震度4以上を観測したことがない気象官署(地震の少ない地域)をまとめてみた

【はじめに】
この記事では、昭和以前から地震を観測してきた気象官署等のうち、中震(震度4)以上を一度も観測したことがない地点等をまとめることで、これまで地震の少ない(かった)地域をみていこうと思います。

1.地震は日本全国どこでもとは言うけれど……

一般に、物が落ちたりする小被害が起きてもおかしくないとされる「震度4(昔の言い方でいう中震)」は、毎月のように全国どこかで観測されてて、この記事の読者の方の殆どは、人生のどこかで一度は経験したことがあるのではないかと思います。

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しかし、気象庁の観測史上、「震度4」を一度も観測していない地点というのが、数は少ないですが存在するのです。しかも数十年の観測実績がある「気象官署」の中にです。

良く一般には、『地震は日本全国どこで起きるか分からない』から備えを、とか言います。確かに、『震度1を観測する程度の地震』は全国ほぼ全ての地域で時折発生します。しかし過去の観測データだけを見ると、地域・地点によって差があることは確かなようです。

2.キッカケである「ウェザーニュース地象解説」

この記事を書くキッカケになったのが、2021年6月2日にウェザーニュースLiveで放送された『教えて予報士さん』のコーナーでの地象解説です。

視聴者から寄せられた疑問②
日本で地震が起きにくい、あるいは少ない場所はありますか?

地象センター→予報センターの山口剛央さんの解答を要約すると、

Ans.(その他の地点と比べて相対的に、)地震が起きにくい場所はあるが、そこで大きな地震が起きないか、というとそういう訳ではない。

という感じになります。確かに、過去さかのぼって大きな地震があまり起きていない地点は(この後見ていくように)あるが、だからといって、今後も大きな地震の起きる心配が無いか、というとそういう訳でもないというのが適当な解答ではないかと私も思います。

(参考)地震インフォさんの『最大震度マップ』

例えば、一般の方のサイトから引用させてもらうと、『地震インフォ』さんの『最大震度マップ2000-2020』では、

2000年以降で震度4以上を観測していない地点を「面」的に捉えられます。細かく見ていくと、フォッサマグナの上だったり、南海トラフの震源想定域だったり、古くに大地震があった地域も含まれているので、あくまで「近年の傾向」程度でしか無いのですが、『ここ最近は少ない』地域を見て取ることができると思います。

ここからは、昭和・平成時代を中心とした観測データをもとに、現時点で、『地震の少ない気象官署等』を見ていくことにします。

3.北海道北部

真っ先に思い浮かぶのが、北海道のオホーツク海側です。

北海道というと、千島海溝沿いは日本でも有数の地震常習地帯です。また、道央から道南にかけても、海溝沿いで起きる大地震の揺れが伝わったりして震度4以上を観測することが時々あります。

しかし、次に挙げる地点では、十勝沖地震や東北地方太平洋沖地震、北海道胆振東部地震などでも、震源から遠かったこともあり、震度4以上を一度も観測していません。

(1)「稚内」(1938年~)

「稚内地方気象台」での震度データは1938年からですが、この80年あまりで震度1以上の地震が80回強。1990年代以降は、10年間で「14回」ずつ有感となっている程度です。単純計算をすると、年に1~2回しか人の感じられる地震が起きていないことになります。

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直近の震度3は、2013年に起きた「宗谷海峡」の中規模地震で、震度3でも数十年に1回あるかどうかという感じです。

(2)「宗谷枝幸」(1944年~)

離島を除く主要4島で最も地震が少ないのが、「枝幸郡枝幸町本町」です。

・1944~2004:枝幸郡枝幸町本町224(北見枝幸測候所)
・2004~2015:枝幸郡枝幸町本町705-9(枝幸消防署)
・2015~:枝幸郡枝幸町本町224(北見枝幸特別地域気象観測所)
※一時期、消防署へ移りましたが、以下、その区別はしないこととします。

終戦前年からの80年近い観測の中で、有感地震は50回台後半。平均すると、1年半に1回、有感地震がある程度となるのです。

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しかも震度3を観測したのは1950年代の2回で、震源は遠く離れています。

そして、1952年や2003年の十勝沖地震では震度2、2011年や2018年など最大震度7を観測した地震でも震度1しか観測しておらず、過去のデータからすると、主要4島でも地震観測例の少ない地点となります。

(3)「雄武」(1947年~)

もう少し南下すると、「雄武町おうむちょう」も該当してきます。

・1947~2004:紋別郡雄武町字雄武372-1(雄武測候所)
・2004~   :紋別郡雄武町字雄武700 (雄武町役場)

2004年からは「雄武町役場」に移っていますが、その前の雄武測候所時代には計3度「震度3」を観測しています。

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この「雄武」は、10年間で1回も有感地震を観測した時期がなかったと思えば、他の時期には2桁の有感地震を観測するなど、上の2地点に比べると、多少波があるようにも感じました。(人が観測していたことも影響しているかも知れませんが)

(4)「紋別」(1956年~)

年に1回強、ここ半世紀余りで9回「震度3」を観測している「紋別」は、上記地点に比べると少し南下することもあってか、北海道の南東側で起きた地震でも揺れが多少は大きくなっていることが分かります。

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平成に入ってから、最大震度6クラスの大地震で3回、直近では、2003年の十勝沖地震で「震度3」を観測しています。

4.九州地方北部

九州地方でも、中部から南東部にかけて、「日向灘」沿岸や「熊本地震」・「えびの地震」などが起きたあたりでは比較的地震が多く起きていますが、玄界灘の沿岸から長崎県にかけては主要4島でも地震の少ない地域とされています。

かつては、福岡県から佐賀県にかけても地震が少ないとされていましたが、2005年に「福岡県西方沖地震」が発生し、多くの被害が出ました。

(1)「福江」(1962年~)

一方、長崎県に関しては、福岡県西方沖地震でも震度3止まりだった地域が広く分布していて、ここ100年でも震度4以上を数えるぐらいしか記録していない地点が多くあります。

特に「福江特別地域気象観測所」(五島列島の五島市(旧・福江市))では、戦後、一度も「震度3」すら観測していないだけでなく、1966年から1986年の約20年にかけて「有感地震」が一度も記録されてない、全国的にも珍しい記録が打ち立てられています。

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気象庁の「気象庁震度観測点一覧表」では1962年からとなっていますが、同「震度データベース」には、1933年に「震度3」を観測したというデータが残されています。

そもそも「福江」というのは、ラジオでも流れる『気象通報』の入電地点ともなっている由緒ある観測点ですから、(連続性は別にしても)戦前に観測記録があっても全くおかしくありません。

網羅性に疑問符はつきますが、「ここ半世紀あまり震度2までしか観測されていない」ことからも、長崎県、特に五島列島周辺は、これまで地震の少ない地域だと言えると思います。ちなみに、平成の後半以降の十数年で既に「震度2」以上が5回(も)観測されていて、それ以前に比べると地震の頻度は上がってきているのかも知れません。

ちなみに、「長崎」(長崎市南山手)についても「震度3」は何十回も観測されていますが、「震度4」以上を観測したのは大正時代(1922年)が最後で、県庁所在都市としては屈指の少なさと言えるでしょう。

5.沖縄県

古くは八重山地震津波が起きてて、巨大地震発生への研究も続けられている沖縄地方ですが、2010年の沖縄本島付近の地震が久々の強い揺れだった様に基本的に、本島付近は地震が相対的に少なめな地域ではあります。

(1)「名護」(1972年~)

1972年の沖縄本土復帰から約半世紀。「名護特別地域気象観測所」のある『名護市宮里』では、震度4以上を一度も観測していません。

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沖縄本島周辺の中規模地震と、西側海域の深発地震などで「震度3」を11回記録しています。

(2)「大東島」(1957年~)

台風観測などでもお馴染みの「南大東島」(南大東村在所)では、アメリカ統治下の1957年からの約65年でも、有感地震が20回程度。数年に1回しか、地震を観測しないということになります。

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確かにプレート境界から離れていますし、地震の活発な沖縄本島などからも離れていることもあって、殆ど地震らしい地震がない地域と言えそうです。


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