本来のDAOと、現状の乖離
「DAO」とはなんでしょうか?
私のweb3基礎情報マガジンでは、最初に「web3」、次に「NFT」を取り扱いましたが、今回の主役は「DAO」です。
「DAO」は、web3関連の新単語の中ではなんとなくまだわかりやすい単語だと捉えられがちです。「web3」や「NFT」とは違い、組織構造に関する単語なので、前提知識が少なくても雰囲気である程度意味がわかります。
しかし、とはいえこの単語はweb3の世界から生まれた単語であり、その要素にもブロックチェーンは必要不可欠なのです。
DAOは一般的に、中央集権的な管理者が存在しない自律的に分散した組織、と表現されることが多いですが、これは「かなり分かりやすくした説明」です。確かに間違ってはないのですが、説明しきれていない重要な要素が多く存在します。
また、DAOという単語もこれまで扱ってきた単語と同様に、完全には定義されていない単語のうちの1つです。
これはweb3の世界ではよくある話なのですが、しっかりと定義されていない状態で単語のみが先行して流行してしまった結果、web3のコアな貢献者(実際にイーサリアムを開発している人など)と、日本国内の企業内などの間で認識にかなりの差異が生じていたりします。
そういった認識の齟齬を含めて、今回の記事では「どのような歴史を持つのか」、「DAOであるためには何が必要なのか」、「どのようなDAOが実際に存在するのか」、そして「現状の問題は何か」という点に着目して説明を行います。
DAOの歴史
まず、DAOとは何か、どのように始まり、どのような発展をし、現状どのようなDAOが存在するのか、という基礎的な部分について説明していきます。
DAOはどう始まったのか?
DAOという単語は、イーサリアム財団によって2014年に初めて体系的に説明されました。
イーサリアムの初期の方に、DAOの説明とその分類について書かれたあるブログ記事が投稿されました。
実際に少し読んでみるとわかるのですが、現状の説明とはかなり違う説明がなされています。
まずこの記事には、DAOに似た存在としてDOとDACという単語が登場します。
DOはDecentralized Organization(分散型組織)、DACはDecentralized Autonomous Company(分散型自律企業)を示し、それぞれ説明されているのですが、この2つは現状ほぼ使われていません。
これらは確かに違うものとして提唱されていましたが、時代が進むにつれてDAOに意味が吸収されてしまったり、語られなくなって消失してしまいました。
そしてこの記事内で語られているDAOも、現在一般的に知られているDAOという単語が示すものとは少し違います。
後々に細かく説明しますが、ガバナンス(組織内の統治方法)であったり、スマートコントラクトとDAOの関連性についても触れられていませんでした。
これは、まだDAOそのものが構想初期段階であり、実際にはまだ存在していなかったからだと考えられます。
現状のDAOとその性質
2015年7月にイーサリアムブロックチェーンが実際に稼働し始めてから、実際にDAOを作成し運用する人々が現れ、さまざまなDAOが誕生した結果、現在のイーサリアム財団のブログではDAOは以下のように説明されています。
「分散型自律組織(DAO)とは、共通の目的のために集団が共同で所有し、ブロックチェーンで管理された組織です。」
共通の目的とは、その組織、DAOにおける目標のことです。
集団が共同で所有する組織とは、後述のガバナンストークンというものによって組織の所有権が分散、共同管理されている様子を指します。
ブロックチェーンで管理されるというのは、ブロックチェーン上のスマートコントラクトを使用して運営されている、という意味です。
一般的にDAOは、以下のような性質を持ちます。これらは定義でもルールでもないのですが、これらの性質を持っていないのであればDAOとは呼べない場合があります。
スマートコントラクトによる絶対性と透明性
基本的なDAOでは、以下の事柄は全てスマートコントラクトを使用して行われています:
組織の意思決定
組織の資産の保管、移動、出し入れ
組織の提供するサービスそのもの
そして、全てのスマートコントラクトは全てオープンソースとして内容が公開されています。
スマートコントラクトによる操作はある意味で絶対的で、コードそのものに脆弱性がない限りは不正の余地がありません。
またその動きはブロックチェーン上に記録されるので、意思決定の投票結果がどうだったのか、 資産をいつ誰がどう移動したのか、 どのようなサービスを持っていて、それはどのような仕組みか、 といった情報も全て公開されます。
つまり透明性がある、と言えるでしょう。
プロセスとアクティビティの透明性
DAOではまた、スマートコントラクトで定義されていない部分にも透明性があります。
基本的に、DAOのメンバー間の交流にはDiscordやDiscourseといったオンラインチャット/掲示板アプリが使用されています。
これらの内容は基本的に全て常に公開され、誰でも参加できるようになっています。
従来の組織では、資金管理含む全てのアクティビティは基本的に内部で秘匿され、公ではありませんでしたが、DAOでは全て公開されており、透明性があると言えます。
民主化された意思決定
従来の組織は階層的と表現できますが、トークンによる投票で意思決定を行うという理由から、DAOは基本的にフラットな形で民主化されていると言えます。
トークンによる投票、という点についてもう少し深掘りしましょう。
DAO内での意思決定を、「ガバナンス」と呼びます。重要な単語なので覚えておきましょう。
DAOは通常「ガバナンストークン」という投票に使用する専用のトークンを発行します。このトークンはいわゆる従来の組織における株式にあたり、多くの場合、提案に対しトークン1枚で1票として扱われます。
しかし株式と違うところは、ガバナンストークンは常に誰でも買うことができるという点です。DEX(分散型取引所)や、有名なガバナンストークンであれば通常のCEX(中央集権型取引所)にも上場しています。
世界中の誰でもがこの意思決定の投票に参加でき、これを止めたりするシステムも基本的に存在しません。なので、DAOは民主化されていると表現されています。
なぜDAOが必要なのか?
またイーサリアム財団の説明には、DAOの存在価値として、このような説明がありました。
「インターネット上で他人を信用して組織を作成するのは難しいが、DAOであれば他人を信用する必要がない。そのコードが正しく動くかの検証さえ行えば、そのDAOの参加者を信用しなくても仕組みがきちんと動くことがわかるので問題ないからである。」
インターネット上だけで、匿名で完結できる組織運営は、今まで存在していませんでしたが、DAOはそのようなことを可能にした1つの手段だと言えます。
最初のDAO、The DAOとその事件
「The DAO」は2016年に発足した、イーサリアムにおける最初期のDAOです。DAOのメンバーでお金を出し合い、新たなブロックチェーン上のプロジェクトに投資を行う「Investment DAO」にあたるDAOでした。
The DAOが発足して以来、このDAOは大きな資金と参加者を集め、最終的に160億円を超える資金がDAO内に保持されていました。
しかし、その後ハッカーによる攻撃を受け、160億円分の資金が全て流出してしまいました。この事件によりThe DAOは解散してしまいました。
ハッカーはThe DAOのスマートコントラクト内の脆弱性を発見し、それを攻撃して資金を盗むことに成功したということです。
当時この160億円というのはイーサリアムに対して打撃が大きすぎるということが議論され、最終的にイーサリアムは「イーサリアムの記録をハッキングされる前に巻き戻す」という施策を行いました。
これによってハッキング事件を無かったことにはできました。しかし「そもそもブロックチェーンを巻き戻してしまうなんてとんでもない、起こったことは受け入れるべきでブロックチェーンの記録そのものをいじってはいけない」と考える人々も当然存在しました。
結果としてこれらの人々は「巻き戻す」選択をしたイーサリアムではなく、本来のハッキングされたイーサリアムのデータを使用し続けることを選択し、これは「イーサリアムクラシック」という別通貨、別ブロックチェーンになり、現在も存続しています。
このようにブロックチェーンが2つに分かれてしまうことをハードフォークと呼びます。
イーサリアム上の1つのアプリケーションであったThe DAOが、イーサリアムそのもののハードフォークと言う重大な決断を引き起こさせたというこの事件は、界隈そのものにも大きく影響を与え、2016年のこの事件以来2019年あたりにまた流行り始めるまでDAOは息を潜めることになります。
DAOの種類
先ほどのThe DAOは投資を行うInvestment DAOでしたが、これ以外にもさまざまな目標をもつDAOが存在します。
大きく区分けをすると以下のものに分類できます。
Investment DAO インベストメントDAO
Investment DAOは投資を行うDAOです。先ほどのThe DAO以外では、Flamingo DAOやSeed Clubなどが存在します。
Collector DAO コレクターDAO
Collector DAOは価値が高く、個人で所有しづらいNFTやデジタル資産を、みんなでお金を出し合って所有しようと言う目的を持つDAOです。
Flamingo DAOも投資関連と同時にこれを行なっているほか、有名なところではPleasrDAOというDAOが存在します。
PleasrDAOは、「Doge」としてネットミームとなり、ドージコインなどに使用されている画像の元ネタである「かぼすちゃん」と言う日本の芝犬のNFTを4.6億円で落札したりしています。
Protocol DAO プロトコルDAO
Protocol DAOは、何らかのサービスを提供するDappsを運営するためのDAOです。
分類によっては、Service DAO、Project DAOなどと呼ばれより細かく分類されていく場合もあり、最も実在例が多いDAOでしょう。
DAOとDappsをうまく両立できているようなProtocol DAOには、心なしかDeFi(分散型金融)に関するサービスが多いです。
説明が長くなるのでどのようなサービスかは割愛しますが「Aave」や「Compound」、「Curve」などは、自分たちのサービスを運営するために、フォーラムとオンチェーンでの投票機能を有し、ガバナンスはトークンを介して行われています。
他にも、NFTプロジェクトに関するDAOでは「NounsDAO」が活発で、理想的なDAOに近い形態を有しています。
それ以外にも、スマートコントラクトのコード監査を行うDAOである「Code4rena」など、Protocol DAOは多岐にわたります。
Social DAO ソーシャルDAO
Social DAOは会社やサービスの運営というよりも、コミュニティの運営に焦点を当てて活動しているDAOを指します。
例えばFWB(Friends with Benefits)というSocial DAOでは、有名クリエイターやアーティスト、大企業の取締役などのハイグレードな人脈を有するコミュニティであり、専用のトークンを一定数以上保持していることが参加条件となっています。
このようなクローズドなコミュニティを運営する手段としてもDAOは使用されています。
Media DAO メディアDAO
Media DAOはProtocol DAOのより細かい区分けの1つで、メディア事業を行うDAOのことを指します。
有名どころはBanklessで、web3の情報をPodcast、Youtube、メールマガジンとマルチに展開された媒体で発信しているのですが、それらの全てはDAOによって管理されています。
上にあげたものは完全なジャンル分けではなく、代表的なものを取捨選択しています。
またDAOはこれら以外にも多く存在するので、気になる方はDAOCentralという、様々なDAOの情報がまとまっているサイトがあるのでそこで探してみても良いかもしれません。
国内でのDAOの流行りについて
2021年ごろから、日本国内でもDAOに関する情報が増え、web3と共にバズワードとなりました。
DAOはNFTなどの他のweb3関連ワードとは別軸で、新しい組織構造のカタチ、として注目されました。
そのため、本来DAOが満たすべき性質であるスマートコントラクトや、トークンによるガバナンスが導入されていないのにも関わらず、DAOを名乗るコミュニティも多く登場しました。
〇〇DAOと名前をつけつつ、実際はただの参加証をNFTにして売っているだけのオンラインサロンも多く登場しています。
そういった、web3バブルの混沌の中にある国内で、分散型のガバナンス構造を含むコミュニティは現在でも数少なく、当時は殆ど存在しなかったことを覚えています。この理由のひとつには、web3的なトークンを介したオンボーディングはUX的に難しいという理由が考えられます。
しかしそれ以外にも、その「なんちゃってDAOコミュニティ」の作成者が、そもそもDAOのことを「中央集権的な管理者が存在しない自律的に分散した組織」とだけ理解した状態でDAOに手を出していたのも理由だと私は感じています。
DAOに必要不可欠な要素、あるいはDAOそのものの何が重要なのかをそもそもあまり理解できていない場合が往々にしてあります。
あるいは、理解したうえでDAOの性質を満たさぬままにDAOというワードを使用したかっただけの場合もあるかもしれません。事業者として、マーケティング的な効果を期待してそういったプロモーションを行うのは理解はできます。
ですが、誤った意味を流布してしまうリスクを考えると、こういったプロモーションの手法は今後のweb3の発展に寄与する方法であるとはあまり考えられません。
バズワードとしてマーケティングに使用される以外では、組織構造の改革としてDAOを導入する、といったケースも見られますが、これにもあまりピンときません。
DAOは、あらゆる組織構造にイノベーションを起こすような銀の弾丸ではありません。
またビジネス視点で考えると、本来のDAOはそもそもNFTよりも扱いづらいものだと考えられます。
特に、既に存在する企業がDAOを導入するという文言を見る場合があるのですが、中央集権型の組織であり既に株式を発行している企業がDAOという非中央集権かつオンチェーンの組織になれるのかというと、それは不可能と言えるほど難しいでしょう。
個人としてDAOに貢献することは問題ではなく、むしろ大きく奨励できます。しかし既に存在する企業等がDAOを始めるというのは、DAOの性質からしても認識にズレがあるように感じてしまいます。
おまけ:DAOのために働く企業
DAOは、DAO内での大きな貢献者に対し、「Grant」と呼ばれる褒賞金を与えます。通常の企業における給与のようなものと考えてください。
このGrantを収益源として、特定のDAOのサポートを行う専門家集団が存在します。
Chaos LabsやGauntletなどが該当します。
これらの企業はDeFiの仕組みに関するリスク評価や、パラメータの変更がアプリケーションにどのような経済的影響を与えるかというシミュレーションの実行などの高度な技術をDAOに提供し、その対価として得られるGrantを収益源としています。
DAOのためのコンサルのようなものとも言い換えられますね。
さいごに
私が代表を務めるクリプトリエでは、企業によるNFTのビジネス活用を簡単かつ迅速に実現する、NFTマーケティング・プラットフォーム「MintMonster」を提供しているほか、法人向けにweb3領域のコンサルティングや受託開発サービスを提供しています。Web3 / NFTのビジネス活用にご興味ある企業様はお気軽にお問い合わせください。
NFTマーケティング・プラットフォーム「MintMonster」公式サイト
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