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先輩、ちょっといいですか3.5【怪談】

 先輩から「癒し系の怪談、読みたいなあ」とのリクエストを頂戴した。

 だるいこと言われたな、と若干うんざりしつつも、先輩に期待されること自体はとても嬉しいのでいっちょやったるか、という気分にはなっている。けど……癒し系の怪談、って一体なんだろう?

 そもそも怪談を書くこと自体が私にとっての「癒し」行為に他ならない。次点で各種ホラー作品を読むこと、怪談系YouTubeや配信を聴くこと、誰かから実体験を聞かせてもらうこと、これら三点すべて並列。
 特に耳から入ってくる怪談は日々の供給が半端なくて源泉かけ流し状態、幸せだ。通学時や作業中のBGMとしているほか、課題の息抜きでプレイするパズルゲーすら音消しにしてバックグラウンド再生、つまり私の耳元では、常に誰かがおっかなくておもしろい話をしてくれている。
 
 怪談仲間であるパパが言うには「良い時代になった」らしい。たまに朗読で聞く『洒落怖』なんかも以前はテキストしかなかったんだそうだ。私は目で追う怪談も大好きなので、それはそれで不便だとは思わないし、ログの倉庫もネットにあったんだよと懐かしがられた時は羨ましい以外の言葉が見つからなかった。いやあれは明確に自慢してきていた気がする。それはそれでと言えば、パズルゲーってステージ三桁になると手数が絶対的に足りなくなる。課金しろって言うんですか! と文句言ったら『そうだよ!!』とスマホ画面がバキバキにされるほどの大音量で返されるかもしれない。そういうおっかなさはいらない。

 おっと、癒し系癒し系……うーん、やっぱり書き溜めている分には見当たらない。困りはしないけど困った。先輩、急ぎかな。
 いろいろ問題があり、怪談としてまとめる予定がないメモ書きも確認してみる。うむ、やっぱりこの中からも見つけられそうにはない。

 何だかんだで先輩は優しい人だから、これらはちょっと。
 
 つらいので、読まない方がいい。



1.高速道路での事故

 高校時代に、クラスメイトの友達から聞いた話。

 休日に家族でドライブに出かけた帰り道、友達一家を乗せたクルマは高速道路にて事故渋滞に巻き込まれた。じりじりと蝸牛の歩みで進んでいたが、やがてクルマは渋滞の原因である事故現場そのものの脇を過ぎる場所まで到着した。
 単独事故だった。左側の防音壁に突っ込む形でファミリータイプの乗用車が大破している。
 ぐしゃぐしゃにひしゃげた車体に寄り添うようにして、中年女性が単身へたりこんでいる。その姿を友達は確かに目撃したという。
 人として顔を背けるべき現場なのだろうが、やはり人として、脇目でチラチラと確認せずにはいられない状況だった。友達はこう想像した。ああ、この人はおそらく、事故に遭った家族のお母さんなんだ。自分だけ車外に脱出できて、傷も浅くて、それでもどうしたらいいのかわからずに呆然とするしかないんだ……と。
 事故現場を過ぎると渋滞は徐々に解消し、友達一家も高速を降りて帰路についた。
 夕方の報道番組で、まさに先刻遭遇した高速道路での交通事故がニュースとして取り上げられていた。

 乗用車に乗っていた家族は「全員死亡」とされていた。

 友達は消沈した様子で、こう締めくくった。
「あの女の人……お母さんだと思うんだけど、家族が大変なことになっちゃって、錯乱しちゃって、クルマの流れに飛び出して、轢かれちゃったんだ、きっと……レスキューの人とか、私達みたいに現場の脇を通り過ぎたクルマがさ、助けたりとか、できたのかもって……」

〇所見〇
 そんなことあるかな。
 渋滞してたんだよね? それで、クルマの流れに飛び出して轢かれる?
 そもそも事故に遭った当事者、けが人を放置して、作業なんてするものなの?

2.クラスのペット

 小学生の頃、教室の後ろ、ランドセルを収めるロッカーの上でハムスターを飼っていた。
 そのハムスターがある朝、教室と同じ階にあるトイレの個室内で溺死しているのが発見された。

「カゴの蓋が閉まり切っておらず、夜中に水を求めて彷徨った結果、トイレに行きついて溺れた」と結論付けれられた。

 当時のクラスメイトは全員納得し、校舎裏庭のサツマイモ畑の傍に埋葬した。

〇所見〇
 絶対にありえないとは言い切れないけど、下校時刻が過ぎれば教室の扉って、前後きっちり閉じてなかったっけ。開けっ放しではなかったような。壁の下に並ぶちいせえ引き戸みたいなのも含め。
 ネットで少し調べたら、ハムスターってそこまで水を欲しないらしい。ウチの子お水飲まなくて困ります、みたいな飼い主さんの声も拾った。
 動物がつらいのはつらい。これは書けないな。


3.ネコ抜歯

 飼っていたネコ。15年以上生きたので長生きの部類に入る。晩年は「こいつ、いろいろわかってんなぁ」と思わせる振る舞いを見せてきた。

 ある日の朝。ネコの犬歯、ネコなのに犬歯がぐらついているのを発見。家族に伝え、クラスの友人達、そして部活仲間にも話して聞かせた。おじいちゃんネコだからねえ、そら歯もぐらつくよ。
 すると部員のひとり、同じくネコ飼いネコ命がこんなことを言ってきた。「そのままにしておくと歯の痛みで食欲落ちるかもだし、歯ぐきが炎症起こす可能性もあるから、早めのかかりつけの病院で診てもらった方がいいよ。抜歯、麻酔も必要だから結構大変だけど」
 即時帰りてえ。部活を終えてダッシュで帰宅。ママにこれこれこういうわけで一刻も早く病院だ40秒で支度だと騒ぎ立てた。ママもあらそうなの電話で予約しなきゃ、と言っている。犬歯ぐらぐらキャットはそんなふたりの間に佇んでいたが、だる、みたいな感じで後ろ足で顔をガリガリ掻きはじめた。すると、んんん?

 ネコの足元に、小さくて白い物体が落ちている。若干黄ばんではいるが、白く、尖った欠片。

 犬歯だった。

「……自分で始末つけるから大丈夫です、ってこと?」

 ネコは、だる、みたいな表情を崩さない。が、内心ガクブルだったのかもしれない。

 麻酔が大変、は余計なひと言だったか。

 とはいえ化膿や炎症の危険性はあるわけで、結局、日を置かずしてセルフ抜歯ネコはかかりつけの病院へ引きずり込まれた。結果は問題なし。よかったね。麻酔がイヤだったんじゃなくて、治療費を節約してくれようとしたのかな。

 ちなみに、抜けた犬歯は、召されてから、ペンダントトップに加工した。

 身に着けていると雨に降られない気がする。

〇所見〇
 かわいい。かしこい。会いたい。

 

 ああ、ほら、だめなのばっかりだ。つらいつらい。
 怪談書きし者として弱音を吐いちゃいかんとは思うけど、ねぇ。
 ちょっとお散歩してこよう。からあげクン買ってこよう。
 雨は降りそうにないけど、念のため。

 

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