海婚の町
診断メーカー「町に辿り着いたー」より
(2019/04/24 診断結果より)
魔術師であるやすたみは比較的新しい町に辿り着く。そこは港町で、堅牢な壁に囲まれている。君はその町の出身だ。君はそこで過去と向き合う。
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この町が新しいのには理由がある。
ここはもともと、人魚族の所領だったのだ。
ほんの数十年しか経っていないというのに、人も建物も、記憶にあるものと何一つ重ならない……
ただ壁だけが、懐かしくそこにある。
私は約束を果たすために、正門から塔を挟んで真逆、西の壁端へと向かった。
*
西の壁。
ぐちゃりといびつに捻じ曲がり、陽の当たらない暗いところ。そこに、小さな祭壇が彫り込まれている。
花はなく、苔むしたそこに、深く手を伸ばす。重いなにかが外れる音。
この町の住人は、ちゃんと考えたことがあるのだろうか?
なぜこの地が、熱乾期にも涼しく、こうも過ごしやすいのか……
*
足元からせり上がってくる水に身を浸しながら、ぼんやりと考える。
そう、壁の中には、海水が詰まっていた。
*
約束を思い出す。最初に私を食べたニンゲン。完全に姿が変わったら、共に海で過ごそうと。
壁の中を泳ぎながら進む。
約束は果たされなかった。
ヒトに放たれた火を消すために、あのときも私はここまできた。
しかし、私は壁を解放できなかった。
*
眼下に町を見る。
懐かしい景色、知らない町。
今度こそ――
*
水はすべてを押し流す。
建物も人も皆、海へ還す。
町に蔓延していた奇病は、なんのことはない、我らを食べた彼らの肉体が、海に帰りたがっていただけだ。
いまこそ約束を果たそう。
海で暮らそう。みんなで。
……私は、高い壁から身を投げた。
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グラジラン海岸、別名【海婚の町】。
いまは塔だけが残っている。
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