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ひきこもる本人とうまくやっていく④正論を避け説得しない

ご家族は本人が就労するなど、社会との接触を保ってほしいと思っていることが多いと思います。特にご本人が若年の場合には、なんとか学校をやめないでほしい、など、と焦るお気持ちなのだと思います。

焦っていると、以下のような、本人を説得したくなることが多くなるのではないでしょうか。

どうするの?今日行かないと単位が足りなくなるんじゃないの?
今やらないと、後になるほど大変なんだよ。私たちはいつまでも元気なわけじゃないんだから。わかってるの?
どうしてそんな昔のことをいつまでも言ってるの。過ぎたことを言っても、何も解決にならないでしょ?
人の目なんて、気にしなければいいじゃない。誰もあなたのことなんて、きにしてないんだから。

こういった声掛けをしても、ご本人との関係は、悪くなる可能性が大きいと思います。なぜなら、「学校に行かなきゃいけない」「仕事をしないといけない」なんて正論は当の昔に本人だって百も承知だからです。わかっているのに、どうしようもないので、家族に八つ当たりしたり、黙り込んだりしてしまうのだと思われます。

わかっているのにどうしてできないのでしょうか。私は代表的には三つの可能性があると思います。

①いじめられた、集団ですごく嫌な目にあったなどの、傷付き。

②知的なバランスの特徴。例えば、文脈(空気)よりも、表面的言語(データ)の記憶が残りやすいと、社会はつらい。

③もっとひどくならない(精神病にならない)ための、防衛策。ひきこもるだけでなく、めちゃくちゃ手を洗うなど。もともとストレス脆弱性を持っている場合。

こういったれっきとした、正当な理由があって、ひきこもっているわけです。したがって、「気にしなければいい」ができれば苦労しないよ、ということなんです。

ちょうど宿題をやろうとしていた子どもに対して、「あんたもう宿題やったの?」と聞いているようなものになっちゃうんですね。多分「わかってるよ!」と反論されるでしょうね。

うすうす気づいている人に、わかってるのか確認すると反論される。

ここまでわかってくると、よいコミュニケーションの答えが見えてきます。正そうとすると反論されるわけですから、本人の訴えを認め、正さなければいいのです。

上記の家族の言い分を、説得しない(正さない)ように言い換えてみましょう。

あなたも、なんとか学校に行こうと思っているんだよね。もしできなくて困っていたら、相談してほしい。
私は、あなたにうまくいってほしい。私たちが元気なうちに、どこかに相談に行ってほしいと思うんだけど、どう?
以前馬鹿にされたことが、いつまでも頭から離れないんだね。そのせいでうまくいかないと思っている。本当はあなたも、うまくいきたいと思っている、ってことだよね。
他人からどう見られているのか気になるのは、よくわかる。あんな酷い目に遭ったものね。私はあなたの人生がうまくいってほしいから、その傷付きをケアしてほしいと思っている。

よいコミュニケーションを継続していると、本人に対して、相談を勧めやすくなります。まずはカウンセリングのような個別相談から始めて、生活リズムを整えたら、デイケアなどグループが有効な場合があると思います。いきなり就労ではなく、徐々に人に慣れていくことが必要なのです。

こういった計画には、専門的アセスメントが不可欠です。ご家族だけで決めずに、まずは専門家に、家族相談から始めることをお勧めします。

(矢田の丘相談室 田中 剛)

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