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一汁一菜でよいという提案/土井善晴

・よい意味で誰が書いたかわからないような、不要な印象や影響を取り除いた文章。「あの土井善晴さんです!」感のなさに驚いた。

・単純に、料理研究家ってこういう人のことを言うのかと腹落ちした。料理研究ってなに(レシピを発明すること?)と思っていたが、「料理」というものを「研究」するということができる。いやできるだろうことはわかっていたが、テレビに出ているような料理研究家の人のレシピがメインではない、いわゆる主義や考察を初めて知った。

・研究家だからこそというか、料理をするのはお母さん!というような話に変な考慮がない。お父さんもするよねとかそういうジェンダー的なものへの守りがない。事実がそうだからそのまま表現しているんだろうと思う。

・忙しい人は頑張るな、楽をしろという風潮にまた少し抗うような姿勢を感じる。一周して新しいというか、自分や家族を大事にするための頑張りは必要という主張。コウケンテツさんの著書も、「無理しないで!」と同時に「でも少しは」というような気持ちを感じたが、近いような遠いような。

・食事や料理を通して、歴史・社会・生命などを論じるこれこそ料理研究というもので、それはもちろんただの家事が得意な器用なひとではなく、学者なのであるという強い気持ちも感じられた。ただ注目を集めるレシピだけを発表するひと(もいるだろうけど)に見えるようなひとも、きっと簡単で美味しい以上の好影響(健康もそうだし環境問題への配慮や余暇が生まれることによる人生への影響)まで考えられているんだろうなと思った。

・正直、これを読んだことにより食習慣が大きく変わったり、食事というものに対して何か反省をしたり、ということはないかもしれない。私個人としては、美味しいものやレシピを見るたびにその背景にまで思いを馳せる人間になりそうはない。ただ、お味噌汁って毎回美味しいよなとふと思った記憶や料理をする自分に対する肯定を受け取ったような読後感の喜びはきっと忘れないし、自覚しないようなレベルで人生に影響を与えられた本のひとつになる予感はしている。

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