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〈乙女ゲーム・サンプルシナリオ(彼目線)〉

※乙女ゲーム・サンプルシナリオ(ヒロイン目線)の彼目線版です。

○駅のホーム(夜)

友達の結婚式で再会したヒロインは以前よりもぐっと魅力的になっていた。

(このまま帰るのが嫌で、つい付き合わせちまった。普段なら絶対そんなことしねぇのに……)

鳥居堂賢治
「いや、これは幼馴染としてだし、別にやましい気持ちなんてねぇから」

自分の行為を正当化させるように独り言を漏らしながら、自販機でペットボトルの水を購入する。

ヒロイン
「まさか駅まで、ダッシュするなんて」

ベンチで苦しそうに息を漏らすヒロインの隣へと俺は腰を下ろす。

鳥居堂賢治
「これ、飲んどけ」

ヒロイン
「ありがとう」

素直に受け取り、一生懸命に飲む姿に思わず笑みがこぼれそうになる。

(昔から小動物みたいな可愛さがあるよな……見ていて飽きねぇ)

高校時代に告白してきた女と付き合ってみたものの、いつも俺の心の中にいたのはヒロインだった。

(だけど、告って関係が壊れてしまうぐらいならって流されちまったんだよな)

ヒロイン
「私、賢治のこと……好きだったんだ」

鳥居堂賢治
「え……?」

ヒロイン
「って、言っても! 高校までの話、昔って意味だからね」

鳥居堂賢治
「今は違うってことか?」

少しがっかりしながら尋ねれば、答えたヒロインの頬が赤く染まる。

ヒロイン
「……」

(何だよ、その態度……まるで今も……)

ヒロインの反応に戸惑いながらも、次第に嬉しさのほうが勝っていく。

(なんで俺、こんなグッときてんだよ。くそっ、それもこれも……こいつが良い女になったのが悪い)

心の中で悪態をつきながらも、自分の想いを伝えようとヒロインを見つめた。

鳥居堂賢治
「俺は、お前のこと……幼馴染だと思って……いや、思うとしてた。本当は、好きだった」

ヒロイン
「……」

電車がホームに入ってくる中、ヒロインは真剣な眼差しで聞いてくれる。

そして、俺の話が終わると静かに微笑んだ。

(まさか、両思いだったなんてな。もっと一緒にいたいけど……)

高ぶる気持ちを落ち着かせ、込み上げてくる衝動を押さえつける。

(さすがにがっつき過ぎか。連絡先は交換してあるんだ、また誘って時間を作ればいい……)

鳥居堂賢治
「これ、最終なんだろ」

ヒロイン
「あ、うん……じゃあね」

(あ?なんで、そんな寂しそうなんだよ?)

拒絶するような態度で電車に乗り込むヒロインの後ろ姿に心がざわつき……

気付けば、俺は彼女の腕を掴んで引き寄せていた。

ヒロイン
「ちょ、ちょっと、これ乗らないと帰れないし」

鳥居堂賢治
「帰るなよ」

ヒロイン
「え……」

驚きつつも、どこか嬉しさを滲ませる表情に俺の胸がドキリと跳ねた。

(そんな可愛い反応すんなよ、期待しちまうじゃねーか)

ヒロインは伺うように、俺をじっと見つめてくる。

(くそっ……こういう時、なんて言ったら……)

掴んだ彼女の腕から伝わってくる熱に、先ほどまでの余裕がなくなっていく。

(もう、どうなっても知らねぇ!)

腹をくくった俺は、ヒロインの手を取って歩き出す。

鳥居堂賢治
「今日はとことん付き合うってことでいいよな」

ヒロイン
「いいけど、その……」

鳥居堂賢治
「ん?」

ヒロイン
「て、手が……」

鳥居堂賢治
「ガキの頃は良くこうしてたろ」

ヒロイン
「それ小学校の話だし、今は大人なんですけど」

鳥居堂賢治
「大人だって、恋人同士なら手を繋ぐだろ?」

ヒロイン
「え……」

鳥居堂賢治
「ま、無理することねーけどな」

ヒロイン
「……大丈夫。無理なんかしてないから」

(嘘つけ。ギリギリじゃねーか)

真っ赤になって手を握り返すヒロインに、くすぐったい気持ちで胸がいっぱいになる。

(ずいぶんと長い初恋だったけど、やっと始まるんだな)

今はただ、この手を離したくないと思いながら、俺は大きく一歩を踏み出すのだった。

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