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アレの話を少しだけ
阪神タイガースが日本一になりました。今回,岡田監督の「アレ」が話題になっていました。私はまったく知らなかったんですが,去年の就任のときから言っていたんですね。
この記事では日本語の「ア(レ)」について,日本語学から少しだけアレします。用例や解説は基本的に白川博之(監修)『中上級を教える人のための日本語文法ハンドブック』2001年(以下,白川2001)からです。
まず,岡田監督が明言しないために使っていたのは対話における文脈指示と呼ばれる用法です。太字は指示詞の指すもの(先行詞)です。
A:昨日,田中に会ったんだけど,{○あいつ/×そいつ}あいかわらず元気だったよ。
B:{○あいつ/×そいつ}は本当に元気だね。
文脈指示では話し手と聞き手がともに直接知っているものはアで指し,そうでないものはソで指します。このケースでは「田中」はともに知っているので「あいつ」としか言えないわけです。
そして,この他にアレは会話中で名前を忘れたときに使います。
(秘書に)今度の会議のアレだけど,明日までに作っといて。
同様に,この用法だとアレは話し手が言いにくい語の代わりとしても使えます。
(本を貸した相手に)この前お貸ししたアレですけど,いつごろ返していただけますか?(アレ=貸した本)
この用法はお互いに知っている(と話し手が想定している)からこそアレが使えるわけです。岡田監督のケースも,アレが何を指すのかを聞き手は皆知っていることが前提になるのでアレとなるわけです。
ただしアレは聞き手が知らないと話し手が知っているケースでも使えます。例えば次のようなケースです。
ケース1
A:この本,ミラーという人が書いたそうなんですが,どこの人ですか?
B:君,あの先生を知らないのか?
ケース2
A:Bさんが芸能界に入ったのはどんな時代でしたか?
B:あの頃は浅草オペラの全盛時代でしてね。
ケース1はAさんからBさんに対する非難めいた口調になり,ケース2はBさんの強い思い入れが現れています。なお金水敏・田窪行則「日本語指示詞研究史から/へ」1992年(『日本語研究資料集 指示詞』)ではアが基本的に話し手がよく知っていさえすれば使えることが重要であると述べています(吉本1992も所収)。
金水・田窪にはこの「聞き手の知識」に関する問題が詳しく書かれているので気になる方はどうぞ。
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