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ひきこもる本人とうまくやっていく⑤行動療法に誘う

ひきこもるご本人と話すと、ああそうだったのか、と思うことがあります。結構な頻度で登場するのが、「人と接するのが怖くなる体験」です。

どうしてみんな笑っているんだろう。ここは笑っておいた方がよいのかな。
先輩がもっと人前に出て積極的にならなきゃだめだ、とみんなの前で叱る。また叱られると思うと、仕事に行くのも嫌になる。
仲良しだと思っていたのに、私の悪口を言っているなんて。
なんだか忙しそうだな。いつ話しかければよいのだろう。

誰でも一度は経験したことがありそうなことです。でも、本人にとっては、強烈なトラウマになることがあります。

例えば、もともと対人関係の範囲が小規模で、おとなしい性格。例えば、あいまいな文脈(空気感のようなもの)を読み取りにくい心理的性質。例えば、いじめられた体験がすでにある。人それぞれの事情があると思いますが、重要なのは、体験の重みは人によって違うということです。

だから

そんなの気にしなきゃいいんだよ

といった助言は、全く役に立たないばかりか、本人にとっての「重み」を無視していて、関係性が悪化すること必至です。

ではどうすればよいのでしょうか。

まずは本シリーズ(ひきこもる本人とうまくやっていく)②③④などのよいコミュニケーションを実行しましょう。そして、関係性が改善したところで、そっと治療に誘うのです。(誘い方は②のアイメッセージを使ってくださいね)その治療の選択肢の一つとして、曝露療法などをとりいれた行動療法が、上記のような対人恐怖を伴うケースではお勧めできる可能性が高いと思います。

まずは、カウンセリングルームで、一対一の人間関係に慣れる。出向くのが難しければ、訪問や、電話セッションでもいい。将来の話なんてしなくていいので、ただ人と接することに慣れる(曝露する)

慣れてきたら、精神保健福祉センターなどで行っている、デイケアの見学に行く。いきなり入るのは難しいと思うので、見学です。見学も難しければ、ドアの前までいく、でもいいんです。とにかく慣れること。

そして、徐々にグループに参加する。最初は、後ろの方で。慣れてきたら、グループの中に。

このプロセスで、③で述べるような、「よい点に触れる」コミュニケーションで、ご家族は援護射撃ができます。例えば、「今日はドアの前までいけたね!」などと伝える。望ましい行動を強化(行動療法的に)するのです。

ひきこもっている人が恐ろしいものがいくつかあると思いますが、電話や、理美容室はその代表でしょう。そういうところには、このような援助付きの曝露療法を行って、グループに慣れてきたら行くといいでしょう。順序は、援助付き個人→援助付きグループ→援助が少し薄い実社会個人→…という風に、だんだんと援助を薄めていくことが鉄則です。対人恐怖のトラウマ処理には、成功体験が大事なんです。ですから、いきなりハードルをあげてはいけません。これはプロンプトフェイディングとよばれる、行動療法的発想です。

なぜひきこもったのかのバックグラウンドを理解できると、いきなり就労させよう、学校に行かせよう、なんて方針が、いかに逆効果なのか、お分かりいただけると思います。

このような行動療法的治療がうまくいくかは、あくまでもご本人のアセスメントによります。全員に向くわけではないので、まずはご家族がカウンセリングルームや精神保健福祉センターなど、専門家に相談に行き、アセスメントを受けること。そしてそれに基づいて本人に合った計画をたてることが重要です。

(矢田の丘相談室 田中 剛)

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