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「もう同じ気持ちで愛せない」-2021/11/01

午前中、手術に向けCTスキャンを受けに病院へ。でかい機械の下で横たわってそれでおしまい。

あんまりない体験なので、なにか書くことあったらいいんだけど何もないから仕方ない。村上春樹が「世界はつまらなそうに見えて、実に多くの魅力的な、謎めいた原石に満ちています」と言っていた。まあ、そうかもねと思うが、僕にはささやかな日常の機微をキャッチする才能がない。

ラジオなんかでもエピソードトークができる人はすごいなと思う。小さな出来事をお話として成立させるのすごすぎ(盛ってるという意味でなく)。あと情景を話せるのすごい。その情景をトレースして言葉で描写し直すというか。頭で思った感想しか喋れないかも。こういうものって技術として学べるものなのだろうか。

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お気に入りのソフォラを眺めていたら、なにかあることに気づいた。

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半透明のビーズみたいなのあるじゃん。


これなに?




ナメクジの卵らしい。


は?


きもすぎるのだが。




きっしょ。


数日前に植物への愛を語ったばかりだが、もしプランターの中からナメクジが出てきたら…

土にマヨネーズをかけて、全ての植物を屋上から投げ捨てる。

もうそうすることしかできない。



というか、植物自体もきもくなってきたな。

ごめん。でも嘘はつけないよ。お前がまさかナメクジさんのすやすやベットだったとはな。もう昔と同じ気持ちで愛せない。悪いけど。結局葉っぱじゃねえか。葉っぱ風情がよ。馬鹿が。

うきうきで可愛い植木鉢を探してた時間も今となってはむなしいよ。これも全部お前のせいだからな。ナメクジを抱えたまま愛されようなんて、ずうずうしいにも程があるだろ。おぞましい。お里が知れるな。ちょっとは自分の頭で考えようとしなかったのか? 考えることができたはずだ。その猶予は十分に用意されていた。ただお前はそうしなかった。それが答えだ。もう何も言うことはない。二人の時間は凍りついたまま粉々になったんだ。鍵をおいて出ていってくれ。二度と顔を見せてくれるな。

そう吐き捨てて、男は重たいドアを勢いよく閉めた。そしてそのドアはふたたび開くことはなかった。

やがて厳しい冬がやってきた。吹きつける風は何もかもを凍らせ、大地からは色が失われた。男にはむしろそれが心地よかった。

それから男は植物を育てようなどと思わず、ひっそりと孤独に暮らした。

時が経ち、男は死んだ。看取るものは誰もいなかった。そのことに気づくものさえいなかった。死体はぐずぐずに腐り、やがて朽ち果てた。


男の亡骸のあとには一輪の美しい花が咲いたという…。


(fin)



落ち着くか。

ちょっと落ち着いてきた。


卵か。きしょいな。これから命が誕生すると思うとよりきもいな。命きもい。無限の可能性を持ったきもさだ。割り箸でほじくって探したけど、土中にまだ潜んでるかもしれない。

成虫のほうがマシだ。成虫のきもさを100だとしても、駆除すれば一瞬で終わる。卵のきもさは8ぐらい。ナメクジの卵、見た目はそんなきもくない。消臭剤の中身みたいだから。

だが四六時中、僕の精神にべったりと張り付く。いくら楽しい時間を過ごしても、ナメクジの卵は胎動を止めることはない。頭の片隅には、まるで呪いのように、小さな卵が鎮座し続ける。


ハァ…ハァ…


もう寝るか。寝ることしかできない。ナメクジの卵の前に人は無力だ。Amazonで効きそうな薬剤を買った。人間は愛を取り戻せることができるのだろうか。答えは風の中。友よ、その答えは風に吹かれているのだ。


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