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事務ミスで所得税約1500万円を過大還付 ポイントとなる現存利益と善意・悪意

こんにちは、スマート法律相談の弁護士のカツベです。

 大阪府摂津市が事務的ミスで、60代の男性に対し住民税約1500万円を過大に還付していたことが関係者への取材で明らかになった。男性は「還付金は既に借金返済や株取引の損失補塡(ほてん)に充ててしまったので返還できない」と説明している。市側は返還を求めて法的手段に訴える意向を示しているが、男性の代理人弁護士は「返納請求を受けた時点で使い切っていたので、返還義務はない」と主張している。

具体的事実関係は分かりませんが、間違って振り込まれた金銭は返還しなければいけないのが大原則で、誤振込であることを認識しながらあえて使ってしまった場合には、詐欺罪等の犯罪行為となることもあります。

男性の代理人弁護士が言う「返納請求を受けた時点で使い切っていたので、返還義務はない」というのは、民法第703条、同第704条の規定に基づいています。

民法
(不当利得の返還義務)
第七百三条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う
(悪意の受益者の返還義務等)
第七百四条 悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。

これらの条文によると、

不当利得であることを知らなかった(善意)
→利益の存する限度(現存利益)で返還義務を負う
不当利得であることを知っていた(悪意)
→利得全額+利息を付して返還義務を負う

ということになります。

代理人は、善意の受益者で、現存利益はないから返還義務を負わないという主張をしていることになります。

現存利益とは

現存利益という概念はやや複雑な概念ですが、法学部1年生や一般教養で聞いたことがある人もいるかも知れません。

判例は以下のように考えています。

〇 生活費として金銭などを使った場合
→原則として、現存利益として残っている(大審院判決大正5年6月10日、大審院判決7月10日26日など)
〇 ギャンブルで浪費した場合
→現存利益はない(最高裁判決昭和50年6月27日)

逆じゃないの?と思われるかもしれませんが、生活費として使った場合は、「本来生活費として使うべきだった金銭を使わずに済んだのだから、その「使わずに済んだ分」が現存利益であるという考えに基づきます。

本件では、報道で確認する限り、借金の返済などに使ってしまったとのことなので生活費等と同様に考えるべき性質の使途かも知れません。
ただ、不当利得金を使ったことによって浮いたお金も更に使ってしまって手元に金銭がないという主張のようです。

そもそも上記の判例もかなり古いものですし、反対説もあります。

善意・悪意とは

善意・悪意というのは、道徳的な意味とは離れた「知っていたか」「知らなかったか」という問題です。

一般的に納税額より多い還付金が振り込まれたとしたら、おかしいな、と思うようにも思いますが、納税額の検討すら全く興味がなかったとか、申告の状況や誤解してもやむをえなかったような何らかの事情があるかも知れないため、何とも言えません。

裁判になった場合には上記のような点が争点になると思われます。

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