「異常震域」や「深発地震」という言葉がトレンド入りした時に見返して欲しい記事

【はじめに】
今回は、「深発地震」について、エクストリームに理解していく記事です。
ひとまず、ウィキペディアの文章を引用しておきましょう。

深発地震(しんぱつじしん、英: deep-focus earthquake)とは、地下深いところで発生する地震のことである。
深発地震は原則として、深く潜り込むリソスフェア(スラブ)内部の性質変化に起因するスラブ内地震である。プレートテクトニクスの観点からは海洋プレート内地震(沈みこんだ海洋プレート内で起こる地震)に分類される。

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深発地震は震源の深さが深い地震であるが、明確な定義はない。
  ・60km まで :浅発地震
  ・60~200km:稍深発地震
  ・200km以深:深発地震
[注1] 稍深発地震と深発地震の境界を300kmとする研究者も多い。

1.全体的な傾向

「深発地震」が大きく注目されるのは、特に首都圏など東日本の太平洋側で揺れが観測された時ではないかと思います。
(ちなみに、「異常震域」については、以前の記事を参照ください。)

まずはここで全体的な傾向を抑えるために、気象庁の「震度データベース」から、深さ300km以深、M6.5+、震度3以上の地震をプロットしてみました。

(図)気象庁「震度データベース」 深さ300km~、M6.5+、震度3以上

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これより規模が小さく、浅くなると、日本列島の陸域でも発生しますけど、条件をこれぐらい厳しくすると、大体「震源」は類型化できそうです。

2.最大震度5弱以上の地震は(記録上)1例のみ

震度データベースによれば、先ほどの基準の地震は50例あまりありますが、その中で「震度5弱以上」を観測した地震は、2015年の小笠原諸島西方沖の地震で「5強」を観測した1例のみです。
(ちなみに、その地震も、気象官署では最大でも震度4でした。)

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深さ100km台の地震などでは、犠牲者の出る地震の例もありますが、震度4程度までで収まることが大半の「深発地震」では、犠牲者の出るは少なく、むしろ慌てて行動したことによる怪我人や交通への影響、エレベーターでの閉じ込めなどによる被害が印象的です。

過去、体感で観測していた時代には、震度観測点が今よりも少なく、震度の計り方も違うので単純比較は出来ません。ひょっとすると、過去の地震でも今の観測網なら「5弱以上」になっていたかも知れませんし、今後もその傾向が必ずしも続くとは限りませんので、その点はご理解お願いします。

3.深発の巨大地震:日本付近では2例

世界的にも珍しい深発での巨大地震(M8.0以上)ですが、日本では2000年代まで発生例が無かったんですが、2010年代になって2例発生しました。
(ちなみに世界では、1970年「コロンビア地震」や1994年「ボリビア地震」が、Mw8.0を超える巨大深発地震として知られています。)

(1)2013年5月24日:オホーツク海深発地震

発生機構:Mw8.3、609.8km(USGS)、Mj8.3、609km(気象庁)

日本では北海道から青森、岩手で震度3を観測し、メルカリ震度階級では、カザフスタン・アティラウでⅤ。ドバイ、インド・ノイダ、中国・重慶でⅣ。モスクワでⅢなど極めて広い範囲で揺れが観測されました。

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日本近海では、東日本大震災に次ぐ規模の巨大地震であり、国内では鹿児島でも震度1を観測しましたが、大都市での揺れが総じて小さかったためか、地震の規模の割に、殆ど話題にはなりませんでした。

(2)2015年5月30日:小笠原諸島西方沖地震

発生機構:Mw7.8、664.0km(USGS)、Mj8.1、682km(気象庁)

この地震、モーメント・マグニチュード的にはM8を超えないものの、気象庁マグニチュードは速報値で8.5、その後もMj8を超えており、ここで紹介させてもらいます。

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気象庁の観測史上初めて、47都道府県すべてで震度1以上を観測しました。マグニチュードでは遥かに大きい「東日本大震災」でも、沖縄など有感地点のない県もありましたから、深発地震ならではの記録だと言えそうです。

またこの地震で特徴的だったのは、関東地方での揺れが長く、徐々に大きくなっていったことでしょう。震央に近い「小笠原・母島」での震度5強は、イメージしやすいですが、神奈川県二宮町で震度5強、埼玉県内の3地点で震度5弱を観測し、都心でも震度4を記録するなど、その揺れの大きさと、深発地震らしい揺れの長さが恐怖感を与えました。

深い地震で正確な予測が困難なことから「緊急地震速報」は一般向けに発表されませんでした。このことも深発地震が混乱を来たす注意点と言えます。

以上2例が、日本の比較的近くで発生した深発巨大地震です。

ではここからは、大まかな地域別に分類して紹介していきます。

3.オホーツク海南部 ~ サハリン付近

千島海溝の北東側に分布する海域では、北海道から関東地方にかけての太平洋側で有感になる地震が度々発生しています。

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ここ最近では、2012年8月にM7.3の地震が発生していますし、(上)
半世紀以上前の1950年には「宗谷東方沖」を震源とするM7.5の地震が発生し、北海道から青森県で中震を観測したこともあります。(下)

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4.日本海北部(ロシア・中国沿海部)

ロシアから中国にかけての沿海部にも深発地震の頻発地帯があります。

震度の分布的には、先ほど話した「オホーツク海」と似ていて、北海道から東北・関東にかけて有感となります。ただし、やや東北から関東地方の揺れが大きくなる様な印象が若干見受けられます。

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5.日本海中西部 ~ 近畿地方

1975年には北朝鮮の東海域(日本海西部)でも発生している深発地震。この海域で最も有名なのは、2007年7月16日に起きた「京都府沖」の地震ではないでしょうか。
「新潟県中越沖地震」から約半日後に発生し、直接的関係性は無いものの、珍しい地震ということで、「深発地震」や「異常震域」の代表例的な扱いを受け、例えばウィキペディアの「異常震域」でも、トップ画像は2007年の「京都府沖」の地震が採用されています。

この地震が大きく知られるようになった一因には、全国唯一の「震度4」を震央から遥か離れた北海道で観測したためでしょう。まるで、震央から遠ざかれば遠ざかるほど揺れが大きくなるかのような錯覚に陥る分布です。

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その他、珍しいところでは、1925年5月27日に「滋賀県南部」という内陸の深さ421kmで深発地震(Mj6.7)が起きています。
震度3:福島県小名浜、震度2:宮城、福井、広島、松山 という同心円状とは真逆の分布を取っています。この地震も「深発地震」への理解を深めるキッカケになったのではないかと個人的には思います。

6.三重県南東沖付近

「東南海地震」と「南海地震」の境目とされた辺りで時折起きる深発地震。直近では、2019年7月28日の深夜にMj6.6、最大震度4(宮城県丸森町)で観測し、『異常震域』等についての解説が雨後の筍のごとく登場しました。

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また、1984年元日に起きた地震では、小名浜・宇都宮・館山・東京・横浜で震度4を観測するなど、東北のみならず首都圏での揺れが大きくなる傾向が強く、大きな話題を呼びやすい印象です。

それにつけこむ形で、震央の位置が『南海トラフ巨大地震』の想定震源域ということもあり、『巨大地震の前兆だ』的なニュアンスの記事が出回ることが今後もあろうかと思います。
ただ少なくとも前例的としては、昭和・平成で数回ずつ発生していますが、『前兆』って感じの事象は無いかなというのが個人的な感想です。不必要に心配し過ぎると発信者の思うツボかも知れません。

7.伊豆・小笠原諸島西方沖

ウラジオストク辺りから、敦賀湾、三重県へとほぼ直線上に分布していく「深発地震」帯なライン。
発生頻度も、発生場所も、偏りが少なく、どこでも発生しうる印象です。

巨大地震の項でお話した「小笠原諸島西方沖(2015)」の地震だけでなく、2010年代には何度も発生しています。

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例えば、2012年(東日本大震災翌年)の元日、鳥島近海を震源とする大地震(M7.0)が発生し、関東地方の広い範囲で震度4を観測したりしています。

【おわりに】

「深発地震」が起こると、大抵は「異常震域」と呼ばれるような震度の分布となり、現代では多くの場合「トレンド入り」します。

しかし、記事の冒頭でお示しした図のとおり、規模の大きな「深発地震」が過去発生してきた地域は数パターンに類型化することができ、震央に若干の差があっても、大体揺れやすい場所は同じだと言えます。

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これよりも一回り規模の小さいものや稍深発な地震については、今回で紹介しなかった場所でも発生することもあるかと思います。そうした地震活動のイレギュラーさを利用した『不安を掻き立てる』記事も出てくるでしょう。

ただ、結局のところ、深い地震によって生じた地震波が、伝わりやすい地表面において大きく揺れているだけで、「異常」と騒ぎ立てるほどのことではなかったりすることが往々にしてあるのです。

そして、絶対無いとも現代の科学では言い切れませんが、過去の多くの地震は「深発地震が巨大地震の前兆」だったことがなく、数十年に1回程度は、こうした地震が起きているものだという冷静さを持つべき事が多いのです。

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ひとまず、顕著な深発地震が起きた場合、過去数十年の歴史を遡って、似たような地震が何度も起きている場所でないか確認してみると良いでしょう。

もちろん観測史上初めてという地震も当然あるでしょうが、案外、何十年か前にも似たような地震が起きていることが多いのが深発地震(の巣)です。

不必要に恐怖を覚えてパニックになることなく、深い地震特有の震度分布があったり、深い地震が起きやすい場所があったりすることを冷静に認識して正しく情報に接することを目指しましょう!

それでは、次の記事でお会いしましょう、Rxでした。

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