイバンそっと外させる』/板尾創路
 →『新緑の眩しレイバン外し見る』

『レイバン』は、メガネ、そして「サングラス」のメーカーにして商品名。ですから、捉えようによっては「季重なり」なのですが、まあ「レイバン」とすることで字面における季語の力は多少弱まっているとも言えそうです。

むしろ季重なりを「弱める」という上級テクニックとして捉えることも出来ますし、それに加えて「レイバン」というネーミングが、ある時代における憧憬みたいなのが演出されたりもしましょうね。

もう1例、こちらは唯一の季語を商品名とした句です。2020年炎帝戦から。

・『スイカバー隣に君のいない海』/春風亭昇吉

添削は無かったものの決め手に欠いて、予選2位から敗退となった句です。ただ、「スイカバー」というアイス(夏の季語)の商品名に絞った所から、場所や人の関係性などを描こうとした春風亭昇吉さんのバランス感覚は流石ですよね。

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これは、「アイス」に「スイカ」の要素を取り入れた『スイカバー』という商品を通じて、「アイス」と「西瓜」という夏の季語の雰囲気を2つも取り込むという贅沢な目論見が含まれている様にも思いました。

(一方では、「他の類似商品でも良いのではないか?」という、季語で言う所の『動く』が当てはまらないかの検証は必要かも知れません。)

最後にご紹介するのは、立川志らく名人が「3段」に昇格した一句です。

・『三ツ矢サイダー三島由紀夫の覚悟』/立川志らく

立川志らく名人が得意とする人物俳句でありつつ、その破調の後半のインパクトに負けない前半部分を構成しているのが商品名にして季語である所の『三ツ矢サイダー』です。

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今から50年ほど前(1970年秋)に自決をした文豪・三島由紀夫が、サイダーの俳句を詠んでいたことも踏まえつつ、「三ツ矢」と「三島」で韻を踏み、敢えて『三ツ矢サイダー』とすることで、当時であれば「瓶」に描かれたるロゴが映像となる所までキッチリと計算し尽くした一句だと思います。

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これ、単なる「サイダー」でも夏の季語として成立するのですが、一つには「三島由紀夫の覚悟」という後半部分のインパクトが強すぎて普通の無機質な季語だとパワーで負けてしまう点。もう一つには「ロゴ」などを通じて、透明なサイダーという季語の弱みである「映像」を補強してる点でしょう。

これも例句として挙げられていた「ラッキーストライク」と同じで、商品名を示すことで一般名詞にはない「映像化」の効果も期待できるのです。

【おわりに】

今回は、「商品名」に詠み込んだ俳句を中心にご紹介していきました。

「こんな言葉、俳句に使って良いのかシリーズ」は、他にも、

などを記事にしているので、そちらもご覧ください。

それではまた次の記事でお会いしましょう。Rxでした!ではまたっ!

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