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【視聴録】村上健志の俳句実況 Vol.1《自作句あり》

【はじめに】
この記事では、「中田敦彦 × 村上健志」のNSC同期対談の最後に動画で、村上さんがアイディアをあっちゃんに伝えた『俳句実況』が、どのように、初回配信を迎えたかについて見ていきたいと思います。

0.中田敦彦との同期コラボで「俳句実況」を企画

2021年6月14日に配信された動画の『同期芸人・中田敦彦さんとコラボ! あっちゃんありがとう。』の「24分30秒」あたりから、俳人としても活動する村上健志さんに、あっちゃんが生配信を提案します。

中田「ムラケン主催で、句を詠みたい人に来てもらって、句を皆で読むみたいなイベント、向いてそうだけどね。」

このような提案(コンサル)を行ったあっちゃんに、村上さんからは、

村上「(見る人が少ないとかはおいといても、)生配信で、その場でテーマもらって、その場で作るみたいな。ゲーム実況じゃないけど、俳句実況みたいな。」
中田「それでさ、良かったらスパチャ飛び交うよ? スーパーチャットで、良いプレーしたらスパチャ飛び交うみたいな。あいつ、ゲーム実況じゃなくて俳句を生でやってスーパーチャットめっちゃ貰ってるっていう全く新しい俳句界で初めてのスパチャで食べていく俳人になれるかも知れないよ?」

と、本気で感心した風のトーンで、村上さんのアイディアを褒めた上で、

中田「絶対良いってそれ! でその後解説したりしたら、俳句のまず俺、楽しみ方が分からなかったから、それ説明してもらったら楽しみ方が分かる。めっちゃ良いわー めちゃくちゃ可能性あるね。」

と、俳句初心者に『俳句の楽しみ方』を伝えることにも繋がると、視聴者側の意見からも後押しをしてくれました。

(以下、村上さんの「チェケラ鉄也」や、オリラジの「スーパーマジカル何とか」みたいなネタのトークは、面白かったけど俳句と関係ないので割愛!ww)

1.動画公開3日後に第1回「俳句実況」生配信!

そして、この動画の公開3日後にあたる2021年6月17日(木)の夜、第1回となる「俳句実況」生配信が実施されました。

※ あっちゃんを村上さんが褒めていましたが、この生配信をすぐに実現するという村上さんの「実行力」も素晴らしいと思いますよ?

まだ始めるつもりじゃなかったのに、配信が始まってしまい、iPadの準備もままならない内に人が集まってアタフタする村上さん。早速「お題」を視聴者さんから募る形となりました。

「(相方の)亘」では作りにくいなどと言いつつもww 結構面白い席題が早速集まっていて、例えば、

・「チケットの半券」
・「午前4時」
・「英会話教室」
・「柴犬」

などは、すぐに作れそうなぐらいの(季語以外の)題だと思いました。結局は、最初の頃に来ていた「寝癖」(村上さんの寝癖のことではないww)が1個目の席題となりました。

(1)「寝癖」

まずは、アイディアをリスナーからも募り、それをパソコンのWordに打ち込んで行く形を取ります。そして、「どういう風に作るのかも、せっかくなので、解説してほしいです」というコメントに対し、村上さんは、

(10分30秒)最初にやるのは連想ゲームです。連想するものを書き出して行って、お題からすぐに思いつくのもあれば、「あ、確かにそれあったよね」って奴も俳句の種にしていくことが多い。

と、アイディア出しの重要性を語っています。さらに、

(11分20秒)「寝癖」という席題から「遅刻」という連想ワードをもらって、さらに連想していく、

例えば「ダッシュした」(仕事かも知れないし、学校かも知れない)で、
     ↓
「ダッシュしたら汗かくよね」 → 【汗】は夏の季語みたいな感じで。

完成度は推敲しないので上がんないと思うけど……とは保険をかけつつも、即興性を楽しむ企画であることを強調しています。そして、

(13分10秒)「寝癖」+「ダッシュ」→「遅刻」から、
・チャリのヘルメットで治るかと思いきや悪化
・帽子を被って隠す

というコメントに、「頂いちゃおうかな」と詰まった所を助けてもらったりもしていました。これが「俳句実況」の醍醐味ですよね。

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読みたい光景が見えてくると、後は2パターン。「夏帽子」みたく季語を読みこむか、季語を使わずに情景を12音程度で構成して、それに相応しい季語を『取り合わせ』るかです。

さらにそこから「ラジオ体操」に発想を飛ばして、結局出来上がったのが、こちらの句でした。

【 1句目 】
『二連続ラジオ体操寝癖の子』 村上健志

(季語入れるなら)『ソーダ水ラジオ体操寝癖の子』

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文字に書いてみて、季語がないと気づかれた様ですが、まあ「夏の季感」は出ているし、無季の句としてもまずまずではないでしょうかww 季語を、無理やり入れると「三段切れ」みたいになったので、原句の方が好きかなと個人的には思いました。(夏井先生に提出したら、意味が読み取れないと、一刀両断されそうですがww まあ推敲前ですし、これぐらいでしょう。)

(1’)「寝癖」の没ネタから句を作ってみる

ただ、個人的に、取り上げられた以外にも面白いネタが見受けられたので、今回はそこから即興で作句してみようと思います。例えば、こういった所。

・デートの日に限って寝癖ができる😂
・いい夢見たときですかね、寝癖

とにかく「多作多捨」の姿勢が、この「俳句実況」においても大事だなと感じました。早速、作ってみましょう。

① デートの日に限って寝癖ができる😂
   ↓
「ただでさえ急いでるのに初夏デート」 Rx

前半部分を「口語体」にして、後半に畳み掛けるように「初夏デート」と、勢いを付けて若さを意識してみました。『初デート』としてはいないのですが、初夏の「初」の字が作用してくれることを期待しています。

敢えて、何がデートの準備を妨げているのかは明示していませんが、「髪のセット」でなくとも、「電車の遅延」でも何でも良いかと思って。続いて、

② いい夢見たときですかね、寝癖
   ↓
「なんかいい夢みた昼寝髪を梳く」 Rx

「寝癖」というと、それをなおす手間も含めて良いイメージは少ないのですが、そっか「いい夢」を見ていたのかも知れない、と思うと、少し「詩心」が増してくる感じがしますよね。季語を『昼寝』としました。口調も、文体もゆったりとした感じにしましたので、楽しんで頂ければ幸いです。

(2)「紫陽花」

夏というか「梅雨」を印象づける最も視覚的な季語が「紫陽花」かも知れません。都会でも良く見かける植物・紫陽花が2つめのテーマとなりました。

(23分10秒)「ちっちゃいパン屋さんの前に白い紫陽花が咲いてて。」

俳句って、最初は一杯ある言葉を詰め込もうとしちゃうけど、見たままを飾らずに描けば案外良い句になると語る村上さん。言葉を詰め込むと「要約」になっちゃう。「小さい言葉」を膨らます方が良いと俳句観を熱弁します。

(24分02秒)「¥575のスパちゃセンスある」

と、中田敦彦のYouTube大学がコメントを寄せ、スパチャも幾つか来る中、早速2つ目の句が完成します。それがこちら。

【 2句目 】
『自然派のパン屋の前の白紫陽花』 村上健志

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「自然派」から始まるので、美術史か何かかと思ったら「自然派のパン屋」という現代的なフレーズとなり、季語「白紫陽花」に誘導される形でした。即吟としては非常に良いと思います。あっちゃんも『めっちゃいい!』と、かなり高く評価したコメントを寄せてくれていました。

《 Rx私的・改作案 》
(1)『自然派のパン屋の前【に白紫陽花』

個人的には「の」が続く形なら、助詞を「に」にしても良いのかなと感じました。そして、そうなると「の前」も省略して一工夫できる気がしました。

《 Rx私的・改作案 》
(2)『自然派のパン屋ひっそり白紫陽花』

「の前」が多少説明的に感じてしまうケースもあるかと思い、「ひっそり」を入れることで、「パン屋」も都会の中にこじんまりとあり、そのパン屋の前の白紫陽花も「ひっそり」と静かにしている。五段活用の動詞みたいに、上下に作用するフレーズを入れてみても面白いかなと思いました。

(3)「勝負」

575円のスパチャで送られた「勝負」が3つ目の席題。村上さんも想像して

村上「じゃんけん」「(僕もやってた)サッカー」
  「恋のライバル」「ギャンブル」
  「雨降らないに賭けて傘もっていかない」「勝負に出たねぇ~」

などと発想を飛ばしていましたが、コメント欄で、あっちゃんが、

中田「読んだ句を後ろに貼っていってほしい」

と書いたことで、白い背景に句が貼られていくことになります。さらに、「にらめっこ」がコメント欄から寄せられ、「喉仏」へ発想が広がります

【 3句目 】
『喉仏まで落ちる汗にらめっこ』 村上健志

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『喉仏まで落ちる汗』という中七までで、どんな緊迫するシーンかと思わせておいて、下五で「にらめっこ」に着地するという面白さ。どういう2人でそんな真剣なにらめっこをしているのか想像させる奥行きが良いですね。

コメント欄からの指摘で、「確かに子供じゃないね」と言っていましたが、子供を相手にする父親、中学生以上の学生同士が“真剣勝負”でにらめっこをしている方が、個人的には面白いと思うので結果オーライだと思いますよ。

【 3句目(村上さんによる推敲) 】
『喉にまで流るる汗よ にらめっこ』 村上健志

というのも、「子供の句ならば」ということで村上さんが考えていました。既にこの段階で「358人」も視聴者が見てくれていました。

(4)「バナナ」

「鮓(すし)」が夏の季語であることを読むのが難しいというトークを挟んで、次なる席題は「バナナ(実芭蕉)」となりました。

・「皮を剥く」のがバナナの特徴
・茶色い斑点 → スイートスポット
・ドンキーコング → ゴリラ
・朝バナナ、ランニング前のバナナ → トレーニング
・青いバナナ
・房、束
・たたき売り
・チョコバナナ、クレープ、パフェ

などから「アンディー・ウォーホル」にまで発想が飛びます。そしてバナナの曲がる角度や、バナナに包丁を入れる時の感触を思い出し、こんな句が。

【 4句目 】
『浪人生バナナに沈むナイフかな』 村上健志

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夏の暑さの倦怠感、気だるさを「浪人生」で取り合わせて、甘いバナナに、ほのかな罪悪感を浸すという感性が凄いと思いました。ちなみにチャット欄からは、こんな添削例も出ていて、『そっちの方が良いな』と村上さんも。

【 4句目(コメント欄添削例) 】
『浪人生バナナにナイフ沈ませて』 村上健志

「かな」という和風な詠嘆よりも、「~て」で余韻をもたせた下五の方が、確かに良い気がしますね。即吟ならぬ即添削も素晴らしいです。

(4’)「バナナ」の没ネタから句を作ってみる

バナナも比較的身近な果物ってこともあって、かなり多くのアイディアが、チャット欄に寄せられていました。そこから幾つか私も句を作りますね。

①バナナはどんな国でも美味しいらしい
  ↓
「どの主義の国でも美味きバナナかな」 Rx

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最初「甘き」にしようかと思ったのですが、甘くないバナナも世界には沢山あるなと思い言葉を変えてみました。東南アジア一つ取っても、国ごとの主義は様々ですから。

② 朝のヨーグルトはバナナ入れる派
   ↓
「私も入れよかな朝のヨーグルトへバナナ」 Rx

こんなに口語体な句を作る句柄ではないんですが、私(俳号:Rx)ww
でもきっと「口語」的なコメント欄からアイディアを拾うから、自然と文語体ではなく口語体で作りたくなるのかなと思ったり。

③ バナナの皮を剥いたときの皮の内側の色とかが
  飛行機雲に似てると子どもころ思ってました
   ↓
「飛行雲めくやバナナの皮の内白き」 Rx

この方の着眼点には驚かされました。「バナナの皮を剥いたときの皮の内側の色」に目をつけるなんて、その着眼点がまず素晴らしい。そしてさらに、それを『飛行機雲に似ている』と感じる感性。正直、短歌の方が描けるかなとも思いつつ、頑張って俳句にしてみました。

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④ ​おばあちゃんの家のフルーツカゴ
   ↓

「 バナナはみ出すおばあちゃん家のフルーツかご 」 Rx

お中元か、或いは帰省するから近くの青果店で買ってきてくれたのか。甘い果物の方が好きだろう気遣ってくれている、そんなばあちゃんの笑顔が浮かぶ様です。『​おばあちゃんの家の フルーツカゴ』が字余りですが、しっかりと七五調になっていて、それだけで句材になります。

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こういう風に「七五調」で季語を含まない12音のフレーズを体に叩き込ませることが出来れば、俳句の種は一気に増えていきますね!

(5)「東京→渋谷」+「雨」

「東京」という懐の広い地名が席題。『東京で連想ゲームしようと思ったら無限』という村上さんの言葉も良く分かる気がします。

『エルメスの騎士像 翳りゆき驟雨』 村上健志

「東京」だけでは、流石に広すぎるということで、「雨」というもう一つのお題をもらい、さらに「渋谷」という馴染みのある地名に絞っていきます。茨城県の牛久から上京してきた村上さん、連想ゲームを始めます。

・天気予報
・自称・晴れ女
・ロケ → 小雨ぐらいなら傘閉じてロケする
・ハチ公、スクランブル交差点
・迷路みたいな副都心線

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『待ち合わせ』は、実は「言葉が強すぎる」と語る村上さん。確かに、そこに詩の成分が多すぎて、季語を主役としたい俳句としては質量が溢れてしまうのかも。などと連想ゲームしているうちに「雨」が脳内から消えていってしまうことにセルフツッコミをする村上さんww

・都バス
・東京は雨
・捨てられた傘(骨がめちゃくちゃ折れてる)
・東京では夢が破れる (は近すぎる、感傷に走っちゃってる)

ハンドパワーで悩んで「生命線短い」と言われた所から、『傘立て』に発想が至り、『湿気で暑い感じ』の季語を求める旅に。

【 5句目 】
『傘立ての無き地下劇場蒸し暑し』 村上健志

きちんとした「傘立て」すらない地下劇場を描いた句。これは実際に東京で立ったことが無いと気づけない着眼点かと思います。

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【 5句目(Rx添削私案) 】
『傘立て無き地下劇場や蒸暑し』 村上健志

上五字余りにして、中八を解消しても良いかなと思いました。

(6)「チョコレート」+「夏」

あっちゃんとの動画で「チョコの包み紙」に触れたこともあってか、最後の席題は『チョコレート』となりました。バレンタインデーでもなく、「夏」にチョコというのは相性が良くなさそうですが、だからこそということで。

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村上さんに触発されて「俳句」を……というコメントに対して、「俳句は、始めやすい文学。音楽好きだから曲を作る、小説好きだから小説を書く、に比べて手をつけやすい」と語り、「出来は二の次で、とにかく作ってみる」ことを奨めていました。

・チョコの銀紙の折れ(と、それによる光り方)
・祭りと取り合わせても良いかな……チョコバナナとか。

僕(村上)さんも、俳句のことが分かった訳では全然なくて、だからこそ、この「俳句実況」をやることにも少し「躊躇い」があったという村上さん。『自転車』に乗れるようになることに例えつつ、6句目が披露されます。

【 6句目 】
『チョコ包む銀紙の折 星涼し』 村上健志

「銀」と「星」は評価が分かれるかも知れませんが、当初の目的をうまく言葉にできていると思います。「折れ」は送り仮名を入れるべきかなと思いましたが。(俳句を一列に書くと「折星涼し」とも読めてしまうので。)

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これはとにかくロマンチックな句になりました。村上さんの描く青春感ともマッチして、非常に「らしさ」が出ている作品だと思います。良いですね。

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