新型コロナ抗体検査の現状

新型コロナ感染症の拡大に伴い、PCR検査や抗体検査など、防疫対策や予防・治療に関連する各種試験がマスコミ各社でも大きく取り上げられることが多くなった。しかしながら、極めて専門性の高い知識や理解が求められるこれらの検査について、報道する側の説明不足や情報を受け取る側の誤解もあり、一体何が正しいのか誰も今ひとつ良くわからないまま世間の議論が上滑りしている感が否めない。

そこで当記事では、まず新型コロナに関連する様々な検査について、その違いや特徴をおさらいすると共に、これらを新たなビジネスチャンスとして早々に事業展開を始めた先行企業の事例を紹介する。

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1.各種検査の解説

 (1)PCR検査

    検査対象となるウイルスの特徴的な遺伝子配列部分を特殊な溶液で抽出し、「ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction)」を使って増幅させることで感染の有無を判定するもの。新型コロナに限らず、一般的な感染症の検査にも広く用いられる。また、PCR検査の有効性は、新型コロナ発症後約10日間がピークだとする報告もあり、それ故、感染初期における検疫や感染事実の判定に主に使用される。厚労省は、本年3月よりPCR検査を医療保険の対象としており、医療機関が保健所を経由せずとも、民間の検査機関へ直接検査依頼することも可能になった。

    なお、一般的には同検査で既感染者を検査した場合の陽性率は約70%前後、非感染者を検査した場合の陰性率は約99%と言われているため、実際に感染していても30%近くの陽性者が見過ごされてしまい、また1%の陰性者が誤陽性の判定を受けてしまう可能性が指摘されている。これは、検査や分析作業向けに適切な設備を保有し、一定以上のスキルを持つ検査技師が扱う場合であっても、鼻の奥(鼻咽頭)に綿棒を深く差し込んで行う検体採取が簡単にはできず、どうしても精度にバラつきが出てしまうことが大きな原因と言われている。よって同検査を行うには、必然的に高度な技術や施設・設備が求められるため、これを実施できる認定検査機関をなかなか増やせないという問題にもつながっている。

    一方、検査分析にかかる時間は、検査機関やメーカー側の努力もあってどんどん短縮しており、当初結果を受け取るまで最低でも数日程度はかかるとされていたものが、現在では数時間程度で判定可能な検査キットも登場してきた。さらに、同じPCR検査でも唾液を採取して行う「唾液PCR検査」が、本年6月2日時点で厚労省より承認されたため、今後は現場の検査担当者への被ばく感染リスクが格段に減ると共に、より多くの検査を自宅で手軽に実施できるようになることが期待される。(注記:現時点では、唾液検体の「冷蔵保存」が必須なため、今後は常温での保存と管理が可能な新しい検査キットの開発が急がれている)


 (2)抗体検査

    ウイルスが感染したヒトの体内では、ウイルスに結合して体内から除去するためのタンパク質が作り出されるが、これを「抗体」(新型コロナの場合は主にIgMおよびIgG抗体)と呼び、過去にウイルスの感染経験があるかどうかの判定に使用される。一般的に、抗体は感染後数日から数ヶ月の間に作られるが、新型コロナに関しては、発症から10日目以降で検出可能になると言われているため、主に感染者の治癒後の抗体有無や、自覚症状のない既感染者の検出などに利用される。(注記:ただし、現時点では、仮に抗体検査が陽性であっても、新型コロナに再感染しないと実証されたわけではない)

    通常、抗体検査は血液を採取して行うが、最近では細い針で指先を刺して採取した少量の血液を使用する抗体検査キットが出てきており、その場で数分待つと結果が出る簡便性から、ポストコロナ期のこれからはさらに一般レベルでの需要拡大が見込まれている。

    また検査精度については、一部の中国製検査キットの陽性率に疑義が持ち上がったこともあったが、その後、国内外からより信頼性の高い製品がリリースされ始めているため、現状症状のない人が自己の感染リスクを把握する手段としては、一定の目安として有効活用できるものと考えられる。(注記:現時点で厚労省から承認された抗体検査はない、また、WHOもこれを診療目的としては推奨しておらず、あくまで疫学調査への活用を促している。)


 (3)抗原検査

    PCR検査と同様、鼻咽頭から採取した検体を使用し、特定ウイルスに特異的なタンパク質(抗原)に反応する試薬でウイルスの感染有無を判定するもの。「抗体」は感染後ある程度の時間が経たないと検出できないが、「抗原」は感染初期から検出可能なため、一般的には、インフルエンザ等の感染確認に広く利用される。ただし、あまり精度が高い検査法とは言えないため、新型コロナではPCR検査の前段階におけるスクリーニング用として予備的に利用されることが多い。

    我が国では、5月13日に厚労省が富士レビオ製の抗原検査キットをはじめて承認している。



2.抗体検査に対する規制(まとめ)

 (1)現状、新型コロナ感染の有無を判断できるのは国が承認した対外診断薬のみ

    現時点で、国から承認を受けた抗体検査はまだない

    抗体検査で新型コロナ感染の有無が確実に判定できるわけではない

 (2)しかし、IgGやIgMの抗体検査ができるとは言える

    厚労省も研究目的なら抗体検査を許容するスタンス


3.ビジネスニュース


 (1)ソフトバンク

    ソフトバンクグループ㈱は6月9日、同グループ従業員と取引先関係者、医療従事者から募った計44,066名の希望者を対象に無償で実施した「抗体検査」の結果を公表し、全体の4.9%にあたる計191人から陽性反応が出たことを発表した。このうち従業員と取引先に限定すると、陽性率が計38,216人中0.23%にあたる86人、医療従事者のみでは計5,850人中1.79%にあたる105人から陽性反応が確認された。

    なお、同グループでは、検体採取の簡易性から医療現場の感染リスクを低下させると考えられている「唾液PCR検査」(タカラバイオ製)も同社従業員1,050人に対して実施しており、今後はこれらを適切に組み合わせることで、二次感染の防止に役立てたいとのコメントを発表した。

    また、医療従事者に対しては、これまで行ってきたN-95マスクやフェイスシールド、防護服等に加え、「抗体検査キット」を無償提供する意向も今回の発表に先立ち表明していた。


 (2)楽天

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    楽天㈱は、遺伝子検査キットメーカー、ジェネシスヘルスケア㈱と提携し、国立感染症研究所のPCR検査法に準拠した解析方法による「PCR検査キット」を、4月20日より首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉、茨城)の希望する法人に向けて定価14,800円にて販売開始した。5月以降はその他の地域にも順次拡大していく方針。

    なお、検査キットは対象者の自宅に送付され、各自が検体を自己採取後、密閉容器を封入した封筒を各法人指定の専用回収ボックスに投函。ジェネシス側がこれを回収&分析し、検査結果は本人へ直接郵送されるという。(追記:その後、同検査キットに対し、医療関係者から「ユーザーに検体を採取させる方法が不適切であり、偽陰性が多発する可能性がある」などの批判が相次ぎ、楽天側は発売から10日後に同キットの販売を一旦中止した)

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