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青山泰の裁判リポート 第15回 “客引き行為”って、犯罪なの? 常習だと実刑判決も!

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男性A(42歳)は新宿歌舞伎町の路上で通行人に声をかけ、明確に拒否したのに、つきまとって執拗(しつよう)に客引きをして現行犯逮捕された。
Aが声をかけた相手は、取り締まりのために巡回していた私服の警察官だった。

違反したのは、東京都迷惑防止条例(公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例)で、禁止されている“客引き行為”だ。
客引き行為とは、「特定の相手に対して、公共の場所で、立ちふさがったり、つきまとったりして、お店に来るように誘う行為」。

過去に2回の罰金刑、
3度目は刑事裁判に。


風営法で規制されている接待を伴う飲食店への客引きだけでなく、居酒屋や飲食店などのお店の客引きについても適用されることがある。
ただ不特定多数の人に「らっしゃい、らっしゃい」などと言う“呼び込み行為”や、クーポン、チラシ、ティッシュ配りなどは、客引き行為には当たらない。

刑罰は50万円以下の罰金または拘留(1日以上30日未満の拘束)もしくは科料(千円以上1万円未満の支払い)に処される。常習の場合は懲役刑のケースもあり得る。

Aは、友人と飲食店を開く計画があり、100万円ほど稼ごうと思っていた。資金を作るために、客引きをして月30万円の収入があった、という。
8年前に30万円の罰金刑、5年前に50万円の罰金刑。今回は3回目なので、常習犯として起訴され刑事裁判となり、法廷に立った。

法廷でAは「もうしません」と宣言した。しかし、罰金刑を2度受けているのだ。
検察官が追及する。
――前の2回と何が違うんですか?
「(42歳という)年齢です」
――年齢と関係なく、反省して再出発しなくちゃいけないんじゃないですか?
「……」

 

「今も悪いことをした
とは、思っていません」


やはり客引き行為で逮捕された中年男性Bは、白黒柄のトレーナーに年季の入ったジーンズ姿。生活保護を受けているが、客引き行為をして得たお金を、養育費として妻と幼い子どもに送っている。
妻からは「客引き行為で稼いだ金はもらいたくない」と言われた、という。
Bはこれまでに30万円、50万円の2度の罰金刑を受けていた。
今回は公判請求されて、刑事裁判が行われている。

検察官が質問さする。
――前回の罰金刑の時に、もう2度としないと誓いましたよね?
「(小さい声で)はい」
――客引きの仕事関係者の連絡先は削除しましたか?
「……」
――もう客引き行為は二度としないと誓えますか?
「そんなに悪いことをしたとは、今でも思っていない。
……ぼったくりはしてないし」

その後も何かつぶやいていたが、よく聞き取れない
なぜ“客引き行為”が悪いのか、納得できていなく、反省の言葉もない。
女性検察官は持て余し気味で、対応に苦慮している様子だった。

「あなたの言いたいことは
分かるが、ルール違反です」


裁判官はBに諭すように話す。
「あなたの言いたいこともわかりますが、条例によって客引き行為は取り締まられています。ルール違反なんです」

不満を隠さないBの態度に、ぶっちゃけ口調に変わった裁判官は、
一生懸命仕事して、客引きしたら、相手が警察官だったって。
腹立つのもわかる。
ただ決まりだもの、しゃーない。
一線を越えた客引きはいけないことだから。
街の浄化に必要なことだから」

「刑務所に行く
覚悟はあるの?」



――法廷に来たのは初めて?
「はい」
――刑務所に行く覚悟はあるの?
「いや、それは」
刑務所の話が出たとたんにBは緊張した様子に……。

――ドキドキしなくてもいいんだけど。
確かに生活は大変だと思うんですけど、法律に触れることをすると。
あなたの場合は罰金、罰金ときてるから。
家族に正々堂々とお金を渡せるようになるように。
生活保護費から養育費を支払うという問題はありますが……。

被告人は2か月勾留されて、
正月も拘置所で過ごした……。


裁判官は話を続ける。
――11月から勾留されて、2か月強。正月も拘置所で。
「……」
――どうなるか心配?
Aは無言でうなずく。
――もうしませんから、勘弁してください、ということですか?
「はい」
裁判官の毅然とした発言からは、「もう二度と裁判を受けることがないようにしてほしい」という、強い思いが伝わってきた。

検察官は論告求刑した。
――16mにわたり、警察官に客引き。被告人には前科がある。池袋で週3回、一日6時間客引きをしていた。監督者もいなく、再犯の可能性も高い。
求刑は懲役6か月

弁護士は、「被告人は若い妻に生活費を送っている。今後は調理師免許を生かした仕事をつく、と約束。今回に限り、執行猶予付きの判決を」

判決は、懲役6か月執行猶予3年。
裁判官は執行猶予について丁寧に説明した後。「これから釈放します」と。
被告人は、心底ほっとした様子だった。
実刑になると、これから刑務所生活が続くのだから。

 
 

他の警察官が客引きの
様子を撮影していた。



 
 
男性C(28歳)は七三分けで、紺スーツに白シャツ、紺のネクタイ姿。
新橋駅近くの路上で、「キャバクラどうですか?」と、客引きをしていた。
警視庁生活課2名の警察官が徒歩で視察中、勧誘された。
警察官は「いやいや」「ないない」と断ったが、両名の間に入りながら、9.3mに渡って客引き行為を。
他の警察官が客引きの様子を撮影、やり取りの音声を文字起こしした原稿を証拠として提出した。
5年前から客引きをはじめ、勤務先以外のキャバクラを紹介していた、という。
やはり罰金の前科が2件あった。

キャバクラ勤務の給与は約30万円。1日1~2時間客引きをして、客が払った金額の10~20%の報酬を受け取っていた。
その日は20組に声をかけたが成功はゼロ。もう少し粘れば、と考えていたという。

 

婚約者は「二度と
客引きはしないでね」と。


Cと同居している婚約者が証言台に立った。
瞳が大きく濃いアイラインが印象的なスリムな女性は、金髪の長髪をグレーのシュシュで束ねて、両耳の後ろにプチタトゥーが。

「(被告人は)とてもやさしい人。(逮捕に)驚きました」
以前、客引きで捕まったことは知っていた、という。
「インターネットで客引きの記事を見て『これから結婚するので、二度としないでね。夜の仕事ではなく、昼の仕事をしてほしい』とお願いしました」

現在、Ⅽは茨城県の実家に住み、建設会社の事務をしている。
証人とは別居しているが、結婚したら同居する予定、だという

弁護人はⅭに質問する。
――前回、検事の前で「二度としません」と約束しましたね。
「はい。3か月間茨城県に住んでました。
店長から新しい店を出すから一緒に働かないか、と言われて上京しました。
店長から『客引きしちゃだめだよ』と言われていた。(勤めている店ではなく)客のニーズに合った店を紹介していた」と。

客引きの犯行動機は
「結婚資金を貯めたかった」


――犯行動機は?
「結婚費用を貯めたかった。
通行人に声をかけて反応があれば、後ろからついていき勧誘していた。
婚約者に悲しい思いをさせてしまった」
――二度としないと誓えますか?
「はい」

裁判官も続けて質問する。
――前回、次は罰金では済まなくなると聞いていたんですよね?
「はい。僕の考えが甘かったです。そこで懲りなきゃいけなかったのに。
お金を貯めなきゃって。後がないと言われたのに……」

検察官が意見を述べた。
「職業的犯行で常習性が高い。2年で3回目。金銭的理由で行った安易な犯行」
求刑は懲役6か月。

弁護士は「通行人の進行を妨げたり、腕や手を掴むなどの悪質なものではない。犯行は勤務の合間に短時間。結婚を機に、これまでの生活を変えると誓っていると」と。

判決は懲役6か月、執行猶予3年。
「新橋駅近くの路上で『60分3000円コミコミ。30分だけでも』と不特定の通行人に声をかけた。常習性がある。ただ今回に限り、社会内で更生する機会を与える」

声をかけた人だけでなく
周囲の人にも迷惑をかけた。


傍聴した6件は簡易裁判所での罰金前科が2回あり、3回目の犯行で起訴されて刑事裁判になったケースだ。
すべての判決に執行猶予が付いた。

被告人たちは、これまで通行人に何度も声をかけて客引きをしていた常習犯。
声をかけた人だけでなく、周囲の人たちにも迷惑をかけていたのだろうと推測される。

街の浄化や治安のためにも、取り締まりは必要だろう。
しかし今回起訴された事件に限れば、被害を受けて訴えたのは、一般人ではなく警察官だ。
被告人たちに不満が残る気持ちは分からなくもない。

裁判官は、中年男性Dに懲役6か月執行猶予2年の判決を言い渡した。
飲酒とパチンコでお金に困って客引きを始めて、3度目の逮捕だった。
「今後は絶対にしないようにしてください。特に同種の犯罪を行うと、間違いなく刑務所に行くことになります」と。

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