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目に映る全て

 「右」...「下」...「う..左?」

 「あのね、当て物じゃあ無いですからね。」

最近すっかり検眼に時間がかかる様になった。
無意味な自分の抵抗はプロの眼を誤魔化せない。
それでもついつい正解を求めて目を見開く。

 「はい、力抜いて。上見て、下見て...」

 「良いですね。異常無し。綺麗ですよ。」

この嬉しい瞬間に小さくガッツポーズ。

 「ところで、この前購入したカラーコンタクト
             はどうだった?」

目の美しいこの眼医者さんは偶然にも同じ歳。
敬語とタメ語を巧みに挟んで友達の様に話す。
その親しみ易さと信頼感が通う理由だと思う。

 「あ...目が大きく見えるからって勧めて貰った
    黒縁のコンタクトレンズの事ですね。」

 「そっそっ。」

弾む先生の声に真実を報告すべきか躊躇う。
嘘ついても仕方ないし....

 「残念ながら近寄って、目をパチパチして
   アプローチしてみましたが....
                      誰1人気づいて貰えず....。」

  「あら〜残念。
   でも、自分が幸せだったでしょ?」

確かに、身支度の一番の装着は変身スイッチで、
指先に乗せた小さなレンズの魔法にかかる。
それは、何だかおかしな幸福感だった。

 「それで良いのよ。今日は購入しますか?」

購入を丁重にお断りして笑顔いっぱいの先生のクリニックを出た。
検眼は目の健康診断だけに収まらず毎回元気に
なれる大切な時間。

老眼とは目が老いて来たと書くだけあって何かと不便さは出て来る。
眉毛を書く時見えなくて、眼鏡をかけるとフレームが邪魔してかけない。
簡単に見ていた指先も離したり寄せたり一苦労。

一方で悪い事ばかりでも無くて、刻んだ顔のシワ
はぼやける。見なかった事にしたい時は老眼を取れば心はパラダイス。

産声を上げてから、目は瞼を閉じた時間だけが休憩。そんな大切な相棒を見た目で拘った事に少し
反省をした。

自分が幸せだったらそれでいい。
響きが残る眼医者さんの言葉に、つぶらな瞳の
大きさでは無く、輝きを大切にしようと思った。
懲りずにカラーコンタクトの売り場の前をわざわざ通る自分の弱さと一緒に。

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