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空と私と1日{前編}

飛んでる、、、!!!
 眼下には一面緑の草原が広がり、周りには森林が囲む、そして目の前には山のふもとの町が、遠くまで見渡せる、それ程の高さにいる。

 今の私に地面という2次元の縛りは無い、3次元的な空間で自由になった。

 ・・・

 今日は前々から予約していたパラグライダー体験の日だ。夏休みも終わりに近づく頃にようやく私の予定と開催日時が合い、行ける事になった。

 ただし、ちょっとばかし遠いのが玉に瑕だが、楽しみなことに変わりない。

 パラグライダーで飛ぶとなると広い土地が必要になる、どうしても都会から離れることになる。

 朝から、電車で1時間以上かけて都会から離れる、開催地の最寄り駅に着いたら、そこから迎えの車を待つ事になっている。

 最寄り駅には普段は見ない無人の改札というか、あれはなんだ、縦に長い改札なんて始めて見た。交通遮断バーもない。

 駅を出るとすぐ横に大きな地図看板があった、遠出先の駅でよく見る看板で、観光名所やハイキングコースなんかが書かれてる。

 少し駅から離れて、送迎の指定場所で待っていると、1台の車がこちらに来て止まった。
「こんにちは、四葉 匠さんであってますか」
「はい、四葉です。燕パラグライダーさんですよね」
「はい、そうです。では早速ですが、ここから30分ほど車で行きますので乗っていただいて」
「よろしくお願いします。」

 ここから、さらに遠く、山の方へと車で行くらしい。

 車では私の身の上話を少し、ここの地域のことを話していると、案外すぐ到着した。

 途中、山の中にずんずん入っていくので、心配したが、突然広大に開けた土地に出てきたので驚いた。

 山の中腹だろうか、なだらかな斜面に草原が広がり、途中から急な坂になる。周りは森に囲まれ、山のここ一部だけが開けていた。

 斜面を少し上がると木の陰に隠れるように、機材や机などを置いている簡易的な待機所があり、そこで荷物を下ろした。

「他の参加者の方はまだ来てませんね。開始まで時間がありますので、好きな席に座って待っていてください」
「分かりました。ありがとうごさいます。」

 早く着きすぎたのか、他の参加者はまだ居なかった。4人以上座れる大きな机がいくつも並んでいたので気になって聞いてみた。

「いつも結構な人数が参加するんですか」
「そうですね、夏休みシーズンなんで、1回で20~30人位が来ますね。でも今回はラッキーですよ、10人くらいなので、沢山できます。貸し出せるグライダーが4つしかないので。」
「それは確かに、ラッキーですね。」

 パラグライダー体験の参加者数の相場なんて知らなかったが、確かに30人も来るとは驚きだ。

 しばらくは準備運動でもして、待っていると、車が1台、また1台とやって来た。続々と参加者とコーチが集まってくる。

 見渡すと、性別も年齢も、様々な参加者がいる。父と息子の2人家族、小さい子2人を連れた家族、単独参加のおじさんが2人、若い女性の2人組だ。

 全員集まったであろう頃合いを見計らい、主催者が呼びかけた
「時間になりましたのでそろそろ始めたいと思います。今回はパラグライダー体験にお越し頂きありがとうございます。」
 主催者から始める前に注意事項の説明と、動ける格好への着替え、安全防具の装着など、準備をした。

「準備ができましたら、こちらに集まっていただき、コーチ1人に2~3人の班を組みます。」

 私は準備が出来たので合流した。全員集まったので班分けが行われた。私の班は父と息子の2人家族と一緒になった。
 班分けが終わり早速パラグライダーを始める事になった。

 パラグライダーは最初、グライダーを起こすことから始まる。地面いっぱいに広げた扇状のグライダーから何本もの頑丈な線が伸び、背負った専用のリュックの肩に集約されている。集約された線の内の数本が手元の輪っか、ブレークコードと言うが、この輪っかに繋がり操縦する。専用のリュックには緊急用のパラシュートが入っているらしい。

 3人交代でグライダーを起こす練習をするのだが、動作としては簡単だ。リュックを背負って、輪っかを肩の位置で持って、前にダッシュする。これだけで、風を受けたグライダーは自然と起きる。

 残念ながら、自分がする時は起きているか分からないため、コーチが教えてくれる。途中まで走ると合図と同時に、緊急停止の動作で輪っかを一気に下に引っ張る。

 私含めほとんど皆、1度で起こすことは出来るようになっている。あとは、繰り返して体に覚えさせる。瞬間的にこれが出来ないと、特に緊急停止が出来ないと危険だ。

 レッスン中1人が飛ぶとき2人は暇なので雑談をしていた。

「親子で参加ですか。」
「はい」
「学生さんですか」
「大学で1年生です」
「何学部とか聞いて良いですか」
「理工学部で化学系を専攻してます」
「おー、理系なんだすごい。授業は難しいですか」
「まぁ、まだそこまででは無いですね、まだ1年ですし」
「そっかまだ1年か、じゃあ、どっちかというと、これから遊ぶぞって感じですね」
「そーですね、どっちかというと、」
「だよね、今のうちにいっぱい遊んどかないとですね。」

 いわゆる大学生の特権というやつだ。存分に遊ぶ最後のチャンスになるだろう、楽しんで欲しいものだ。

 午前中は起こす練習だけで終えてしまった。しかし、途中で他の班に動きがあった。

 なんと、子連れの家族班で子供がもう飛んでいたのだ。

 突然遠くの方から「オー」と聞こえてきて、何だと思って見ると、脚が地面から離れ、水平に進んでいるのだ。これには驚いた、こんな短時間で出来るとは、確かに体が小さいと軽いので、簡単に持ち上がるのだが、それにしても早い。

 操縦の感覚も掴んでいる様子で、さすが子供の習得スピードはえげつない。

 昼食を買っておいた弁当ですませ、休憩していた。天気は快晴でパラグライダー日和なのは良いのだが、いかんせん熱い、それに防具や長袖長ズボンが拍車をかける。


 後編に続く、、、


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