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ひきこもる本人とうまくやっていく③ポジティブフィードバック

もう少し気楽に考えたら、もう少し器用にできたら、もっとよい人生が送れるのに、、、ご家族は歯がゆいおもいをなさっているのではないでしょうか。

そんなこと気にしなければよいのに
買い物に出かければ、少しよくなるかも
どうして人生をもっと楽しまないの


人生の先輩としては、自分の乗り越えた方法や、生きる指針を、言いたくなることがあるでしょう。それは、ご本人にうまくいってほしいからです。ですから、人生経験から、ハウツーを伝えたくなる、と言うお気持ちは非常によく理解出来ます。

もし、ハウツーを知ることで、行動が変容するのであれば、とても有効な方法です。ところが、行動科学の原則から言うと、ご本人の行動が変わるのは、「ご褒美をもらった時」(ポジティブなフィードバックをもらったとき)なのです。

従って、助言された時の気分が、「ご褒美」であるかどうかが鍵になります。では、助言された時のご本人の気持ちを想像してみましょう。

こんなことやってる場合じゃないなんて、自分だってわかってるよ

ご本人は、頭ではどうしたらいいかはすでにわかっている事が殆どです。したがって、わかっているのにできないことで、すでに自分を責めているのに、さらに助言されるということは、「やっぱりだめだと思われているんだ」と解釈して、責められている気持ちになる事が予測されます。助言はご褒美とはベクトルが逆方向なのです。このように、助言の類は

自分ってだめだよな

というご本人の自信喪失を、強化してしまっている、とも言えます。当然、行動変容は起きないでしょう。

では、どうすればご褒美をあげられるでしょうか。それは、無理矢理に本人の良いところを探し出して褒める、のです。無理矢理、がキーポイントです。

昨日より10分早く起きられたね!

ここでポイントなのは、実際に10分早いかどうかは重要では無いことです。なんなら、昨日と同じ時刻でもよいのです。ご本人が早起きする努力をしているのは私にはわかっている、と無理やりポジティブに伝える事が重要なのです。

ご本人は、

何言ってんの、昨日と大差ないよ

などと反論するかもしれません。でも、内心悪い気はしていないはずです。そして

そうか、努力しているかもな

と、ご本人の自覚が修正されるのです。この時、わずかでも早起きしようとする気持ちが強化されて、早起き行動が繰り返される確率が上がるのです。だから、実際に10分早いかどうかは、ほとんどどうでもいいのです。

さらに、この無理やりポジティブ解釈の積み重ねで、口を開けばお互いに不愉快な気持になるかもという、負の関係性から脱出し、お互いを尊重し合い、前向きな気分を醸成していけます。

この、安心安全な関係性が、のちに、治療的処遇を勧めるための下地になります。

どうですか?いいことづくめですよね。

でも、既に本人との関係がギクシャクしている家族にとっては、

そんないい事すらすら言えません、、、

と言うお気持ちかもしれません。

すでにご本人から暴力を振るわれていたり、何日も口をきかなかったりした体験があるから、はれ物に触るようなコミュニケーションになっている、なんとか不機嫌にならない工夫ばかりしている、、、こういう状態の場合もあるでしょう。そんな支配的な関係性の相手に対して、いいことなんて、言いにくいですよね。この「関係性を悪くするのが怖い」気持ちを癒さないと、本人を褒める事が難しいのです。従って、ご家族のケアも、同時に必要です。

このようなポジティブなコミュニケーションスキルは、最初のうちは練習や、ご本人の行動の解釈・アセスメント、ご家族のケアに、専門家の相談があった方がベターだと思います。

(矢田の丘相談室 田中 剛)



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