見出し画像

俳句チャンネル ~固有名詞(作品名)編~

【はじめに】
この記事では、2020年11月26日に夏井いつき俳句チャンネルにアップされた動画『【固有名詞】作品名を使ってもOK?』についてお話ししていきます。

0.「こんな言葉、俳句に使って良いのか」シリーズ

このシリーズの前回をまとめた私の記事がこちらです。( ↓ )

1・2回目が今年夏に公開された「アルファベット(英語)」編でしたが、それ以来、約3か月ぶりの第3回は「固有名詞(作品名)」編です。

動画内では「固有名詞」の中でも『作品名』に特化していますが、例えば、私の過去の記事で2回に分けて特集した『地名』などもこの固有名詞の一例かと思いますので、参考までに載せておきます。

1.名句紹介

動画内では、『作品名』が明確に読み込まれた名句を3句紹介しています。

(1)『落花生喰ひつゝ読むや罪と罰』/高浜虚子

季語は「落花生(晩秋)」で、近代俳句の大家・高浜虚子の句です。虚子が作品名を含んだ句を詠んでいるのですから、当然、『こんな言葉、俳句に使って良いのか』という質問には「勿論OK」と答えることになりましょう。

『罪と罰』は、1866年に刊行され、ロシアの文豪フョードル・ドストエフスキーの長編小説で代表作として日本でも広く知られた作品です。ただまあ、

・家藤正人
 「名前は知ってるけど重苦しくて読んだこと無い」
・夏井いつき
 「1・2回読んだけど、婆さんが殺される話じゃなかった?」

と両者が動画内で語ってる通り、非常にヘビーな作品ということもあって、どことなく、高尚な感じの印象すら与える俳句となっています。
(興味・関心を持たれた方は、YouTube大学などをオススメしておきます)

正人さんも、「ドストエフスキー」という作者名でなく、『罪と罰』という作品名を置いたことの効果を色々と考察しています。

(2)遺品あり岩波文庫「阿部一族」/鈴木六林男

これは岩波文庫が出版社というかレーベルで、「阿部一族」が書名。勿論、遺品は季語ではありませんので、無季の句ということになります。
鈴木六林男(すずき・むりお)氏についてウィキペディアの抜粋です。

鈴木六林男(すずきむりお、1919年9月28日 - 2004年12月12日)は、俳人。

西東三鬼に師事、新興俳句運動に参加。1940年応召、中国大陸、フィリピン諸島を転々とし、1942年、バターン・コレヒドール戦での負傷により帰還、退院後に除隊。戦後、……社会性俳句の中心作家として注目を受ける。
季を無季の地続きにあるものとして捉え、戦後も戦争句・無季句を詠み続けた。代表句に「遺品あり岩波文庫「阿部一族」」(1949年作)など。

戦争に関する句は、季語を含まない無季の句も多いですが、いわば安全策的に、季語を入れる選択を取らず、『岩波文庫』と具体的にモノを具現化することで、作品のリアリティが増している様に感じます。

『阿部一族』(あべいちぞく)は、森鷗外が著した短編小説。江戸時代初期に肥後藩の重職であった阿部一族が上意討ちで全滅した事件を題材に創作。
                (中略)
前年の大正元年、明治天皇崩御の際に乃木希典陸軍大将が殉死、当時はその是非をめぐる議論が盛んだった。『阿部一族』は前年に発表された鴎外初の歴史小説『興津弥五右衛門の遺書』とともに、こうした当時の世相を反映した主題をとりあげた作品である。

等といった作品の持つ背景をも、『罪と罰』なら5音ですし、『阿部一族』なら6音(岩波文庫を含んで13音)で『本歌取り』する事が出来るのです。

夏井いつき
「文学使う時に、たまたまどっちも重たい題材になったけど、使う時には『大いなる本歌取り』をしているので、
・季語とのバランスはものすごく気を使わないといけないし、
・無季に行くとなれば凄い勇気が必要になる

ことは心しておいた方が良い。」

暗い作品が2つ続いたので、少し明るい(?)アニメ・文学作品から一句。

(3)ナウシカと名づけて空蝉を愛す/林桂

林桂(はやし・けい)さんは1953年(戦後)生まれの俳人だそうです。

そして、『風の谷のナウシカ』は、1980年代に(主に)アニメーション映画として一世を風靡した傑作です。

季語「空蝉(うつせみ)」の形状が、作中に登場する「王蟲(おうむ)」をすぐに連想させます。アニメーションの作品名であり登場人物でもある所の「ナウシカ」を上手く句に詠み込んだ作品だと思います。

ちなみに、私は(俳句とは話が逸れますが、)平成中期に活躍したフォークデュオ「19(ジューク)」の代表曲:『あの紙ヒコーキ くもり空わって』の2番の歌詞に登場する一節を思い出しました。

『あの紙ヒコーキ くもり空わって』/19 (作詞:326)
ほら いっしょに キミと見てた 空をまだ覚えてる?
“メーヴェ”とつけた 紙ヒコーキ
2人で よく 飛ばしたね?

この「メーヴェ」も恐らく、『風の谷のナウシカ』に登場する「メーヴェ」を本歌取りしたものではないかと思います。(ドイツ語のカモメに由来するものかも知れませんが、作品と全く無関係ではないと思います。)

家藤正人「何せ、その作品名とか固有名自体を知ってないと、内容を知ってないと、その句の良さを正しく理解できない。」
夏井いつき「そういうリスクは持っているよね。」

とある通り、ある種の賭けになる側面もあろうかと思いますが上手く行った時のリターンは非常に大きいものがあると思います。
(『本歌取り』が古典に時間に習うほど、和歌の時代に隆盛を極めた技法なことからも、その効果の強さは明らかでしょう)

2.作品名が詠み込まれた「プレバト!!」俳句たち

「プレバト!!」でも、数は決して多くないですが、作品名を詠み込んだ俳句がありますので、ご紹介していきます。

むしろ、作家などの人名を詠み込んだ句の方が多く、どこかのタイミングで「人名」俳句も纏めたいなとは思っているのですが、今回は基本的に作品名メインのものに絞らせてもらいました。

(1)長き夜に母の声音の「ぐりとぐら」 梅沢富美男

まずは、番組内では吠えまくっていますが、実は“家族思い”な一面のある「梅沢富美男」名人が1文字の違いに『現状維持』となった作品から。

2018年の夏→秋とタイトル戦を連覇している最中の作品で、助詞のチョイスミスはあったものの、『ぐりとぐら』と長き夜の取合わせは高評価でした。

『ぐりとぐら』をお母さんが子供に読んであげる風景に加えて、何歳ぐらいの子かといった所まで想像させる力が、この「ぐりとぐら」というロング・セラーな絵本(固有名)には力がありますね。

ちなみに、2021年には、菊池桃子さんも同じ子供との日常を描いた句を披露しています。こちらは夏の句です。

・ 子と昼寝顔に日よけの「ぐりとぐら」 菊池桃子

(2)ごんぎつね聴きつつ眠る雪模様/藤本敏史

そして、子供の句を詠ませたらピカイチだったのがフジモン名人でしょう。過去に2度ほど「絵本」のタイトルを詠み込んだ句を披露しています。

1句目が「ごんぎつね」を詠んだ句。原作では『ごんぎつね聴きいて寝落つ雪模様』で冬麗戦6位でしたが、こちらも「狐」という季節感と冬の空気感が非常にマッチした作品だという風に感じます。

(3)スイミーの音読二回おでん炊く/藤本敏史

一方、作品が十分マッチしていないとして、冬麗戦5位ながらシード権獲得ならなかった2020年冬の作品がこちらでした。

こちらも「おでん」という冬の季語と、『ごんぎつね』から少し成長したのでしょうかね、(フジモン名人ご自身の経験だそうですが)恐らくは小学校低学年の子供の宿題だろうと容易に想像できる暖かな光景です。

ただ、冬の暖かな光景としては『スイミー』よりも、もっとベストな作品があるはずとのことで、『宿題は音読二回』や『ごんぎつね音読二回』の方が良かったとの評価が下されました。

画像1

勿論実際に音読の宿題に課された題材が『スイミー』だったのでしょうが、『サラダ記念日』の例にある様に、キレイな嘘と申しますか、創作作品とする上で、事実と異なってもより良い作品に仕上がるのであれば、その可能性も十分、吟味・検討する必要があるなと感じさせられる添削事例でした。

(4)蛇口よりぬるりと河童滴れり/筒井真理子

5回中4回才能アリだった筒井真理子さんが、特待生候補査定スペシャルで披露した句。68点・凡人査定で、『滴る』という単語を季語とするか否かの差で惜しくも特待生昇格とはならなかったものの、

芥川龍之介の『河童』という作品の面白さをうまく引き出した句だとして、夏井先生や名人・特待生も高く評価した作品でした。
こうした作品はまさしく小説を知っていれば、その魅力が最大限伝わりますし、知らなくても表現を通じて魅力を伝えることが叶っていると言えるでしょう。

(5)晩秋や乱歩を読みて窓に蟲/立川志らく

続いて、人名・ごとく俳句の立川志らく名人。この句にも「江戸川乱歩」が登場しますが、最後の「蟲(むし)」は、どちらかというと小説のタイトル『蟲』としての印象も強い単語だという風に捉えました。

画像2

文字面だけみると「晩秋」は当然として、「虫(むし)」も秋の季語です。童謡『虫のこえ』に歌われているような秋に聞かれる虫のことを指します。しかし、古い『蟲』という漢字を敢えて使うことで、普通の「虫」と異なることを示し、結果的には、「晩秋」も「虫」も、強く存在感をアピールした句に仕立て上がっています。

作品名に季語となる単語が含まれる場合でも、それが固有名詞だと明確になれば「季重なり」とは一般的に見做されませんし、それだけでなく、季語としての印象も残しつつ、主役の季語を引き立てることが叶えば、更にプラスに働くこととなりますので、上級技ですが挑戦の価値はあると思います。

(6)おもひではぽろぽろ遠い二重虹/横尾渉

そして、ここまで本のタイトルを取り上げてきましたが、例句でも紹介した様な「アニメ映画のタイトル」を詠んだ作品を最後にご紹介しましょう。

映画『おもひでぽろぽろ』を詠み込んだ破調の句。高畑勲監督の追悼句で、名人3段への昇格を決めた作品でした。

こうしたアニメのタイトルであっても、季語をしっかりと立て、俳句として自然な形で詠むことが出来れば、しっかりと評価される作品になるのです。どうしても思いが溢れてしまいそうになりますが、そこらへんをしっかりと抑えて作品を詠めるようになれば、グッと楽しみが増すのではないかと。

【おわりに】

今回は、「固有名詞(作品名)」を詠み込んだ俳句をご紹介してきました。如何だったでしょうか。
現代の『本歌取り』をする作品は、旧来の常識にとらわれずどんどん新しいカルチャーを取り入れんとするべきだと思います。ぜひ皆さんも、固有名詞を詠み込んだ作品にチャンレジしてみてくださいね!

という訳で、また次の記事でお会いしましょう。Rxでした、ではまたっ!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?