マードック殺人事件

今回の記事は、興味本位で読んでしまった。なぜかというと、この裁判は、「O・J・シンプソン事件」に継いで全米で注目を受けているからだ。これを読んでいる読者は、O・J・シンプソンの事を知らないかもしれない。1995年1月に始まった裁判は、全米のネットワークで放送され、その行く末が注目され、過去最も視聴率の高い裁判になった。その当時、日本でも繰り返しニュースで取りあげられ、その頃をを知っている人は名前を聞いたことがあるだろう。

実は、今、サウスカロリナ州の名士(この記事では、potent charmなんて表現している)である、マードック家に全米の注目が集まっている。家長であるアレックス・マードックが関わる奇々怪々な殺人事件に関する裁判だ。

マードック家は、1920年から3世代に渡って、地元でソリシター(solicitor)、そして検察官(prosecutor)として、法執行の立場として独善的に強大な影響力をふるっていた。その悪行が、4代目のアレックスになって露わにされてきたのだ。不正が1つ明るみになると、それに関連して次から次へと出てくるという展開。事実は小説よりも奇なりという言葉がそのまま当てはまり、全米の注目を受ける状況になっている。

事件のあらましは、記事を読むといいだろう。私は、あくまでも英語の勉強で、知らなかった単語や言い回しを書き連ねる。今回の記事は非常に長いけど、ミステリー小説だと思って読めば面白い。これが事実だという点でアメリカの奧の深さを感じる(当然悪い意味で)。

さて、記事の初めから読み始めて、解らない単語が出てきたら書きだそう。ます、「inebriated」は「酩酊した」という意味。

ちょっと解りにくいのが、「He had slipped into an aggressive alter ego,」だ。「彼は、攻撃的なもう一つの人格に成り代わった」のような意味だろうか?「Timmy」というニックネームで呼ばれていたのは、なぜだろう? ちょっと調べてみると「神を称える」という意味もあるようだが、彼は他の友達から、畏怖の念を持たれていたということだろうか?

「Murdaugh」という綴りで、「マードック(Murdock)」と呼ぶそうだ。3世代に渡って、サウスカロリナ州のローカントリーで、ソリシターとして力を振るっていた。

アレックスの息子、ポールがボート事故を引き越し、運ばれた病院で警察が事情聴取をしようとしたら、父親のアレックスと、祖父のランドルフ3世(この時は存命、今は亡くなっている)が病室に押し入り、「私は彼の弁護士だ、たった今から」と言い放し、警官の事情聴取をさせない横暴ぶり。

「to orchestrate something」という表現は、覚えておくといいだろう。当に日本語で言うと「その場をしきる」って意味で父親と祖父がしきったみたいだ。

「deposition」の意味は、堆積や堆積物という意味があるが、法律用語で「宣誓供述書」という意味もある。「affidavit」と同じだろう。「pin」の熟語も知っておかなければならない。「pin A on B」という使い方は、「Aの罪をBのせいにする」という意味だ、これはわかり易いけど、意外とわかりにくいのが「pin A down」で「Aを突き止める」という意味だ。

「connivance」は、「黙認」や「見逃し」などという意味。「under the influence」で、「薬物や酒に酔った状態」という意味になるそうだ。

「Harpootlian’s edge」は「ハルプトリアン氏の強み」という意味も知らないと使えない。

「brutal swerves」の「swerve」も「ハンドルを急にきる」という意味ではあるが、このように「急展開」という意味にもなる。「baseless slur」も「根拠のない中傷」という意味

「botch」も知らなかった。「しくじる」「不出来な仕事」で、「He botched the job.」で「仕事をしくじった」だ。この「botch」に「L」を加えると、「blotch」で「インクの染み」になることも覚えておこう。

「exemption clause」は、法律用語で私は解らなかったけど、「免責条項」という。

「the realm of deepest noir」とか、「serial fake-outs」「intimation of corruption」、そして「a true psychological puzzle」という言葉を並べて、この事件を説明しているけど、ライターのセンスを問われる表現であろう。やっぱりプロは凄いって思える。そして、序盤の締めくくりは、次の文だ。

Who was this jolly-looking, ruddy-cheeked attorney, smiling like Santa in one family photograph after another, his arms draped lovingly around his wife and sons?

アレックス・マードック氏の写真を見てから、このフレーズを読むと、そこから醸し出される彼の恐ろしさを感じ取れるかも。

米国の人にとっても、マードック家が支配していたサウスカロリナ州のハンプトンは馴染みが薄いのだろう。ここからハンプトンの描写が始まる。

「The terrain there is the gray-green of Corot landscapes」なんて、表現をしているので、博識でないと「コロー風の風景」なんて言われても理解できないだろう。恥ずかしながらカミーユ・コローを知らなかったので、ウィキペディアで確認した。その風景画の雰囲気ということは理解できた。実際のハンプトンは、情緒のある「viaduct」や「windmill」の代わりに、百円ショップやガスステーションが並んでいるので、より平坦(flatter)で単調(drabber)なイメージだろう。

「Norse myth」は「北欧神話」であるが、こういう状況で北欧神話という言葉がでてくる背景を考えないといけないだろう。根拠も無くあれやこれやと推測することを北欧神話と言うのは、聖書のバックグラウンドのある人にとって、キリスト教以前の概念、日本人なら「日本神話」になるのだろうか? いやあ、こういう状況で日本神話に例えることはないと思う。とすれば、「Norse myth」って、米国の人にとってどういう存在なんだろう? 疑問は生まれる。

「derogatory」も全く知らない単語だった。本当に知らない単語が多すぎて困る。「D」から始まる言葉で似たような言葉を考えると「disdain」、「despise」かな。

「loblolly pines」は、「タエダマツ」という松ではあるが、タエダマツなんて、初めて知りました。私が覚えている、植生に関する関連の言葉として思い浮かぶのは、草木の名称以外で、「foliage」、「vegetation」、「flora」ぐらいだ。まだまだ覚えなきゃいけない言葉が多い。考えてみると、日本語で知っている言葉はすべて英語で表現できないと、英語ができると言えないだろう。私はまだまだだ。

「state provision」は「州規定」でいいだろう。「provision」にも色々な意味があるので、知っていないといけない。「rescind」は、「無効にする」「廃止する」「撤回する」という意味があるが、この意味を示す単語は他に山ほどある。「repeal」「dismiss」「relinquish」「renounce」「revoke」などあるが、まだまだニュアンスの違いが分からない。

「oblige」という単語に私は振り回されている。全く異なる2つのニュアンスを持っているからだ。「義務的にしなければならない」という意味と「喜ばせるためにする」という意味がある。「obliging juries」というのは、「喜んで引き受けた陪審員」ということになるのだろうか?「award」には、「賠償額を与える」という意味もある。裁判用語の使い方に慣れる必要がある。

ヒッチコック映画の「巌窟の野獣(Jamaica Inn)」を引合いにして、アレックスの不正を説明しているが、ヒッチコックが好きな私でも、この映画を観たことがない。ヒッチコックがハリウッドに移る前のモノクロ映画で、このライターは映画の知識にも造詣が深いのだろう。「squire」には、「大地主」や敬称に用いる、このタイプの言葉に「squaw」を知っていたが、併せて覚えているといいだろう。

「the tip」に「密告」や「たれ込み」の意味があることも知らなかった。「coroner」なんて言葉も全く知らなかった。「検死官」も犯罪系の小説を読まないと出てこない単語だろうけど、そういう分野をよく読んでいると当たり前に知っていないといけないんだろう。

「exhume」も知らなかった、この言葉の派生後である発掘の意味に「exhumation」があり、その関連語として「excavation」は知っていないといけない。

「But, for the plot to work, Tony had to be replaced by someone in Alex’s pocket.」もサラッと書いているが、自分ではなかなか書けない文章だ。ライティングスキルを上げたいが、多読して気に入ったフレーズをインプットしていくしかないだろう。

「deus-ex-machina」という全く知らない単語がでてきたけど、演劇に詳しい人は普通にしっている言葉なんだろう。日本語で、「デウス・エクス・マキナ」になっていた。知っていましたか?

「they’d have thought he hung the moon,」という使い方も知らないといけない表現だろう。「彼ら(兄弟)は、彼(アレックス)の事を最高に素晴らしい人と思っただろう」という意味になる。

そして、アレックスの数々の不正の積み重ねを次のように表現している。

The scope of Murdaugh’s depravity is without precedent in Western jurisprudence

本当にアレックス氏の恐ろしさが次から次へと露わにされている。ここまで読んでも記事の半ばにも満たないところが凄い。この作者もかなり下調べをして記事を書いているのが良く解る。

「exaggeration」という言葉がでてきたが、この動詞は「exaggerate」である。もう1つ覚えておくべき単語が「aggrandize」だろう。これは権力や富を誇張して見せる時に使う言葉のようだ。

単語を覚える時は、できるだけ知っている単語を想起しながら新しい単語を覚えるといいだろう。「theft」なんて、基本単語と思うでしょうが、私は綴りがあやふやになっていた。この意味から覚えている単語を書き出すと、「larceny」と「misdemeanor」になる。

「siphon」も日本語でサイフォンの事だが、動詞形があり、「水を移す」と「金を不正に動かす」という意味がある。ここから想起する単語は、「percolate」と「commingle」だ。まず「percolate」というのは、まずパーコレータとサイフォン関係で思い浮かべた。そして、金を不正に動かすから連想して、不正に混ぜ合わせるという意味で「commingle」が出てきた。

「dupe」は「人を騙して〜させる」という意味がある。これから想起する他の単語は、「beguile」だろう。しかし、「beguile」には「beguiling」という派生語があるように、魅惑的に騙す意味合いが強いのかもしれない。

映画の例えが再びでてきた。「ファーゴ(Fargo)」はアカデミー賞を取ったので映画ファンなら知っているだろう。私も映画ファンだけど、この映画をまだ観ていない(恥ずかしい、あまり映画も観ることができなかった時期だったので)。虚言誘拐をテーマにしていることから、アレックスの妻と息子の銃殺を警察に通報した録音音声の解析から、彼の虚言であろうという疑いが生まれたという説明だ。

ここまで読んでいると、アレックスの怖さがヒシヒシと伝わってくる。不正を誤魔化すために不正を重ねていく話の展開が凄すぎる。アレックスを切り崩すために、妻のマギーと息子のポールを責め立てようとした矢先、自分の不正を暴かれないために妻と息子が誰かに銃殺されたように見せ掛けて2人を惨殺。疑惑をそらすために家族を失った被害者になろうと…

こんな事ができるのも、この小さな街で支配者として君臨できた過去があったからだろうと説明は続く。こんな表現をしている。

The theory had an icy logic: kill Paul and Maggie, save self and money.

なんて表現したらいい男だろうか。まあ、まあ息子のポールも大概悪い奴だったみたいだ。「Paul was certainly a handful. “Holy terror” was about the kindest epithet I heard from people who’d known him—most descriptions evoked a teen-age Caligula.」父親が実力者だったから好き放題にできたんだろう。ここで、「handful」と「epithet」を知らなかった。でも、「epithet」は派生語から考えると覚えやすかった。「pith」と「pithy」の派生語と考えれば、「epithet」は忘れないだろう。

裁判が始まった。アレックスに付いているハルプトリアン氏は、サウスカロリナ州の民主党議長を務めたこともある州で1番の実力者だ。彼は、「lawmaker」であり、「trial lawyer」と表現されていたけど、その説明の後に「legislator」と「litigator」という表現にもなっている。これはちゃんと押さえて覚えてこう。

法廷内に連れてこられたアレックスの表現も凝った言い方をされている。「Carrying himself very upright, in a loose white shirt, slim-fitting khakis, and tan loafers, with a pair of glasses perched suavely atop his head, he looked lean and sleek and surprisingly put-together.」この表現を読めば粋な男に思えるし、実際、youtubeで彼の姿を確認すると、当に意を得た表現だって思えるだろう。

次の文章は、裁判が始まった時の流れを説明しているから、この文章は全て丸暗記していてもいいかもしれない。

Standing for the formal arraignment, he pleaded not guilty. In response to the prosecutor’s old-fashioned formulation—“How shall you be tried?”—he offered the traditional rejoinder, “By God and my country,” momentarily giving a strange impression of collegiality between them.

実際の裁判は、2023年1月23日に始まった。まず裁判の焦点は、「The explanation currently being floated by the attorney general’s office is that the thefts were in effect a string of Ponzi-like debt repayments, each covering its predecessor, originating with a series of bad land deals.」である。この中で、覚えておくべき単語は「Ponzi」が絡んだ「Ponzi scheme」だろう。出資金詐欺、いわゆるマルチ商法であり覚えておこう。

記事も後半になってきた、事件の動機を考える場合、背景(backdrop)にも目を向けないと理解できない。そういう訳でサウスカロリナ州の成り立ちも知る必要がある。サウスカロライナ州には、「a royal province」としての歴史がある。まあ、日本的に言えば地主時代だろう。1900年初頭からこの地区を牛耳っていたマードック家が「pyramidal class system」を維持して、現代の「a modern-day caste system」に執着していた結果この犯罪が生まれたのだろう。日本人には理解し難い事だけど、現代の米国には、こういう社会システムがかなりの割合で残っているという事実が露わになった。そこから、次のような言葉に繋がる。

South Carolina, he told me, “has an incredibly corrupt ruling class, and the Murdaughs were part of it.”

どう考えても、日本人が移住する所ではない。同じ米国人でも他の地域から移住するなんて考えられない場所がサウスカロリナ州だろう。

そして、この記事の最後の最後で、勉強になる言葉で締めくくられている。

As Folks said, quoting an Elizabethan witticism to illustrate the degrading effect of the graft and cronyism afflicting South Carolina, “Treason doth never prosper: what’s the reason? / Why, if it prosper, none dare call it treason.” 

英語ができる人間は、必ずと言っていいほど、格言を引用する。この文章の最後の最後に出てきた。「Elizabethan witticism」は理解できなかった(知っている人は教えて)。エリザベス女王のウイットって、どういう意味合い? ここでとり挙げられているフレーズは、ジョン・ハリントン・ガビンズ氏の言葉で、これが日本人には馴染み深い人だったので驚いた。

なんにしろ、この裁判の行方は非常に興味がある。というのも私の子供が海外(米国)に行きたがっているからだ。しかし、米国は、リベラル層が住む沿岸の人々と他の地域に大きな隔たりがあり、アジア系に対するヘイトクライムも渦巻いているので、今の米国が素晴らしい国だと全く思えない。そんな中で、The New Yorkerの記事は、米国の抱える問題を提起して考えさせている。子供が米国に行くとしても、The New Yorkerを愛読する人が多い所に送り出してやりたいと思う(じゃあニューヨークか?)。今のような不安定な時代に、The New Yorkerの英語も読めないようだったら、かなり苦労するかもしれない。成功より搾取されてしまう危険性がある。米国を夢見るのなら、The New Yorkerは必読だと思えた。

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