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往復小説

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嘗ての往復書簡をコンセプトにMASATO氏と始めた往復小説。2019/8/22:天外黙彊氏も加わり、小説によるコミュニケーションを公開しております。ココでは私のパートを公開。一話… もっと読む
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#ショートショート

short‐short:景色

仕事柄の癖のようなもの。 誰にしろあるだろう。 真剣に取り組んであれば当然のことに思う。 僕は人間観察かもしれない。 この前、親父に怒鳴られた。 「人ばっかり見て、お前はどうなんだ!!」 つい言いすぎた。 見ていれば自ずと口も出る。 他人事は無責任に言える。 例え事実だろうと欠点を白日の下に晒されるのは誰しも嫌なものだ。 (食事の時ぐらい忘れよう) 食事は必ずといっていいほど人通りの多いところでとる。 いつの間にかそうなっていた。 調査対象の行動履歴が知らず頭にあるのかも

short-short:サンタ

「サンタさん来るかな?」 今日はクリスマス。 街は色づき華やいでいる。 娘の父親が失踪して1ヶ月が経つ。 彼は何時もこう言っていた。 「俺は猫みたいに死にたい」 そういう意味だとは思わなかった。 届けは出したけど諦めている。 「俺が被災したら1週間もたないだろうな」 震災の報を聞く度に彼は言った。 映像を見ながら、まるで我が事のように苦痛に顔を歪め、被災中の病人を思い胸を痛めた。 私は彼の苦しみがわからなかったのかもしれない。 どこか怠けているだけじゃ

short‐short:秋

「秋か」 路上に花が開いていた。 遠目でもわかる。 その様は飛び降りを想起させる。 コンクリートにまかれた脳漿。 手を合わせたい気持ちになる。 飛び降りというよりは落とされたと言った方がいい。 事件だ。 犯人は解っている。 カラスだろう。 主犯だろうが、共犯の可能性も。 今回は目撃していないが、いつぞや目にした。 被害者は「渋柿」。 路上に身を投げた柿はなんとも哀れだ。 埋葬したい気分が湧き上がる。 熊本の祖母宅で見たそれは自然の一部だった。