ナイキのWeb3&NFTの活用事例の解説
今回のWeb3事例紹介では、これもまた有名な例ですがナイキのWeb3活用施策について紹介していきます。
ナイキは日本人の誰もが知るスポーツ用品メーカーで、アメリカ合衆国オレゴン州に本社を置く多国籍企業です。また、世界最大級のアスレチックシューズのサプライヤーであることでも知られており、スポーツファッションブランドとしても知られています。特にファッションブランドとしては、スニーカーで有名ですね。
ナイキは世界のスポーツ用品メーカーの売上ランキングで数年間売り上げ一位を獲得しており、2022年度の売り上げは467億ドル(6兆3976億円)を記録しています。
ナイキは以前からメタバースやデジタルアイテム市場で積極的に活動しており、2021年11月にはメタバースゲーム「Roblox」内で米国オレゴン州にあるナイキ本社を模したワールド「NIKELAND」の公開を行ったり、2023年6月には「Fortnite」とコラボし独自のマップ「Airphoria」を作成していたりします。特にFortniteとのコラボは大きなもので、ユーザーはゲーム内で永久に使用できるアイテムを獲得することができました。
その流れでナイキもWeb3に参戦してきており、NFTのデジタルファッションブランドであるRTFKT(アーティファクト)の買収などを行ったほか、ブロックチェーンを活用したWeb3プラットフォームである.SWOOSH(ドットスウッシュ)を発表しています。
今回はこれらの2件について解説していきます。
RTFKTの買収とコラボレーション
2021年12月に、ナイキはWeb3産業への参入の第一歩としてデジタルファッションブランドであるRTFKTを買収しました。
RTFKTは、Web3技術やNFT等を通じてスニーカーを含むデジタルなファッションアイテムやそれに応じた現実席でのアイテムも作成しているほか、「CLONE X」等のブルーチップNFTプロジェクトも保有しています。
またRTFKTが出しているデジタルアイテムは、単純なコレクションとして楽しむだけでなく、メタバース空間で着用できたり、AR(拡張現実)によって現実世界で着用しているような写真を作成することもできるようになっています。
相当大きな買収だったと思うのですが、この金額は現在も公表されていません。
ナイキはこのRTFKTを買収したのち、積極的にこの2つのブランドのコラボプロジェクトを発表しています。
2022年の4月には「RTFKT x Nike Air Force 1」と題してコラボデザインのスニーカーNFTを販売しました。このNFTは期間限定でフィジカルなスニーカーと交換することができました。
また2022年12月に発表された「Cryptokicks iRL」と題されたNFTプロジェクトは、これも購入したNFTのスニーカーを現実世界のスニーカーに引き換えることができるものでしたが、そのほかにも、このスニーカーは「スマートスニーカー」になっており、自動で靴ひもを結ぶ機能や、Bluetooth、歩行検知機能やカスタマイズ可能なLEDライトなどの電子制御できる便利機能をいくつも搭載していました。
ナイキのNFT事業はRTFKTの買収の効果もあり、約1億8500万ドルという他のNFT事業へ参入した企業(ドルチェ&ガッバーナ、ティファニー、グッチなどのファッションブランド)に比べ圧倒的に大きな売上を生みだしています。
この売上は買収したCLONE Xによるものが半分以上と言われています。
.SWOOSH
.SWOOSH(ドットスウッシュ)は、ナイキが開発・運営するWeb3プラットフォームです。
Web3プラットフォームというとピンときませんが、現状を簡単に表現すれば、ナイキに関連するデジタルアパレルやそれに関連したNFTを販売、提供するためのマーケットプレイスといった感じです。ナイキはこれをナイキ独自のファンコミュニティとロイヤリティの強化のために運用しています。
名前に入っている「スウッシュ」というのは、オリジナルのナイキのロゴの形状の名前です。それの前にデジタルな要素として.(ドット)を付けたものを、.SWOOSHのロゴとして、またサービスの名称として用いているようです。
自社のロゴの名称をサービス名に使用するという、気合の入りようが伺えますね。
.SWOOSHは2022年11月18日から登録が開始されており、現在はベータ版が進行しています。アメリカやスペイン、イギリスなどからはアクセスできますが、日本を含むいくつかの国からはアクセスできません、残念ですね。
NFTの管理を担うウォレットアプリはBitGoウォレットというものを使用しており、NFTを発行するブロックチェーンにはPolygonチェーンを使用しています。
スターバックスもそうでしたが、やはりPolygonを使用している企業事例は多いですね。他の主要なチェーンと比べても、Polygonは既存企業への営業が強いとよく言われてたりします。
ナイキは、.SWOOSHのブログ記事にて、「.SWOOSHは、お気に入りのバーチャルシューズやジャージ、アクセサリーを集める場所としてスタートします。」と説明しており、物理的なものではなくバーチャルなアイテムを専門的に扱うプラットフォームであることを最初に明言しています。実際に提供されたアイテムからも、フィジカルではなくデジタルなモノをメインに取り扱うプラットフォームとなっています。しかしすべてがデジタルなアイテムというわけではなく、.SWOOSHを通じて提供されたものの中には実際のスニーカーなども存在します。
ナイキはこの.SWOOSHプロジェクトを通して大きく「コミュニティの創造」に力を入れているようで、.SWOOSHに関する施策もそのほぼすべてがコミュニティのメンバーを巻き込むようなものになっています。
オンボーディングへの注力
.SWOOSHプロジェクトにおいてまず着目すべき点の一つは、プロジェクトが開始されてから行ったユーザーの.SWOOSHへのオンボーディングのための施策です。
ナイキは既存のユーザーのオンボーディングのために世界各地の拠点で定期的なセミナーやオンボーディングイベントを行っています。デジタルなコミュニティへの誘導を、デジタルな媒体のみではなくイベントや現実世界での情報交換を通じて行うことで、ユーザーの心理的負担を減らし、参加へのハードルを下げることが可能です。このセミナーは.SWOOSH Sessionと呼ばれており、ジョージア州アトランタ、カリフォルニア州ロサンゼルス、ニューヨーク州ブロンクス、ノースカロライナ州シャーロットなどで開催されました。
VOGUE JAPANでのインタビュー記事で、このプロジェクトの責任者であるロン・ファリスは、「私たちはすぐに販売はしません。最初に私たちは“教育”に力を注ぐ予定です」と語っており、通常のユーザーのWeb3へのオンボーディングの難しさをしっかりと認識している様子が見受けられますね。
最初のプロジェクト「Our Force 1」
.SWOOSHで最初に発表されたプロジェクトである「Our Force 1」は、.SWOOSHが発表されてからすぐ、2022年11月29日に開始されました。
このプロジェクトの進行方法は少し興味深いものであったので、少し時系列を追って詳細に書いていきます。
最初は、過去のナイキのシューズを大きく4つのセクターに分け、それらに対してユーザーによる投票を行う、ということだけが知らされていました。この投票は.SWOOSHのプラットフォームのほかにもInstagram等を通じて行われました。結論から言えば、これはのちに説明する「ポスターNFT」に含まれるスニーカーのデザインを決めるための投票でした。しかしこの時点では、どのようなデザインのデジタルアイテムが販売されるのか、そもそもこの投票の目的は何かが全くユーザー側にも知らされていなかったという、秘密に満ちたキャンペーンになっていました。
これはユーザーに.SWOOSHへの興味をもってもらい、ユーザー間でのこのプロジェクトに対する考察や意見の交換を促すようなプロモーション方法になっていたと考察することができますね。
その次に、「Your Force 1」という別のキャンペーンが始まりました。このキャンペーンの参加者はInstagram上で指定のフォーマットに則った投稿をし、その中からナイキが受賞者を選び、選ばられた受賞者はナイキのデザイナーと対等な立場で次の「Our Force 1」のデザインの作成に参加できるという、とてつもない優勝賞品が付属していました。
受賞者は.SWOOSHコミュニティから4人選ばれ、それぞれ一種類づつの4種類のデザインがコンセプトが完成しました。
2023年の4月に初めて「Our Force 1」の詳細が発表され、ナイキ初のNFTの販売の方法が初めて明らかにされました。それは.SWOOSH参加者向けにNFTのポスターをエアドロップ(無料でトークンを配布すること)し、そのポスターを持っている人にだけ「Our Force 1」の先行販売への参加権が与えられるというものでした。
このポスターNFTは無料でもらえるのですが、合計数が.SWOOSH参加者の3分の1の個数しか存在せず、それに伴い受け取れるかどうかは抽選で決めるということになりました。
なお、全てが抽選ではなく、.SWOOSH Sessionに参加した人や、一部のキャンペーンに参加していたユーザーには優先的にこのポスターNFTがエアドロップされるようになっており、ユーザーのキャンペーンへの参加の動機付けにつながるようになっています。
そしてポスター所有者向けの先行販売の後に、.SWOOSHの参加者全員がアクセスできる一般販売が行われました。
「Our Force 1」は「OF1 Box」と名付けられた、2種類のボックス「ニューウェーブ・ボックス」と「クラシック・リミックス・ボックス」というNFTとして販売されました。前者は2007年以降のスニーカーのデザインにインスパイアされたもの、後者は2006年以前のスニーカーのデザインにインスパイアされたもので、実際のスニーカーのデザインはジェネラティブNFTと同様にミント時に生成されるようになっています。
OF1は既存のNFTプロジェクトにもよく見られるNFTの販売方式であるリビール方式を採用しており、購入したボックスを開封してデザインを確認するか否かは購入者に委ねられています。一度ボックスから出してしまうと元の箱の状態に戻すことはできません。
ちなみにリビールされたスニーカーのNFTは詳細なモデルを3Dファイルでダウンロードすることが可能で、ユーザーは個人使用の範疇で自身の所有するスニーカーのモデルを使用することができます。
発売時時期に延期や技術的トラブルなどの問題も何度か発生しましたが、結果としてこのOF1の売り上げは100万ドルを超えたようです。
「Our Force 1」プロジェクトの次には、現在「TINAJ」というスニーカーやTシャツを含む一連のプロジェクトが進行中です。これは現実のスニーカーであったり、Tシャツなどの別のアパレルとも関係しており、Our Force 1とは全く違ったプロジェクトになりそうです。
ちなみに.SWOOSHは、今後数カ月のうちに「.SWOOSHマーケットプレイス」を開始するという告知を出しているのですが、これが開始されればOF1 Boxやリビールされたスニーカーの取引が公式のマーケットプレイスや.SWOOSHのプラットフォームから行うことができるかもしれませんね。
2024年はクリプトにとってのブル相場が返ってくると大きく期待されており、2023年には静かだったNFT関連プロジェクトがまた息を吹き返して活動してくれることを期待しています。
さいごに
私が代表を務めるクリプトリエでは、企業によるNFTのビジネス活用を簡単かつ迅速に実現する、NFTマーケティング・プラットフォーム「MintMonster」を提供しているほか、法人向けにweb3領域のコンサルティングや受託開発サービスを提供しています。Web3 / NFTのビジネス活用にご興味ある企業様はお気軽にお問い合わせください。
NFTマーケティング・プラットフォーム「MintMonster」公式サイト
https://mint-monster.io/
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