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文学・詩歌

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文学関連の記事や詩論、詩歌および押韻詩
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#和歌

日本語の韻律論:75韻律の謎について

 こんばんは。Sagishiです。  今回は、日本語の「75韻律」の謎について書いていこうと思います。  日本人にとっては非常に馴染みのある韻律ですが、その内情・仕組みというのは実際のところ謎に包まれている、ということを書いていきます。 1 「75韻律」の謎1-1 科学的アプローチの不足  「75韻律」は、万葉の時代(7世紀頃)に成立した、日本の詩歌における韻律型式の1つです。「75韻律」は、日本の詩歌においては支配的な韻律型式であり、俳句や短歌など、複数の詩歌のスタ

詩型論:「複数音制約」と押韻詩型

 こんばんは。Sagishiです。  今回は、前回書いた「複数音制約」と絡めて、日本語の押韻詩の詩型論を書いていこうと思います。連載記事的な。 1 前段/モーラリズム 以前書いた詩型論では、日本語の二重韻律構造をもって、韻律定型を構築することの難しさを記述しました。  しかし、結局のところ日本語はモーラリズム言語なんだから、モーラを基礎韻律単位として詩型を構築するしかない、と考えを落ち着けました。よって今後は、どのようにしたらモーラリズムを使って詩型を構築できるのかを考

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詩型論:日本語の押韻詩の詩型に関する考察

 こんばんは。Sagishiです。  いよいよ押韻詩の詩型に関する考察をしていきたいと思います。 1 詩行の音数 最初から残念なお知らせですが、現在のわたしは、現代日本語東京方言を使った詩歌で、詩の一行の音数を決めることは事実上不可能だと考えています。理由を以下に列挙します。 1-1 韻律単位の問題  現代日本語東京方言は、モーラリズムの言語ですが、話中では軽音節(1モーラ音節)と重音節(2モーラ音節)が任意のタイミングで出現します。  現代日本語東京方言の自然な日

なぜ和歌は57韻律なのか・長短律の機能に関する考察

 こんばんは。Sagishiです。  今回は、和歌の57韻律(長短律)について考察をしていきます。 1 なぜ和歌は57韻律なのか 以前、わたしは「和歌が57韻律なのは漢詩の影響ではなく、日本語の特性に由来すると考えたほうが妥当だ」という主張の記事を書きました。  わたしは、これまで繰り返されてきた「神学論」的な議論からは早く卒業しないといけないと思っています。ゆえに、何かを主張するさいにはその根拠を明示して、議論を生産的にしたいと思っています。  「漢詩影響仮説」が正

和歌の57韻律は漢詩の影響? 「漢詩影響仮説」の反証材料をあげる

 こんばんは。Sagishiです。 「日本の和歌の韻律が5音と7音を基調にしているのは、漢詩が5文字と7文字だったからだ」という俗説をたまに見かけます。  一見それっぽい主張で、昔の文学者の小論にも上記のようなことが書かれていることがあります。  果たして、この俗説は正しいのでしょうか。この記事では、この俗説を「漢詩影響仮説」とし、反証となる材料をいくつかあげていきます。 1 57韻律に固定されていない歌謡がある 『万葉集』の巻一は「初期万葉」とも呼ばれますが、天武天