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歌舞伎や能・狂言とまちなかで出逢う?「まちなか芸披露」で誰でも伝統芸能が楽しめる

やっとかめ文化祭DOORSの中でも一際目立つプログラム「まちなか芸披露」。今まで歌舞伎や能、狂言をみたことがない方でも楽しめるプログラムとして、やっとかめ文化祭開催当初から長く愛されてきました。

今回は、まちなか芸披露について、プログラムの概要や、今年の見どころをご紹介します。お話を伺ったのは、日本舞踊西川流四世家元であり、ディレクターの西川千雅さん、名古屋市文化振興事業団事業部で企画担当の野口さん、鈴木さんです。

伝統芸能との偶然の出逢いを「まちなか芸披露」で

ーー本日はよろしくお願いします!まずはあらためて、「まちなか芸披露」とは何かについて、聞かせてください。

西川さん(以下、西川):路上とかでこれまで出会うことのなかった芸との偶然の出会いですね。「偶然の出会い」は結構大きなテーマで、今まで伝統芸能と縁がなかった方が、いざ観に行こうと気構える必要はなくて、偶然まちなかで観て、その中で何か一つでも印象に残ったり、面白いって感じてくれたらとの思いです。

ーー路上で芸事が観られるって全国的にもすごく珍しいことだと思います!そもそもまちなか芸披露をやろうと思ったきっかけはどのようなことでしたか?

西川:企画の根幹は、自分のまちにある宝を誇りに思えるような機会をつくりたいという思いです。気張って都会から何かを伝えるのではなく、宝は地元にあるんだと知るきっかけになったらと思うんですね。伝統芸能や伝統工芸がこんなに揃っている土地って、ほんとうに少ないんですよ。

そして今の時代は、AIが勝手に自分の好みのものを提案してくれるから、興味の範囲外のものについては、偶然の出会いはとても少なくなっています。全く興味がなかったものも、自分の中で編集していく能力が希薄になっているから、偶然の出会いを仕掛けていきたいんです。やっとかめ文化祭の基本はまち歩きだと僕は思っているので、まち歩きの中で、伝統芸能と出逢う体験に重きを置いています。

ーー西川さんのお話にあった「偶然の出会いだから構えずに」と聞くと、初心者でも芸事を鑑賞するハードルが下がります。

野口さん(以下、野口):今回は円頓寺商店街で「まるごと一日やっとかめ祭り」という縁日のようなイベントを開催します。いつもだと、まちかどにステージを1箇所設営してそこでプログラムを行いますが、今年は商店街内の複数箇所で同時多発的にプログラムを展開する予定です。

ーー円頓寺商店街のお祭りの中で、伝統芸能を観ることができるということですね。

野口:ストリート歌舞伎を披露するステージの隣でDJがパフォーマンスするみたいな、より非日常的な空間になると思います。ふらっとお祭りを覗いたら、狂言をやっているステージがあるみたいな、より気軽にきてもらえるんじゃないかと。今年初めての取り組みです。

ーーお話にも上がっている、「初心者のハードルを下げる」というのが、企画する上で、大切にしていることの一つといったところでしょうか?

野口:例えば「狂言」の演目をお願いする際は、たくさんある演目の中から、初めて観てもわかりやすい内容や、言葉よりも動きが目立つもの、音で楽しめるものを選んでいただいています。

西川:観て聴いて楽しんでいただけるっていうことが、まず大前提で、その先の偶然の出会いを大事にしたいんですね。出会った時には、「いい出会い方」をしてほしいので、わかりやすくするとか、そういうことはとても気にかけています。

ーーわかりやすくするための工夫で、その他に行っていることはありますか?

西川:「ストリート歌舞伎」のステージでは、弁士と呼ばれる人がナレーションをつけることで、何が起こったのか状況理解がしやすくなったり、インタビューの時間を設けているので、演者からのお話が聞ける機会があります。

この司会者による質疑応答が難しいんですよね。歌舞伎の知識がありすぎても、初心者の気持ちで質問しづらいですし、司会者本人がいろんなことに興味があって、いろんな質問ができる人でないと……というのは、やっとかめ文化祭開催当初から課題です。

鈴木さん(以下、鈴木):お客さんの聞きたいことが聞ける人ってことですよね。毎回同じことを聞ける人みたいな。

西川:そうそう。自分が満たされたらもういいやじゃなくて、お客さんがこれ知りたいだろうなと察して聞ける人ですね。

興味がないと思っているものが楽しめるように

ーーお話聞いてるといろいろと楽しそうなプログラムばかりですが、今年のみどころを聞かせてください。

鈴木:それぞれのプログラムの内容も魅力的ですけど、ロケーションがどれも良いのが、特にご注目いただきたいポイントです。「この場所に行ってみたいから、プログラムに参加する」みたいな、場所への興味でご参加いただくのも良いのではと思っています。

例えば、愛知県指定有形文化財である「伊藤家住宅」での着付け体験や、円頓寺商店街に今年できた茶室「和水香庵(なごみこうあん)」での子ども向け茶道体験ワークショップなど、伝統家屋や新しい場所で伝統文化を体験できる、二面の楽しみ方があると思います。

野口:ロケーションで言うと、名古屋能楽堂って日本最大なんですよ。だからきっと世界最大なんじゃないかと思っていますが笑。まず、そういう場所を知ってもらおうと、能楽堂では蜘蛛の糸を投げる場面が見どころの能「土蜘蛛」を上演します。

他にも「お座敷ライブ」では、名古屋が誇る名料亭で「芸妓さんとお座敷遊びを楽しむ」みたいな、お金持ちしかできなさそうなことも、リーズナブルに参加できるのはやっとかめ文化祭だからこその体験だと思います。

鈴木:お作法とか気にされる方もいらっしゃいますが、参加されている皆さんも初めての方ばかりですし、講師の方がいらっしゃるので、気を遣わなくても大丈夫です。

ーーありがとうございます。西川さんはどうですか?

西川:ストリート歌舞伎を担当させていただいて、いつもは現代的に作っていますが、今年は、名古屋に縁が深い「常磐津(ときわづ)」という「聞く歌舞伎」を題材にしています。

その名場面集に加えて、「靱猿(うつぼざる)」という子役が猿を演じる狂言があって、これを猿に代わって鯱にしてます。細かい話は省きますが、演目の中で姫たちが鯱を誘拐して、円頓寺商店街を引き回していくんですね。なので休憩中も鯱は商店街の中で買い食いしたり、家康がやってきて、姫と鯱を奪い合って、「ここで勝負!」とゲームが始まったり、そうやって自然とお祭りの中で、お芝居が楽しめると思います。

ーーお祭りの中での芸事ですと、名古屋市立大学の大学祭とのコラボもありますよね!

野口:名古屋市立大学の学園祭「市大祭」にお邪魔して、その一画にステージを置かせていただき、辻狂言とストリート歌舞伎を披露します。大学の学園祭なので、他のステージではお笑い芸人さんのパフォーマンスや学生さんの出し物があって、外には屋台があると思いますが、その中で伝統芸能のプログラムを行います。
学生さんが偶然、伝統芸能と出会って何かを感じてもらったり、邦楽部の学生さんによる演奏がありますので、一緒にステージにあがる学生さんに刺激を与えられたらいいなと思っています。

ーーありがとうございます。最後に、やっとかめ文化祭を通じて、どうなっていって欲しいかなど、展望や思いを聞かせてください。

西川:多くの皆さんにとって、伝統芸能は自分の趣味とか好きなこととは違うので、興味がないことかもしれません。でも普段興味がないと思ってるものを楽しめるようになると、実はそこには多様性があるんですね。伝統芸能を生業にしている人たちと接することで、この先困ったことがあっても、「こんなめずらしいことやってる人でも生きていけるんだから、がんばろう」とか思うかもしれませんし笑。いろんな人生があって、正解は一つじゃないんだよっていうことを知ってもらうっていうのが、すごく文化的だと思っています。

野口:プログラムをピンポイントで楽しむのではなくて、例えば先ほどのお話にもあったロケーションを楽しむだとか、出演者や講師など人との関わりを楽しむとか、まちなか芸披露の会場の雰囲気をトータルで楽しんでいただけるとうれしいです。

バラエティ満載の伝統芸能を路上や能楽堂など、さまざまな場所で楽しめるまちなか芸披露。満員御礼のプログラムもありますが、プログラムの詳細やご予約はこちらのページでぜひチェックしてみてください!

撮影&執筆:fujico

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