THE BLUE HEARTSのとりこになった小学2年生

音楽で衝撃を受けた経験はいくつかあるが、そのうちの1つが「THE BLUE HEARTS」だった。

今でも覚えている。あれは平日の朝である。

小学2年生だった私は、その1週間前ほどに父が飲み会のビンゴ大会だかなんだかでもらってきた「CDプレーヤー」に夢中だった。

そのCDプレーヤーはスピーカーも内蔵されていて、CDを入れればそれだけですぐに曲が聴けるってやつだった気がする。色は確か青っぽかった。

家にはすでにCDプレーヤーがあったから、「これあげる」と父から譲り受けたのである。

そのCDプレーヤーで、私は自宅にある父母のクラシックCDを漁り、お気に入りのやつを何度も何度も聴いていた。

ある朝。そんな私を見てか、父が私に言ってきた。

「これ、このCD良いよ。ブルーハーツ」

んん…?ブルーハーツ…?
父が手に持っていた、英語で大きく「THE BLUE HEARTS」と書かれているCDを見ても、私は全く興味を持たなかった。

いや…ブルーハーツよりも、私は今聴いてるムソログスキーの「展覧会の絵」の方が聴きたいのに。

しかし、私は「別にいい」とは言えず、父が手に持っていたCDをしぶしぶとプレーヤーに入れてみた。

再生ボタンを押す前に、CDジャケットの裏面に書かれた曲目を見せながら父は言った。

「この…最後に入ってる『リンダリンダ』って曲、これ聴いてみたらいいよ」

私は父にしたがって最後の曲にセットし、再生ボタンを押す。

父はその瞬間、「早く準備しないと」と言って仕事に行く準備のために家の階下へ足早に降りていったのだった。

曲が始まる。

ゆったりしたギターの音が聞こえてきて、かと思ったら「ドブネズミ」なんて歌詞が聞こえてくる。

なんだこの曲…と思ったけれど、そこで聴くのをやめなくて正解だったと今になって思う。

途端に大きな声で「リンダ」と2回叫ぶヴォーカル、追随するギター・ベース・ドラム。
ゆったりで始まったかと思ったらいきなりリズムが早くなって、小学2年生はCDプレーヤーをまるで虎が子を守るかの如く四つんばいになって聴きのめっていた。

今まで、父が車の中でかけていた音楽とは明らかに違う属性を持っていたように、その小学2年生は小学2年生なりに感じていたのである。

父が車でかける音楽といえば、大概父が青春を共に過ごしたであろうPet shop boysだったり、Aerosmithだったり、a-haだったりQueenだったり。
たまに古いアニソンをかけてみたり、J-POPならサザンをかけてみたり。

それらのミュージシャン/バンドとは全くもって属性の違うような…今までサビ抜きのお寿司しか食べれなかったけど、なんとなくサビありで食べてみたら美味しかったような…そんな感覚である。どんな感覚だ。

最後まで聴き終わって、小学2年生はすっかりムソログスキーのことも「展覧会の絵」のことも忘れていた。

「まだ学校に出発するまで時間ある…」と時計を確認して、それから4回ぐらいリンダと叫びまくる曲を聴いていた。

リンダって誰なんだろう、ドブネズミが美しいってどういうことなんだろう…。
小学2年生の頭では、自分なりの答えなんて出なかった。

学校に出発してからも、道中でずっと「リンダリンダ」のメロディが頭から離れずにいた。こんな素敵な曲を、友達はきっと知らないだろう…そんなことまで考えていた。

これは余談であるが、小学2年生は「リンダリンダ」以外のブルーハーツの曲を全く聴いていなかった。
リンダリンダがあまりに衝撃すぎて、長いことリンダリンダ以外の曲に焦点を当てることができないでいた。

後年…中学生頃になって、ウォークマンに入れたアルバムを順々に聴いていき、「あ、こんな良い曲もある」と再発見するに至った次第である。

もしかすると、中学生の頃に「リンダリンダ」と出会っていたら、またちょっと違う印象として記憶に残っていたかもしれない。

だが、まだ音楽遍歴の浅い小学2年生というタイミングで聴いたあの衝撃的なシーンは、大人になった今なお鮮明に思い出されるのであった。

おーわりっ!


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