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リスクと向き合うことと、美しさに近づくこと|2019年の振り返り

御嶽山と草津白根山。今年夏に、4日間でふたつの活火山を1泊2日×2連続で登ったとき、いつもに増して心が山に強く惹かれていることを感じていました。

御嶽山へ向かったのは、二ノ池上分岐から山頂までの規制が解除された直後。ヘルメットを被って黒沢口登山道を歩き、たどり着いた山頂付近には4年前の噴火の爪痕がしっかり残っていました。

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山頂(剣ヶ峰)直下の地獄谷と呼ばれる大きな噴火口は、10万年ほど前から始まった火山活動によってできたもの。4年前の噴火は、西〜南西側の斜面に新たにできた複数の火口から。噴煙を眺め緊張が解けぬまま、二の池ヒュッテで迎えた夕暮れどき、窓外を眺めているとふいに立ち込めていた霧が抜け、空は妖艶に染まり、雲海はもくもくと盛り上がってきました。

翌朝は日の出前に起き出し、9千年ほど前の噴火でできたという火口湖の三ノ池を眺められる乗越へ。ご来光は、息をのむ美しさでした。山の起伏や赤茶けた岩、登山道の砂礫から、活動を続ける山のエネルギーを察して体をこわばらせ、逃げ出したいような気持ちになっていたけれど、もっと近づきたいと魅了される美しさもまた火山が生み出したもの。

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そんなことを考えながら、車で向かった先は草津白根山。歩き出しは群馬県中之条町のチャツボミゴケ公園から。チャツボミゴケとは、強酸性の鉱泉が流れるところに育つコケのことで、みっちりと密度濃く生える様は緑のビロードの絨毯のよう。それをただきれいだねと眺めるだけで通り過ぎることができない重々しさが、立ち込める濃い硫黄の匂いにはありました。

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下山後は草津温泉へ。温泉は大きく3種類に分けることができ、火山性のもの、地下水が温められたもの、海水が地中に閉じ込められたものがあります。後述の2つは非火山性ですが、昔からある温泉のほとんどは火山性のもの。熱っ!とひいひい言いながら、歩いて使った全身をお湯にうずめる至福を味わえるのも、火山のおかげ。

樹々が育ち草花が咲き、川が流れることも、火山が噴火することも、自然現象のひとつです。きれいな景色、楽しい時間だけを切り取ろうとし、災害のニュースを鵜呑みにして背を向けていては、いつの間にか危険に巻き込まれてしまうかもしれません。目にすること、肌で感じることの成り立ちや歴史に興味をもち、潜むリスクに想像力をはたらかせてこそ、身を守りながら、山の恵みに肉薄することができるのでしょう。そして、怖さや危険を察知する本能は、自然のなかで小さなリスクと隣り合わせで過ごす体験なく育まれることはないでしょう。自戒をこめつつ、そんなことを思いました。

火山の基礎知識

締めくくりに、噴火から身を守るためにできることをまとめます。

①登る山が活火山かどうか、気象庁のHPの一覧で調べる
日本全国には活火山がおよそ100もあります。

②活火山なら、警戒レベルをチェック
レベル1なら登山者への対応は特にありません。レベル2以上になると、地元の都道府県や市町村が、火口付近の立ち入り規制などを段階を踏んで判断します。しかしレベル1で噴火した御嶽山の例もあります。過去にどこでどの規模のの噴火があり、被害がどの程度あったかもチェックしておきます。

③エスケープルートを確認する
万が一、噴火が起こった場合には、出来るだけ早く発生した場所から離れることが大切です。その場合、どんな下山ルートがあるのか、地図で確認します。噴石や火山礫から身を守れる避難場所があるかどうか(山小屋、東屋、大きな岩など)も、見ておきます。

④ヘルメットを持参する
少し荷物は重くなりますが(300~400g程度)、頭部を噴石や火山礫から守ることで、生存確率を上げられます。御嶽山での死因のほとんどは多発外傷によるものでした。北アルプスをはじめとする滑落や転落事故の多いエリアが着用奨励山域に指定されたりと、近年ますますヘルメットの重要性が注目されています。5000円〜で買えますし、災害にも役に立つのでひとつ持っておくといいと思いますが、レンタルを利用するという手も。

参考:別冊ランドネ「アウトドアで防災BOOK」ランドネNo.103特集「イイ山とイイ湯」

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山登りを始めて13年目。年月を重ねても、ガイドさんや研究者の方からお話をうかがうたびに、自然を見る目の解像度をもっと高める必要性を思い知らされます。好奇心をもって、よく見て、学び、想像することで、もっと山を好きになれるし、安全に楽しんでいけるはず。2020年もいっぱい山に登って、山が好きな方といっぱいお話しできたらいいなーと思います。

みなさま、よいお年をお迎えください。

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