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誰かが自分に重い弁当を持たせてくれることがある。

式辞

凛として水冴ゆる賀茂川に、早春の柔らかな光射す今日のよき日、京都府立清明高等学校第七回卒業証書授与式を挙行しましたところ、○○○○ 様をはじめ、多数の御来賓並びに保護者の皆様の御臨席を賜り、卒業生の門出を祝福していただきますことに、心から感謝申し上げ、高壇からではございますが、厚く御礼申し上げます。

ただいま卒業証書を授与しました八十五名のみなさん、御卒業おめでとうございます。今日という日を迎えられたみなさんの真摯な努力に敬意を表し、在校生、教職員一同、心から祝福を贈ります。

清明高校で過ごした年月は、みなさん一人ひとりにとってかけがえのない、また思い出深い年月であったと思います。

本校は開校から九年を経て、卒業生も増え、今、創立期から充実期への進化の時を迎えています。

その節目となる時期に、みなさんは勉学にいそしみつつ、つばめ祭での印象的な取組やパフォーマンス、全国出場や上位入賞など部活動・コンクールでの目を見張るような活躍、ねんりんサロンやふれあいまつりでの交流と社会参画、保護者や教職員と合同したワーキンググループによるルール・メイキングなど、主体性を発揮し、新しいことに挑戦し、仲間とともに苦労と感動を分かち合い、まさに清明高校が進化する時にふさわしい、立派な学生生活を送られました。

特に、新型コロナウィルス感染症による影響で、学校行事が縮小・延期される中、生徒による実行委員会を結成し、中核年次として全校生徒を牽引しつつ、地域住民や事業者をも招いて交流する、新しいつばめ祭を企画・準備、そして成功に導くなど、これまでにない清明高校の新たな礎を築き、後輩に継承するという、大きな役割を見事に果たしてくれました。

本校の歴史に新たな風を吹き込み、更なる飛躍の一歩を記してくれたと強く感じています。

振り返って見れば、決して平坦な道ばかりではなく、悩んだり、つまずいたりしたこともあったと思いますが、その一つひとつが貴重な体験として、必ずやこれからのみなさんの人生の糧となることと確信しています。

さて、世界では人工知能やウェブ3を軸とするイノベーションが急速に進み、日本においても「ソサエティ5.0」の実現が提唱されています。みなさんの目には、将来がどのように映っているでしょうか。

これまでは、素直で従順で協調性が高く、規則に従ってシステムに順応する、言わば組織の歯車としてうまく機能するリテラシーが好まれる時代でした。しかし、今、あらかじめ用意された碁盤のマス目に自分の人生をはめ込む時代がようやく終わりを告げようとしています。

短所を克服し、万事そつなくこなすことよりも、長所を伸ばし、得意分野に躊躇なく打ち込める時代が始まろうとしています。

私自身、これまでの平均的・画一的な教育から、型破りで、ユニークな出る杭を喜んで受け入れられるふところの深い教育へと進化する、そうした未来に大きな期待を寄せているところです。

みなさんには、揺るがない自己と豊かな感性、そして柔軟な発想力をもって、明るい時代を築くべく活躍されることを願っています。

静岡県登呂遺跡の発掘で名を馳せた樋口清之博士の随筆に「おやじの弁当」という逸話があります。

博士の友人で、貧乏でありながらもそれに耐え、勉学にひたむきに努める人がおり、その理由を尋ねたところ、勉学に励むようになったきっかけは「おやじの弁当」だったというエピソードです。

ある日、母がつくったおやじの弁当を、間違えて学校へ持って行ってしまった。

おやじの弁当は軽く、俺の弁当は重かった。

おやじの弁当はご飯が半分で、自分のにはいっぱい入っており、おやじの弁当のおかずは味噌がごはんの上に載せてあっただけなのに、自分のにはメザシが入っていたことを、弁当箱を間違えたことで初めて知った。

ところが、父と子の弁当の中身を一番よく知っている両親は一切黙して何も語らない。

肉体労働をしている父が子供の分量の半分でおかずのない弁当を持ってゆく。

これを知った瞬間、子を思う親の心情が分かり、胸つまり、涙あふれ、その弁当すら食べられなかった。

その涙が勉学の決意になり、涙しながら両親の期待を裏切るまいと心に誓った。

『るんびにい』241号

という話です。

目に見えることは目に見えないことの十分の一にも満たない。たとえそれが両親でなかったとしても、友人であれ、指導員であれ、教員であれ、誰かが自分に重い弁当を持たせてくれることがある。

今、ここにいるみなさんは、そのことを身に染みて実感していることと思います。

人は、人知れず人を思い、人知れず人に思われている。どうか、豊かな想像力、他者への思いやりと感謝の心を忘れず、清明高校の卒業生として自信と誇りを持ち、希望と感動に満ちた人生を歩んでください。

最後になりましたが、保護者の皆様、本日はお子さまの御卒業、誠におめでとうございます。教職員一同、この間の皆様の御支援と御協力に感謝申し上げますとともに、心よりお慶びを申し上げます。

本日をもちましてお預かりしておりましたお子様をお手元にお返しいたします。お子様がそれぞれの道において、大いに御活躍されますことを心からお祈り申し上げます。

それでは、卒業生の皆さん、自分を信じて大きく羽ばたいてください。皆さん一人ひとりの人生が自分らしく実り多いものとなりますよう心から祈念し、式辞といたします。

令和六年三月一日
京都府立清明高等学校
校長 越野 泰徳

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