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ロワイヨモンでの受講生による演奏会を聴いて

先日の記事に書いたフランスのロワイヨモンでの「新しい声」音楽講習会では、友人のお手伝いとして滞在していた私は、スケジュール的に当初全く演奏会を聴くことができないプランでした。しかし、友人が何とかスケジュール調整をしてくださり、演奏部門の成果発表演奏会を3分の2ほど聴くことができました。ロワイヨモンでは割と目紛しい日々を送っていたので、演奏会を聴くことができたのは望外の癒しでした。

演奏会はロワイヨモン修道院の図書室を会場として行われました。雰囲気たっぷりで、現代の新しい音楽を聴くには塩梅の良い演出になっています。今年の演奏部門の受講生は、1988年から1999年生まれの若い演奏家たちで、フルート、クラリネット、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、打楽器、ピアノがそれぞれ一人ずつです。スペインやスイス在住の演奏家も無事に参加できたことは本当に良かったと思います。私も滞在中2度のウィルステストを受けましたが(無事、陰性でした)、受講生の皆さんもそれぞれに対策をして何とか参加に漕ぎ着けたのだと思います。困難な状況でも一つ一つ出来ることをして、前に進んで行くことが大切です。若い演奏家が新しい音楽に取り組み、新しい音楽のシーンを作っていこうという姿勢に感動しました。

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曲目は、作曲部門の講師であるフランチェスコ・フィリデイ(Francesco Filidei, b.1973)とドミトリ・コリャンツキ(Dmitri Kourliandski, b.1976)の作品を含む全10曲です。他にツェンダー、プリッチャード、クラウス・フーバー、ポサダス、ブッソッティ、ヴァン・エックの作品が演奏されました。私はプリッチャード、フーバーおよびポサダスの作品以外を聴くことが出来ました。各奏者がじっくり学んで準備してきた独奏曲をそれぞれ発表しました。また、コリャンツキの作品は3つの短いバガテルで、全員参加のアンサンブルでした。コロナ対策のため、大きな編成での長いリハーサルは出来ません。そんな訳で全員でのアンサンブル作品に変更があったそうです。コリャンツキは繊細なノイズのニュアンスの機微が美しい作曲家ですが、これらのバガテルは、大部分が即興によるものだそうです。それぞれの奏者がお互いをよく聴き合って、繊細な響きを保ちつつ、時に主張する音の身振りを聴かせていました。参加した演奏家たちの基礎力の高さが伺える作品でした。

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とりわけ強く印象に残った演奏は、打楽器のコレンタン・マリリエ(Corentin Marillier)さんの演奏したカティ・ヴァン・エック(Cathy van Eck, b.1979)の『歌 第3番』(Song no3)です。ヴァン・エックは主に自作のセンサー楽器のために作曲しています。演奏家を介さないインスタレーションにも面白い作品が多い作曲家です。奏者はセンサーを組み込まれたシュールな銀色のマスク(というか板)を装着し、マイクを顔面に近づけて響きを操作します。いわゆる楽器を演奏する動作とは違って、センサーが動きを感知すれば動くだけでどんどん音が生成されていきますから、演奏全体がある種の舞のような趣を持っています。マリリエさんはスラリと長い手足を優美にそして自然に動かしながら、異様な歌を歌い上げました。ヴァン・エックの作品の力も大変強いものですが、楽器の演奏中はいつもはそれほど意識しないであろう細部にまで身体の動きをチェックしてきたのが分かるような、素晴らしい熱演でした。終演後も、この作品と演奏のことを話していた人が多かったように見受けられました。

演奏会自体は、ほぼ非公開のように開催されました。講習会の関係者だけが聴くことが出来たのです。ウィルスの脅威の中、苦肉の策での開催だったと思います。講習会の関係者だけでも、演奏部門の講師であるアンサンブル・ムジークファブリークの皆さんや、運営の方々、作曲の受講生で、図書室はほぼ満席です。本当はもっとたくさんの方に聴いてほしかったはず。若い彼らの音楽に対する献身と熱意が、近い将来もっと多くのお客様の耳に届きますように。素晴らしいものを聴かせていただき、ありがとうございました。

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