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臆病な女子にライセンスを! 第17話 もうすぐ卒業

(T)「次は、矢倉さんの運転ですよ、準備してください」
(矢倉)「はい、大丈夫です」
(T)「佐藤さん、停車可能な場所に停車してください」
(佐藤)「はい」

佐藤さんと矢倉さんが教習車から降りて、右手でハイタッチしてる!
矢倉さん元気を取り戻したね
どんな運転をするのかな、楽しみだよ

(矢倉)「準備できました、出発してもいいですか?」
(T)「あらためて矢倉さん、初めまして、よろしくお願いします」
(矢倉)「ああ、よろしくです!」
(T)「では、矢倉さん発進できるタイミングで出発してください」
(矢倉)「了解しました」

矢倉さんの運転が始まった
私の左側に座った佐藤さんは、身を乗り出して矢倉さんの運転を観察してる
ルームミラーに映る矢倉さんは、アスリートの真剣な眼差しをしてる

メリハリのある加速と減速、減速前にルームミラーを確認して、交差点への素早い目配り…
バスケットの試合をしている様だった
自動車以外の歩行者や自転車にも、パッと目配りして様子を確かめている

矢倉さん、運転上手だよ!

(T)「矢倉さん、車間距離の取り方が上手ですね、常に速度に見合った距離が取れてますよ」
(矢倉)「Iさんには、3秒以上の間を取るように教わりました」
(T)「3秒ですか、バスケットのルールにもありましたね」
(矢倉)「はい、その感覚で運転しています」
(T)「その3秒が、ルームミラーへの目配り時間に余裕を生んでるんですね」
(矢倉)「自然にできるようになりました」

佐藤さんが、身を乗り出して何かやってる
変顔?
やめなさいよ、まったく子供じゃあるまいし…

(矢倉)「佐藤さん、私がミラーを見るたびに、変顔しないでくれる!」
(佐藤)「ばれてたか…あはは」
(矢倉)「真剣モードなんだからね!」
(佐藤)「はーい!」

(T)「矢倉さんの運転は、きびきびしていながら、車間距離に余裕があって、急なブレーキを踏むことはないと思いますが…」
(矢倉)「ありがとうございます」
(T)「佐藤さん、後部座席に正しい姿勢で座っていないと、急なブレーキの時に顔にケガをしますよ」
(矢倉)「ほら、怒られたー」
(藤原)「Tさんの言うとおり、顔に傷がついたら大変だよ」

しぶしぶ、後部座席に腰を据える佐藤さん
私のほうを見て、舌をペロッと出して見せた
変顔で矢倉さんをリラックスさせようとしたんだね

(佐藤)「Tさん、卒業検定まであと何日乗るんですか?」
(T)「今日を含めて、3日ですね」
(佐藤)「ええ!たった3日ですか!」

そうなんだ、卒業まで3日しかないのか…
Tさんとの教習は、あと何回あるのかしら
そう考えると、卒業するのが寂しく思えてきた

Tさんという男性の横で過ごしてきた時間が愛おしく思えた
タイヤの向きがどうなるか気にしてたなんて、とっても遠い過去のよう
大した会話をするわけでもなかったけれど
Tさんの優しい気遣いに、難しい運転がどれだけ楽になったことか

そう言えば、1段階では時々ハンドル補助をしてもらってたのに
2段階では橋の上でのハンドル補助だけ
久しくTさんの手を見ていないな…

右後部座席からは、助手席のTさんの姿が見える
膝の上に置かれた、Tさんの手が見える
夏の日差しで焼けた小麦色の手の甲は、ムダ毛が目立たず中性的

『一度でもいいから、触れてみたい』

初めて抱く男性への感情
心拍が少し上がる
顔が火照る
目が潤む
胸が熱くなる

残り少ない日数が、より一層その感情を湧きたたせる

『こら、自分!教習中に何考えてるの!』

そう言い聞かせた
言い聞かせるほど、Tさんへの意識が高まる
横にいる佐藤さんにバレないように、うつむき加減にしよう…

運転と同じように私の気持ちは、Tさんに分析されるのかしら
そうだとしたら、Tさんはどう思ってくれるのかしら…

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