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かわいい子は毛根までかわいい

 つねづね、「かわいい女の子」は自分と異なる種族だと感じる日々である。
 私の勝手なイメージでは、「かわいい女の子」は繊細で、朝礼で倒れたり、ちょっとしたことで涙ぐんでしまう。

 そんな私でも、一つだけ彼女たちに勝てるものがある。


 私が新しい会社に転職してすぐ後に入った、ミィちゃんという子がいる。
 事務から転職してIT業界に来た彼女は、「かわいい女の子」がそのまま大人になったようだった。

 華奢で、背が低くて、顔も小さく、目はくるみ型でいつも好奇心に輝いていた。クルクルした猫っ毛を肩に垂らしていて、人を下から見上げるときの、いたずらっぽい笑みがちょっぴりセクシーだった。

 彼女とはしばらく自社で一緒に働いていたし、年が近いから話すことも多かった。
 表面上、なんとかクールを装っていたが、実は、常々彼女の可愛らしさに圧倒されていた。一度はこういう容姿になりたいものである。

 しかし彼女にもたった一つだけ弱点がある。それは、歩いているときや地下鉄のホームなど、突然の強風と共に明らかとなる。

「ひゃっ!」

 私の前を歩くミィちゃんが、突然の突風に身を縮め、舞い上がった髪を押さえた。

 彼女の髪は細いし天然パーマなので、めくれるとすぐに地肌の割合が多くなる。こういっては悪いが、若干ハゲているようにすら見える。まだ20代なので、薄毛というわけではなく、もともとそうなのだろう。

 なお、突風の間、私の髪はセフィロスのようにバサバサとなびいているのである。

 そう、彼女に勝てるもの。

 それは毛量である。

 勝った。

 私はたなびく自分の髪を横目に思う。これは明らかに勝ちである
 脳内では『片翼の天使』が高らかに響き渡っている。セフィロス! セフィロス! 

 これ以降、私はミィちゃんの斜め後ろを歩くのが好きである。
 それで、つむじなどを見つめては「あと何年持つかいのぅ」などと胸中でつぶやき、ウヒヒと優越感を噛みしめている。

 これを「毛量マウント」と名付けた。持ちし者のみの快楽である。

 だが、やはり性悪には天罰が下るのだろうか。

 昔はどれだけ長くのばしても枝毛など全くなかった私の髪なのに、近頃では細くなり、枝毛もチラホラ見えるようになった。

 なお、子供の頃から髪の毛が大量にワサッ! と生えてはワサッ! と抜けていく体質である。
 しかし、毛質が変わっても、ワサッ! と抜ける量は昔と変わらないのである。

 もし加齢に伴い、生える速度も遅くなっているとしたら、抜ける量が変わらないということは。

 つまり、減っていく一方なのではないか……?

 私は近頃週に一度、恐る恐る自分の後頭部を合わせ鏡で確かめている。
 いつ抜けすぎてハゲが出来るのだろうかと戦々恐々している。
 この間など、10円ハゲが出来ている夢を見た。

 こと、ここに至り、ミィちゃん他、毛質の細い女子に心底謝りたい

 ミィちゃんごめんね……やっと気持ちが分かった……もう毛量マウントは止めるから……

 PCの前で手を合わせ、これにて毛量マウントの供養とさせていただく。


シリーズの他作品はこちら。

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