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言葉の力

今日もうまくできなかった。

やらなきゃいけない仕事は、まだ残っている。なんとか提出したあの企画は、上手く伝わっただろうか。家族と話す時間が少しずつ減ってる。最近は、奥さんに家事をお願いしてばかりだ。家でも会社でも、もっと話したいことがあるのに時間がない。あぁ…そういえば先週からずっと書きたいと思ってるあのことにも、手がつけられずにいる。
あぁ。…疲れたな。

会社の帰り道、そんなことを思いながら、山手線から京浜東北線に乗り換えるため、品川駅のコンコースを歩いていた。もうすぐ22時。駅を歩く人の数は、まだまだ多い。黒や茶色といった、暗い色の服の人たちにぶつからないように歩くぼくの目に、電子看板の文字が飛び込んできた。

「今日、何を変えたら 未来の自分に感謝されるだろう」

白い背景に黒い文字。縦書きで書かれたキャッチコピーは、あっと思った次の瞬間に画面から消えていた。
機械的に情報を流し続けるサイネージモニタには、聞いたことのない企業の名前。あの言葉を写真に残しておきたいと一瞬思ったけれど、しばらく待っても再び出てくる気配がない。立ち止まるぼくの横を通り過ぎる50代の男性が、邪魔そうに横目で見る。お腹がぐぅぅと鳴る。

帰ろう。

電車をホームで待つあいだ、あのコピーが気になってスマホで検索してみた。しかし、どの企業のキャッチコピーなのか見つからない。

「でも、いい言葉だった」そう思いながら、ぼくは見慣れた電車へ乗った。
できなかったことを数えながら、肩を落として歩くことが多い帰り道で、今日はあのひと言に元気をもらった。
あの言葉を書いた人に、「大丈夫。できる。」と。励まされた気がした。

良い言葉は、心に届く。
必要としている人に寄り添って、込められた想いがパッと相手を包む。
そんな魔法のような瞬間がある。

ぼくも、誰かを包む言葉を作れるようになりたい。そう思った。

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