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274.が一番好きかも


「箱根いこうぜ」
という一言で、家にある限りのカセットテープを紙袋に入れてシトロエンの助手席に乗り梅雨前の晴天の中いざ箱根日帰り温泉の旅へ。
カセットテープが勝手にひっくり返される度に「オートリバースすげー!」と叫び、景色が良くなるごとに「景色いいー!」と叫び、腹が減っては「腹減ったー!」と叫んだ語彙力の要らないドライブ。

おいしいご飯をいただいて、
温泉は足が火傷したみたいに真っ赤になった。
水風呂と熱風呂を行き来し、「外気温ちょうどいいー!」ととろけて、はやとさんは手がふやけて皮が剥けそうなくらい真っ白になってて笑った。

露天風呂オンリーの湯屋だったので、ずっと景色眺めてた。木が実家にあるのと似てた。

水風呂で大の字うつ伏せで潜水して全然浮かんでこないおじさんがいた。プハァーッと浮き上がってきた時、海猿思い出した。ツッコミ待ちだったのかもしれない。おじさんはずっと水風呂にいた。

少し上に登ると小さな風呂があって、その真ん中に大黒天さまみたいな銅像があって、じっと見つめているとその人、昔は金色だったみたい。今は真っ黒くなっているのは、硫黄のせいですか?頭のあたりは金色のままだったから、それは雨のせいなのかな。もしかしたら俺も雨に当たり続けたら金色になるのかもしれない。

熱い風呂に入って水風呂に入って外気で呆けて、を何回か繰り返していた時、ぼーっと風に揺れる木々を眺めていたら、ビビビビと頭の後ろでコナンばりの稲妻が走り、その稲妻を辿っていくと怪しげな黒雲が。恐れをかなぐり捨てて雲をかき分けゆくとそこに一節の歌が。

忘れないように脳の浅いところにある引き出しから取り出したメモに書き留めた。

風呂を上がって畳で寝転がったら全身溶けるんじゃないかってくらい畳に吸いついて動けなくなった。

少し眠って、起きたら、前に受けたインタビューのライターさんにアルバムの情報を送った。

はやとさんは再び風呂に行った。

あまり家でもぐでーっとしないので、こういう時間って大事だなと思いました。
友達がよくキャンプするのもわかります。

昔読んだ「時間学概論」という本の中で、「私たちはなぜ技術の発達により効率的になっているにもかかわらず暇にならないのでしょうか」と書いてあったのを思い出した。

発信したシトロエンのカーステレオに最初にセットしたOWENのカセットが箱根の景色にマッチしててエモエモのエモだねって話をした。

夕方に差し掛かろうとしているその時間帯、遠くの山々を見ると光で白くなっていた。

光はいつもそこにあるはずなのに、あるからたくさんのことを見れるはずなのに、いつも当然のように受け止めて忘れてしまう。

昔、不眠症で悩んでいると友達に話をしたら「熱海にいい医者がいる」と言って連れて行ってくれたんだけど、気づいたら、「小野雄大の中にいる魔物よ、去れ!!!!」と大きな数珠を下げたおじさんに叫ばれていました。

見えないけれど、常にあって、笑ってても泣いててもないように思うのに、振り返ると間違いなくあった、そんなことばかりなので、自分は歌を作るのかもしれない。

帰ってきてから、ちょっと外が気持ちいいなと思って歩いていると、ドーン!と音が聞こえて、高台まで走ったら港のほうで大きな花火が上がっていました。「私、夏が好き〜!」と近くにいた家族が話してた。

梨が地元の名産で、祖母が作る煮梨がとても好きなので、今年も秋が楽しみ。
その頃にはきっと新しく小野雄大の新譜も出ていることでしょう。

家に帰って、引き出しから歌を取り出した。

いい歌をつくろうとしていい歌はできないけれど生きやすくなる 逆もまたそう
斉藤斎藤 「ミヤネ屋を見る」ユリイカ2016年8月号より

いま思い出しながら書いていて、この短歌を思い出した梅雨入り前の晴れた日のこと。

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