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俳句チャンネル ~アルファベット編~

【はじめに】

この記事では、2020年8月27日に夏井いつき俳句チャンネルにアップされた動画『【英語・記号】俳句に英語やカタカナって使っていいの?』の中から「アルファベット(動画内では英語)」に特化してお送りします。

動画内で家藤正人さんが『こんな言葉、俳句に使っていいのかシリーズ』と仰っていた連作の第1回に当たります。 ↓

この動画では、まず「カタカナ」について解説され、それに続いて「英語」(言わば「アルファベット」のこと)を使っても良いんです!ということを解説しています。ということを解説しています。

現代において、アルファベットは既に日本語の一部といった感じで日常生活に馴染んでいますから、不自然な形でなく、詩心を演出する妨げにならなければ全く問題ないという風に夏井組長は考えている様です。

(※)この記事を寄稿した翌日(2020/08/30)、続編として英語に特化した動画がアップされました。そちらも別途御覧ください。(↓)

1.(鑑賞)『KiOSKの書棚くるくる雁渡し』/岡本眸

まずは動画内で英語表記での名句として紹介されていたのが、見出しに書いた岡本眸(おかもと・ひとみ:1928~2018年)さんの句です。

『KiOSK(キヨスク)』:駅の売店のことで表記は揺れがありそうですが、動画内の表記(i のみ小文字)に準じました。
『書棚くるくる』:昨今。都会の駅の売店で『本棚』というと、むしろ書店と遜色ないレベルの『棚』を広くスペース取っていますが、それをくるくると回すことは出来ないかと思います。
恐らく、↓ の写真にあるような、数畳に所狭しと商品を陳列していたホームの売店で、目の高さにある簡易的で4方向に本を並べてくるくる回す書棚の方を指しているものと鑑賞しました。

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『雁渡し』(季語):雁が渡ってくるころの強い北風(秋・天文)

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この句を鑑賞する上で、『実体験』を持っているかどうかに左右される部分もあろうかとは思いますが、『あるある感』に季語がバッチリ合っていて、(ネットを調べる限り、あまり有名な句ではないようですが、)夏井組長が絶賛するのも頷ける名句だと思いました。
ではここからは、夏井組長による評を引用していきます。

『私これ初めて見た時に、岡本眸さんのような俳句の実力者が、こんな言葉(当時はカタカナ語ですら嫌う保守的な意見も根強かった中での英語使用)を使われるんだということに、開放感というか、何でもありなんだ!

岡本眸さんは、昭和生まれで戦後活躍された女性俳人です。ウィキペディアには「俳句は日記」を信条としていたとあり、そうした所からも『KiOSK』の様な単語を取り入れたのだろうと想像が出来ます。

平成に入って紫綬褒章や蛇笏賞を受けるような偉大な俳人が、そうした保守的な意見も根強い中で使ってきたアルファベット。さぞかし新鮮に映ったのではないでしょうか、想像に固くないところです。

ちなみに、この句の『KiOSK』に限らず、この後に出るアルファベット表記の単語も、カタカナなどで書こうと思えば当然書ける訳ですよね?例えば、

(原句)『KiOSKの書棚くるくる雁渡し』
       ↓
(比較)『キヨスクの書棚くるくる雁渡し』

ただやっぱり、ひらがな・カタカナ、漢字ばかりの句が並ぶ俳句の世界で、比較句の方だとカタカナとはいえ原句に比べて文字面のインパクトはかなり削がれてしまっている印象です。
多分、流し読みしてたら目に止まりづらいでしょう。

一方、原句の方は、駅で『KiOSK』の看板に目が止まる様に、俳句にアルファベットが配されていることで、自ずと、目に止まりやすくなる印象です。英語を“意図して”入れる、またはアルファベット表記にすることでの衝撃、インパクトが期待できるのは直感的にも分かりやすいと思います。

それでは、身近なところで、「プレバト!!」で披露された俳句達の中から、アルファベットが含まれているものを“ピックアップ”しましたので、ざっと鑑賞していきましょう。

1.アルファベット1文字編

カタカナでも表記できるのに敢えてアルファベット的なものが多くなりそうですが、まずアルファベット「1文字」がアクセントになっている句をご紹介していきましょう。

・A定食春のマスクをポケットに   皆藤愛子'
・Yシャツ眩し白南風の丸の内    伍代夏子
・網棚の小さきマフラー「Y」の文字 千原せいじ

1句目は「A」、2・3句目は偶然にも「Y」の文字です。しかし、いずれもそれぞれの持つ意味は異なります。

『A定食春のマスクをポケットに』 皆藤愛子'
1句目
は「A定食」という単語の持つ一般名詞感が見事。仮に(「いろは」や「甲乙丙丁」は極端な比較対象だとしても)「A」というアルファベットを使わずに表現するのは案外難しいように思います。

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『Yシャツ眩し白南風の丸の内』 伍代夏子
2句目
は、まあ、この3句の中では唯一、『ワイシャツ』と表記してもダメでは無いでしょうが、夏井先生も講評の中で、『いきなりアルファベットのYが出てきてはっとさせられた』と仰る様に、1文字目の印象づけとしてのエッセンスとしては成功していると思います。

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『網棚の小さきマフラー「Y」の文字』 千原せいじ
そして3句目は、“イニシャル”が印象深かったことがはっきりと下五で表現しようとしている句です。イニシャルなら何だってアルファベットになるのでしょうが、実際に見た光景が「Y」だったんだろうなと思わせる説得力があるように感じます。

たった1文字ですが、俳句の世界で1文字は大きいものです。敢えて外した形で句を作ることも出来たでしょうけど、入れることによる効果がはっきりと出ている句だからこその高評価だったのだと思います。

私が以前、アルファベット26文字がそれぞれ答えになる問題を1問ずつ作って企画をしたことがあるのですが(↓)

それと同じ要領で、アルファベット1文字を入れ込んだ俳句を26句作って、連作的にするのも面白そうだなーなんて思ったりもしました。

2.普通アルファベット表記しかしない単語 編

続いて、表記の観点から行きましょう。
岩永徹也さんはアルファベットを駆使する印象なのですが、そこから2句。

『菊花賞今日三度目のATM』 岩永徹也'
「ATM」は、平成時代を通じて非常に身近な存在となりましたが、本来は、「現金自動預払機(automated/automatic teller machine)」の略語です。

先ほどの動画でも「コンビニ」や「ケータイ」に意見が分かれた頃の話が出ていましたが、じゃあ『現金自動預払機』(七・七:14音)しか認めない!となれば、最早俳句に読み込めなくなってしまいますね。音数に敏感な俳句においては、こうした略語を許容する姿勢が夏井組長からは感じられます。

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『冴返るA.I.棋士の白い腕』 岩永徹也'
これも「AI(artificial intelligence)」を略したものですが、既に「AI棋士」として一つの単語になりつつありますから、「人工知能棋士」なんかとは、まず言わないでしょう。無理やりアルファベットを使わずに造語するのも、それはそれで危険なことなので慎重さが問われるでしょうね。

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『極月のToDoリストあと4つ』 草野満代
英語由来の『ToDoリスト』を、極月(12月)と取り合わせた才能アリの句。これ『やることリスト』的な単語に置き換えることも音数的には可能なんですが、『ToDoリスト』という単語に接する社会人感を出す上では、この選択と英語表記が良く効いていると思います。

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ちなみにこの句は、夏井組長が2本目の動画で、ふと思い出した例として、取り上げていますので、やはり印象深く、アルファベット(英語)を読み込めている例なのだと思います。

『1DK八重桜まで徒歩二分』 藤本敏史
これは2020年の春光戦で惜しくも準優勝だった優秀句。不動産屋が兼題で、「1DK」という間取りを、その後の漢数字と呼応させつつ成立させました。
当然「(1)ワンディーケー」だったりでは、原句に比べて不自然ですし、兼題から発想した句の『鮮度』が損なわれてしまいそうな印象です。

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3.アルファベット表記している「単位」編

ここから3句、単位をアルファベット表記してる作品をご紹介しましょう。

『紅梅や1km10秒縮めた朝』 東国原英夫'
『窓外300km/hの青葉青葉』 カズレーザー'

どちらも「km(/h)」を「キロ」とカタカナ表記することも出来るのですが、特に2句目はスピード感を出す意味でも、「km/h」と表記することの効果が強烈だったという風に思います。

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『750ccのタンクにしがみつく寒夜』千原ジュニア
ジュニア名人が特待生昇進を決め、“代名詞”となったナナハン俳句。勿論、ナナハンとカナで書くことも出来ますが、「750cc」の表記にすることで、乗る人がみな持つ『カッコ良さ』だったり、実物感が強まるでしょう。

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4.敢えてアルファベットで表記している単語 編

続いて「カタカナ」でも表記しうる単語だけど、(恐らく)意識してアルファベット表記しているんだろうなと想像される俳句をご紹介していきます。

『冬の恋終わりぬ風に消すLINE』 梅沢富美男'
若者以外にも通信手段としてすっかり定着した「LINE」を、句に読もうと、意気込んで大幅添削された梅沢名人の(添削後の)句。これだって、カナで「ライン」とでも書いたら、若者は何のことか分からないでしょうねぇ。

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『MAIKOSANになりきり秋の和日傘を』 千原ジュニア'
これも語順などを添削されていますが、英語部分は原句ママ。『舞妓さん』という日本語を、『MAIKOSAN』と表記するのは“どんな人だろう?”と想像すれば、誰が書いていないのに(外国人女性の)ワクワク感が伝わってきます。これぞまさに『敢えてのアルファベット表記』の最たるものでしょう。

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『マフラーに込める君へのetc…』 国生さゆり
番組発足当初(第2回・2013/12/05)で2位80点(今で言う72点あたり?)の高評価を得た句。この回で、夏井先生(当時は毒舌先生として売出し)は、既に『俳句で使っちゃダメなものは無い』などと明言して、英語を使うことに対してOKの姿勢を示しています。

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これ「エトセトラ」などと音で書いたり、「etc」が無く「……」だけでなく「etc…」という表記が良く効いていると思います。

『朝虹の全紙一面One Team』 田中史朗
才能アリ1位に号泣した、ラグビー日本代表・田中史朗選手の一句です。『ワンチーム』とカタカナ表記をせずに、アルファベットを入れたことで、新聞の見出しにその文字列があったのかな、とか、様々な国で生まれた選手たちが日本代表として出場していることなどに思いを馳せられました。

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5.英語そのものを俳句に読み込んだ 編

ここまで比較的、日本語な観点から来ましたが、もちろん、俳句に外国語を読み込むことも当たり前になってきています。

『飛び立とう新たな世界let's go』 二階堂高嗣
“三段切れ”で季語も無いということで、評価は『才能ナシ』20点でしたが、英語を読み込もうとする姿勢、詩心がギリあったので、ここで紹介します。

好意的に読めば、『絵馬』という兼題から英語も勉強してる学生さんか若者なのかなとか想像もできますかね。

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そして「プレバト!!」で英語を読み込む名手は【秋野暢子】さんでしょう。まずは2度目の挑戦だった2015年4月の句から。

『五合目や惜春の風against』 秋野暢子'
兼題:高尾山に固執する必要は無いということで、『五合目』と上五を添削されましたが、『against(アゲンスト)』という英単語を下五に配置して、昔から読まれている句に独自性を持たせることに成功しています。

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そして、その前月、初挑戦で73点と高評価を得たのが、英語の成句を読み込んだ一句を最後にご紹介します。

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『黒板のI can do it風光る』 秋野暢子
私(Rx)は英語を読み込んだ今日の句の中でも、この句が最も好きです。『黒板の』とあるだけで学校、教室であろうと想像が出来、さらに続くのが『I can do it』という英語の一文で着地が『風光る』という春の季語です。

音読しても文面でも、春、青春感に溢れた一句であり、英語の語感が俳句の音律にもマッチしている上に、それを自然体で読み込んでいるあたり流石。

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特待生制度が確立される前の挑戦者(2015~2016年)ということで、特待生にはなっていませんが、「4回連続・才能アリ」の実力者ですから、私は、これ詠む方の新たな作品を見たくて溜まりません!

【おわりに】

話しが長くなりましたが、「プレバト!!」俳句ではアルファベットを含んだ句が詠まれ、高い評価を得ています。少なくとも、夏井先生は「英語」を詠むことに反対の立場は一切取っておらず、積極的に評価している印象です。

ただ、かつてはカタカナ・英語を反対する層が多かったことも事実であり、現在もそうした信念をもって句を詠んでいる方が一定数いらっしゃいます。

ある意味で集団の中においては『郷に入っては郷に従え』ではないですが、自分の表現したいものと共感する環境において表現していく方が、自分も納得ができる評価に繋がっていくのではないかと思った次第です。

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今回は日本語俳句内に登場する「アルファベット」を取り上げた訳ですが、世界には「英語俳句」をはじめとする各言語で俳句を詠もうとする試みも、展開されていますので、視野を広げて楽しむキッカケになれば幸いです。

あなたは今回の記事を通じて、俳句の中のアルファベット(英語)についてどう感じましたか? それではまた次の記事で会いしましょう、Rxでした。

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