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🟡大きなミモザの木の下で🟡

定職につかず暇だけはあった若かりし頃。
青春18切符と鈍行列車でいろんな場所を旅して回った。

当時よく訪ねていた関西の友人宅。
駅から彼女の家まで歩いていく途中、春先に黄色い小花をつける大きな木があった。

春の宵の口。
街灯の薄明かりの中で芳香を漂わせながら満開に咲き誇って大きく揺れている木。

眺めていると、美しさと同時に、旅先の心許ない気持ちや、これから先のまるで決まってない人生の不安が、ゆっくりと胸いっぱいに拡がっていくようだった。

その時、ふと彼女が
「ミモザ。
毎年ここ、綺麗やねん。」
と微笑みながら振り向いた。

この美しい木と花の名前はミモザ。
ああそうだね、なんて綺麗なんだろうね、と我に返って、その時初めてミモザという木を記憶に刻んだ。

その後、就職や転職や結婚や、また転職や結婚を繰り返しているうちに、いつしか彼女とも疎遠になっていった。

年を経るごとに華々しい思い出よりも、なんてことのない光景のほうを覚えているのは不思議だなと思う。

今でも、ミモザをみると、その時の光景を思い出す。
彼女は元気にしているかなあ。
わたしはいまだに先のわからない人生だよ。
怖いときもたくさんあるよ。

そうミモザに話しかけると、
満開のミモザの下にいる彼女が、

ええやん、綺麗やねん。

と、今でもあの頃のまま、振り向いて笑ってくれるような気がするんです。

〜Oracle of Mystical Moments〜
Catrin Welz-Stein
U.S. GAMES SYSTEMS, INC./U.S.A.


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